第24話
「おはようございますウロサマ! さあ、起きてください!」
無理やりシーツを剥がれた。
別にすぐ起きたのに。
「おはよう黒貌」
彼女は人の好さそうな笑顔を見せた。
「おはようございます!」
カーテンをくぐると、既に統率班のメンバーが待機していた。
別に話を聞きに来たわけではないようで、各々の仕事に集中している。
「にゃ、にゃる様! 資料運び終わりましたっ!」
いつも通り、
多分緊張している。
「わぁありがとうございます流司サマ! じゃあお外で待機してもらえますかぁ?」
「はっはいっ!」
目を他に移す。
摩那十は工作がメインだ。彼の粘体で模型を作って、それを見ながら本作業をするらしい。
ずっと黙って作業している。
「では、作戦を伝えますよ~! ナギササマはこちらへ。書記をお願いします!」
「お任せください」
どんな内容なんだろう。
ワクワクドキドキだ。
「さて、ではメンバーから行きます! 心して聞いてくださいね」
「わかった」
「ウロサマ、燈篭サマ、カイサマ、にゃる、そしてイサササマです!」
総勢5人。言っていた通り少数精鋭だ。燈篭はわからないけど、他は抜きんでた実力を持っている。
まぁそれはいいんだけど……
「イササが居るのか……」
「おや? 何か思うところが?」
「きら……苦手なんだよね、あの人」
実力は信用できるが、別に託したくない相手No.1だ。
何でこんなに嫌悪感があるのか、自分でも理解できない。
それについては申し訳ないと思っている。
「うーん、どうしましょう? 先生と変えますか?」
「いや、作戦に支障は出さないよ。判断には理由があるんだろうし」
「助かります! では、流れの説明に移りますよ!」
それにカイもいるし、何とかなるだろう。
少し気になるのが燈篭と言う人物。
確か偵察班のリーダーで、語尾が”にゃー”の人だ。
特徴的だから覚えている。
「結構日は明後日の早朝。イサササマと燈篭サマが先行して向かいます。50m離れた時点で、ウロサマ、カイサマ、にゃるが後を追います」
「分かれるんだ」
「はい! 屈指の戦闘力を前に出して、邪魔する物を消し飛ばす! その後を追いながら、テレパシーで偵察! もしもの時はカイサマに守ってもらいましょう」
「それで、その後は?」
「先行隊が、学校で悪魔を発見した時点で撤退。いない場合は探索します」
「なるほどね。異論はないよ」
「ですか! では、メンバーの皆さんに伝えてきてください! テレパシーは無しで!」
「……え」
「えってなんですか。顔合わせの大切さ、理解してますよね?」
いや、わかるけど。
相手を知る事は連携の素早さに繋がるから。
「じゃ、いってらっしゃい! よかったですね、久しぶりの太陽光ですよ!」
煽られている気がするが、今は無視。
とりあえずは目の前の問題だ。
腹立たしい事に、私は黒貌に監視されている。テレパシーを常時展開しているせいで、それ越しに自分の行動がバレてしまうのだ。
つまり、挨拶は必ず、しなければならない。
みんなの奴隷とか言っていたが、全然反逆されている。
……嫌な物から終わらせよう。
イササの場所をテレパシーで探す。
どこか戦闘に行っていればいいのにと、そんな訳がないと知っておきながら願う。
ああ、居た。どうも現在は、拠点の外周を回って見張りをしているようだ。
正面から近づく。
「イササ先輩」
「おぅ、ウロじゃねぇか」
「こんにちはウロちゃん~! 最近見なかったけど元気してた? ご飯ちゃんと食べてる?」
「親戚のおばちゃん見たいな絡み方すんなよっ!」
ほら、これだ。
こいつらは、私がこうして思考に耽っていてもまだ会話を続けている。
『おばさんじゃないし~』だとか『神様だったら長生きしてるだろ』とか。
クソどうでもいいから早く要件を言わせてくれ。
「あの」
「おっと、すまねぇ!」
「ごめんね~
「お前のじゃねえよ!」
今の必要あったか?
ないよな?
頼むから黙っていて欲しい。
「明後日、遠征するんで。詳しい事は黒貌に聞いてください。それじゃ」
「あ、おい!」
こういうのはさっさと退散するに限る。
次はカイの所へ行こう。
癒しが必要だ。
またテレパシーで居場所を探す。
といっても、彼女の場所は大体決まっている。
物置小屋だ。
「こんにちはカイ。ちゃんと働いて、る……?」
5日振りに見た彼女は、酷い事になっていた。
「カイ様~このリンゴをどうぞぉ!」
「こっちの肉も旨いっすよ!」
3人の女子を侍らせて椅子に座り、串で焼かれた魚にかじりついている。
「ウロ! 最近見なかった……」
しかし、私を見るなり立ち上がって駆け寄ってきた。
「ああ、色々あってね……それより、この状況は何?」
「対価。眷属を貸し出した代わりに、働いてもらってる」
「いつの間にそんなシステムを……気が付かなかった」
「ちゃんと拠点維持の為にも働いている」
彼女が指をさしたのは、物置小屋の横。
補給班の場所だ。
そこではチモ先輩が、口から米を吐き出していた。
「うおっぷ。これで、3日は持つかな……?」
ああやって出してたのか、食料……凄い能力。
感心していると、チモ先輩の横に、黒く小さい人型が現れた。
「あれ、カイ運んでたやつじゃん」
「ん」
見ていると、チモ先輩が出した食料類を水で洗い始めた。
「あれは無償でやってる。有償なのは個人的にやりたい事に貸した時」
「なるほどね……」
もしかして、この拠点内で先生、にゃるに次いでカーストが高いのはカイじゃないか?
食料、見張りもありがたいが、直接わかる助けの方が信用は得やすいし。
いつの間にか置いて行かれた気分だ。
「ああ忘れてた。明後日、5人で学校の偵察に出るんだ。カイがそのメンバーに選ばれたよ」
「え……わかった。調整する」
「調整?」
「予定詰まってる。詳しい事、明日聞かせてほしい」
「いいよ、わかった」
それだけ言って、彼女は物置小屋に帰っていった。
なんだか、置いて行かれた気分だ。
私が知らない間に、随分な事業拡大している。
ま、まぁ。私は拘束されていたんだから仕方がないけど。
次が最後、燈篭って人か。
この人だけは顔見知りではない。
例によってテレパシーを使うと、ものすごい勢いで移動している思念があった。
なんだこれ。
拠点に向かっているが、テレパシーが通じると言う事は悪魔ではない。
とりあえず、何か確認しようと顔をその思念の方へ向けた。
白い影だ。
何故か四足で走っているが、人型。
もしかして燈篭さんか?
(燈篭さんですか? ウロです)
「にゃっ! こいつ、直接脳内に…!」
(用があるので、こっち来てくれますか?)
「任せにゃ!」
と返事があってすぐ。
土煙を纏って目の前に現れた。
「自己紹介がまだだったにゃ。アタシは3年生”白虎”、燈篭にゃ!」
「白虎……? 四神のですか?」
「その通り! あたしは白虎になれるんにゃ!」
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