第23話

 日常は過ぎていく。

 何後もなく、ただ平穏に。


 無論、私は事件を起こさなかった。

 起こそうと思って起こしているわけでもないけど。

 悪魔の襲撃はないし、テレパシーはずっと黒貌に繋げている。


 次第に警戒は緩んでいった。


 入り口から見える夜空を見上げた。

 私はずっと本部テントに居て、太陽の光すら浴びていない。


 「疲れましたぁ……」


 そう言って黒貌はテーブルに突っ伏した。

 今この場にいる人間は、私と黒貌、そして先生だけだ。

 このメンバーはもはや固定されている。


「そう? じゃあテレパシーやめたほうがいいね?」

「やっぱり私は元気満タン! いつでも動けるみんなのにゃるちゃんです!」


 完全に信用された訳ではない。

 ただ、彼女たちが目を離す時間が大きくなっていった、というだけだ。

 いまだに自由時間もくれない。


「一体いつまで見張られるのかな、私は」

「……黒貌、いつまで、だ?」


 先生も流石に思うところがあるみたいだ。

 だってもう、5日だぞ。

 

 正直なところ、脱走して1人ぶらり旅も考えるくらいだ。

 先生が怖いからやらないけど。

 

「え? 地球に戻るまでずっとですけど」

 

「……人権って知らない?」

「ここは地獄なので適用されませーん。そうじゃなくてもウロサマは要警戒対象なんですから」

「どういうこと、だ?」

「前にも言いましたけど、人の秘密を全部暴いちゃうんですよ、テレパシーって。コンプレックスから生死にかかわるものまで。管理しないと危険ですよね?」

「……」

「それは他の能力も一緒、だな」

「いえ、違います。1人人間が暴れたところで、出せる被害は限られています。それは物理的なモノですから、いつか止まります。しかしテレパシーは精神的なモノ。現在の人類サマでは止めることが出来ません」

「……なるほどね」


 彼女の言っている事はわからなくもない。

 能力者が暴れても、核を打ち込めばそれは死ぬ。

 しかし私はそれすら感知できるし、そもそも私の存在を特定できない。

 頭の中では声ぐらい余裕で変えられるし、ネットのように逆探知はできないからだ。

 

「でも安心してください、ウロサマ。先も申し上げたように、アタシはみんなの奴隷です! ちゃんとメンタルケアも考えてあります!」

「聞かせてもらおうか」

「はい。現在この拠点は、動く必要性がありません。カイサマによる水、チモサマによる食糧で、籠城は無限にできますから」

「だね」

「その上で、その上でですよ。学校に戻りましょう!」


 学校に、戻る?


「幾らでも耐えられるからと言って、ずっと地獄に居る訳には行きません。なるべく早急に帰りたいですよね? ……学校を襲った大翼の悪魔は、ピラミッドに居ました。なら現在、学校にはあまり悪魔がいないのでは?」

「……確かに、な」

「でも、居たらどうするの? そのまま帰って来る?」

「はい、だから今回は偵察です。少数精鋭で向こうまで行き、様子を見るだけ! その少数のなかにウロサマを入れましょう!」


 いつの間にか、私の趣味嗜好がバレていたみたいだ。

 危険でも好奇心に勝てない、というのが完全に分析されている。


「まずウロサマ。どれくらいテレパシーの範囲はどれくらいですか?」

「半径200mの球体」

「なるほど、ありがとうございます! ではそれで計画を練って、明日発表します。では今日は解散!」


 それだけ言って、先生と黒貌が向かい合う。

 計画の内容を、さらに詳しく詰め始めた。

 明日、要点をまとめて解説してくれるだろう。今聞いても仕方がない。


 私は、自分へ用意された寝床に座った。


 まぁ、文句はない。

 こんな能力で、外に出してもられるだけ優しい、とも思う。

 過小評価されがちだが、屈指の危険性を秘めている。

 怪しまれる事にはなれているし、こんな目に合う事も想定していた。


 客観的に自分を見ると、テレパシーを持っている割にはいい生活を送っている。

 もっと差別や嫌悪に塗れていても仕方がないのに。


 今、私の為に出来る事は少ない。

 せいぜい拠点の見張りをして、信頼度を稼ぐだけだ。


 

 ゼブルくんを飛ばし、夜の遠隔散歩をする。

 最近の暇つぶしは滅法これだ。ゼブルくんをつかった徘徊。


 全部黒貌に漏れているので変なことはできないが、景色を眺めるくらいはできる。

 

 今日は三日月。

 ピラミッドでの遭遇を思い出してしまった。

 激闘の末に倒して、再生したアイツ。

 ……もしかして、悪魔を食えば食料問題解決か?


 いやいや、毒のある種もいる、と確か誰かが言っていた。

 あまりにも危険すぎるだろう。

 ……でも割と気になる。味とか、栄養素とか。

 そもそも再生はどれくらいするんだろう。

 無限にする、とかではないんだろう。流石にその情報も得ていないのは無い。


 もしかすると、巨大な悪魔だけに共通する特徴かもしれない。

 これまで復活してきたのは、大顎、掌、大翼……どれも巨大、もしくは強力な悪魔。


 最近、ずっとこんな事を考えている。

 考えるしかやることが無いのだ。


 まあでも、明日になったら状況が変わるんだろう。

 とりあえず今は待つばかり。

 

 あー、早く朝にならないかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る