第16話

 悪魔と合流するのはまずい。


 情報を伝える為、先ほどの男をテレパシーで探す。

 人のいない状況だ。見逃すはずがない。


 5人の人間。

 ちょっとした好奇心で、別の視界をのぞき込む。


 そこに居たのは長身の男。青く長い髪、筋肉質の体。そして、横で物理的に浮いている黄色い女。

 

 なんだこいつ……。

 いや、今は呆れてる場合ではない。


(すみません、東から悪魔が来ています!)

(うおっ、テレパシーか。ああ、わかってるぜ。俺達はそれを確認しに来たんだから)

(そしたらキミから連絡来たの! 運が良かったねー!)

(はっ?)


 何でテレパシーに割り込める? というか誰だ今のは。

 ……もしかして、横の女か?


(今南にいるんでしょ? 距離分かる?)

(……はい。1キロ弱です)

(おっけぇ、任せろ! 悪魔より速いぜ、俺は!)


 正直疑念が尽きないが、今はいい。

 コイツと合流した後でじっくり問い詰めよう。


 距離を確認してついでに、大翼の悪魔も見ておく。

 

「やばいです! もうシルエットが形成されている!」


 まずい。

 戦闘後なのだ。体力が付きかけている。

 精神的にも、身体的にも。


 足の動きが遅くなっている事を認識した。

 でも、走らないと死ぬ。


「……っカイ、大丈夫?」

「……自分で、走る」


 枷になっていたことは否定できないので助かる。

 しかし、問題は彼女の精神面。


 ケアしないと、いずれ壊れる。

 木の枝に邪魔をされながら話しかけた。


「声聞こえないって、言ってたけど、他は出来ないのっ?」

「他……爪」


 カイが手を前に出すと、鋭利で長い爪が現れた。


「……おおっ! すごいっ!」

「そりゃ、よかった。ついでに前の木を伐り飛ばしてもらえる?」


 うんと力を籠めて彼女は加速し、進行の邪魔になる物を全部切り倒していった。


「すごいな、カイ……」


 大翼の悪魔は、もはや翼が出来上がっている。

 想像を超える再生力だ。


 そいつから逃げていても、別の悪魔が寄って来るし。

 

 とりあえず今は、走る。

 地獄に来てからずっと走っている気がする。

 理由もずっと変わらず、生きる為。


「はぁっ」


 息が切れる。

 どうにも、さっきの体のつもりで動いてしまう。

 体力管理ができていない。


 酸素不足か、だんだん周りが認識できなくなる。

 白っぽく、彩度を失っていく。


「ウロ、合流までどれくらい!?」

「――――あ、後、300mくらいです」

「全然近い、頑張ろう!」


 激励をくれているのは分かるが、先輩と私達じゃ基礎から違う。

 周りを見ると、クルア先輩以外は顔面蒼白だ。

 彼女はしっかり訓練を受けて、学年2位の実力者かもしれない。

 しかしこっちは入学初日からこれだ。勘弁してほしい!


 ――駄目だ、イライラで当たりそうになる。

 けどそのお陰か、エネルギーが復活してきた。


 ああ、急がないと。


 もう、大翼の悪魔は復活してしまった。


 けど不思議なことに、私達を追いかける様子がない。

 ピラミッドの周りを飛んだり歩いたり、ずっとうろうろしているだけだ。


 大量に現れた悪魔もピラミッドに着いた。

 しかし、そこで何かをするわけでもない。

 きょろきょろして、不思議そうにしている。


 一体何が起こっている?


「ああ、もう着きます――」


 そう私が告げると、右側から悪魔が飛び出した。

 サイズは2mくらい。

 大きい物を見すぎて、こいつが小さく見えてくる。


 奴は私達の真上について、そのまま降下し喰らおうとする。


 が、叶わない。


 ――光線が、彼のすべてを焼き尽くしたからだ。


「大丈夫か! 俺が助けに来た!」


 着いたのは、味方の方。

 

「イササ!?」


 クルア先輩が叫んだ。どうやら知り合いみたいだ。


「お前もいたのか、クルア! 友達が生きてるとやっぱ嬉しいな!」

「友達じゃない!」


 どういう関係なんだ、この人達。


「とりあえず今は逃げようよ! ピンチなんでしょ?」

 

 浮き光り女が仲裁に入ったおかげで、彼らは落ち着いてくれた。


「悪い。全員揃ってんな? じゃあ行くぞ!」


 そういって、イササと呼ばれた人物は歩き始めた。

 足が速い。

 私達は追いつくので精いっぱいだ。


 聞きたい事が山ほどあるが、会話に酸素を回せない。

 今は逃げることに全集中だ。


 しばらく経って前を見ると、太陽の光が差し込んでいた。

 

 もうすぐだ。


 もうすぐ落ち着いて、やりたい事が出来るようになる。


 自然、私達は足を速める――



 そして、森を抜けた。

 見えたのは広い空と大地。

 雲1つない晴天。地面には申し訳程度の低木。

 

 開放感がすさまじい。気分爽快だ。

 視界を遮る木の葉はなく、歩みを止める根っこはない。

 じめじめもしていないし、最高だ。


「ここまでくれば大丈夫だろ。一応確認できるか?」


 彼は私達を見て言っている。


「……あぁ、安全ですよ。悪魔の影も形もない」

「そっか! それわかるって事はお前がウロなんだな」


 一瞬、心音がはねた。

 別に意図してはないだろうが、鎌をかけられた気分だ。

 

 この乱雑そうな見た目と喋り方に似合わず、洞察力は高いらしい。


「ありがとな、伝えてくれて! お陰で人を助けられた!」

「いえ、必要だったので」


 心を隠して近づく。

 テレパシーを使える私は、本音を隠すのが得意だ。

 

 世の中には、言ってはいけない事がある。

 誰もが思っていても、誰もが言わない暗黙の了解。

 それを言ってしまうと、好感度が下がってしまう。


 稼いだ方が有利になるので、それを下げる言葉は使わないんだ。


「俺はイササ! 能力は”アマテラス”! これからよろしく」

「私はウロです。能力は”テレパシー”。よろしくお願いします」


 例えば、私は太陽が大嫌いだ、とかね。

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