第15話
裂かれる瞬間、彼は声を上げなかった。
体は2つに分かれて、地をまき散らす。
何も言わず、ただ倒れる。
もはや、ただの固体。
蠅が止まった。
「や、やった――!」
クルア先輩の声が聞こえた。
初めて悪魔と戦った割には善戦した気がする。
MVPはチヒロになってしまうんだろうけど。
「よ、よく倒せたねこんなの! なんか凄い姿になっちゃったけど、凄いよ!」
興奮しているクルア先輩は珍しい気がする。
まあ、気持ちはわかる。
正直、私だって鼓動が――鼓動が?
心臓無いな、この体。
いつ元に戻るんだろう。
「ねえ見た? ボクの活躍! 惚れたよね?」
悔しい事に、今回ばっかりは言い返せない。
私一人だと相打ちがせいぜいだったし、こいつのおかげで生き延びられた。
(ありがとうチヒロ。お前がいないと無理だった)
「お、おぉぉ……? そっか、今ウロはこの姿なんだ……まぁ、アリだね」
「何が!?」
絶句。
まさかコイツがここまで飢えているとは。
一周回って哀れになって来る。
(カイもありがとう。徹頭徹尾活躍してたね)
(うん)
そういえば、神から彼女の心を読むなと言われていた。あれは何だったんだろう。
また次のお告げで聞くか。
前回は反応してくれたし、いけるだろう。
「でもごめんねウロ。化け物にまでさせちゃって」
(気にしないでください。私はこの姿を気に入っています)
「気に入ってるんだ……でも、私が昼間も戦えたらそれですんだことだしね」
彼女は自嘲気味に笑いながらそう言いのけた。
自覚しているのかしていないのか、物凄い自身だ。
暗に『私なら余裕で勝てた』と言っているのだから。
問題は、昨日の攻撃を見ていたら否定できない事。
気が付けば体は溶けて、人間の体に戻りつつあった。
素晴らしい事に、服も一緒に再生されている。
これでチヒロのセクハラを受けずに済んだ。
(なんだ残念――)
「いたぁっ」
最後に残った触手でひっぱたいておく。
よく考えたらまたこの姿になれるのかも不明なんだし、今できることは今のうちにやっておかないともったいない。
それにしても、今回は運が良かった。
大翼の悪魔に襲われた時は諦めかけた。けど、意味の分からない事が起こったおかげで勝てた。
夢を見て、タコさんと出会って、契約? させられて。
多分契約でもらった力なんだろうな。
なら、どうにかして変身できるのだろうけど。
どんどん体は戻っていく。
頭はもう髪の毛が伸びるだけだし、4本の足は統合された。
ただ、内部がまだ戻っていないのか、喋る事は出来ない。
「あれ、あれ――?」
(ん、どうしたの、カイ)
「神様の声が、聞こえない……!」
聞こえない?
今、急に?
(戦闘中は聞こえて――)
「みんな! 悪魔が、再生してるっ!」
――は?
疑問符が尽きない。
いつ聞こえなくなったんだ?
大翼も再生するのか?
悪魔全体の能力なのか?
駄目だ駄目だ。
謎ばっかり増えていって、一向に解決されない。
段々腹が立ってきた。
「時間はかかりそうだけど、上半身から体が……!」
声を聴いて思い返す。
呆けている場合じゃない。
何か対処法を探さないと。
ゼブルくんはいつの間にか、悪魔の死体から私の肩へ乗り移っていた。
休憩中悪いが、まだまだ働いてもらう。
遠くへ飛ばし、偵察をさせる。
「ピラミッドに入ってもいずれ殺される! 森の中へ逃げましょう!」
皆が頷いて走り始めた。
カイはショックが大きいようで、立てていない。
「ほらカイ! 逃げるよ!」
「なんで……? 言う事聞かなかったから……?」
言う事は聞いていたが、不可抗力で出てしまっただけだ。
もしそれで起こったのなら、大分狭量な神様である。
とりあえず、カイは私が背負った。
軽い。
「ウロ、行くよ!」
クルア先輩が呼んでいるので、その方向へ走る。
同時に、テレパシーも使う。
対象はゼブルくん。
彼の視界をまた見せてもらう。
そこに映っていたのは、悪夢だった。
「ウソでしょう……」
思わず一瞬、足を止めてしまった。
「ウロ!?」
「――悪魔が来ます! 数えきれないほどの!」
見えたのは、無数の悪魔。
木をなぎ倒し、川をせき止め、ピラミッドがある向きに直り、走っている。
「ど、どうするの!? ボクもう無理だよ!」
「とにかく、少ない方へ走ろう!」
私が先導して走る。
木の根が邪魔だ、蹴り飛ばす。
葉っぱも邪魔だ、振り払う。
ストレスがマッハでかかる。
しかしそれと同時に、何か引っかかる部分がある。
ここまでの流れは、全て一緒なんだ。
戦闘して、再生。そして大量の悪魔。
だから何か、何かあるはず。
この現象の原因が。
考えたい。解き明かしたい。
けどその他すべてが邪魔をする。
私の身を守らないと、何もできない。
優先順位を考えて、正しい行動を選択しないと。
行先を決めるのに、ゼブルくんの目が必要だ。
テレパシーで位置を掴む。
そして、気が付いた。
反応が、6つある事に。
人間だ。
(聞こえますか! SAS1年生、九津呂木ウロです! 助けを求めます!)
(え、えぁ!? なんだこれ!?)
(っテレパシーです! そういう能力!)
(ごっごめん、助けが欲しいって言ってたな、どこに居る!?)
(……すみません! そこから南です!)
(おっけ、任せろ!)
喋っている間に、ゼブルくんの視界を使って位置を特定しておいた。
「人間発見しました! このまま北上すれば合流できます!」
「えっえぇ!? 人!? 今このタイミングで? 悪魔はどっちから来てるの!?」
「……北東です!」
このままだと、悪魔とも合流してしまう。
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