第8話
クルア先輩の能力はものすごい物だった。
火力、珍しさ、派手さ。どれをとっても申し分ない。
素晴らしい。
「でしょう? 月の光量で力が変わるの」
「光量か! 出せる物はどうなんです? 剣だけ?」
「月の模様の物なら何でも出せる」
月の模様……。
ぱっと思い浮かぶのはやはり兎だ。餅つきをしていると奴。
思い返してみれば、兎の足も生成していた気がする。
「すごいですね……私もそんな派手な能力使いたいなぁ」
「ウロの能力も役に立ってるけど」
「そうですけどね。やっぱり攻撃系には憧れます」
「少年の価値観」
「よく言われます」
会話を切り上げ、蠅の視界にシフトする。
この辺り、いよいよ動物がいない。
ぽつぽつ見かけた蛇も虫も、この辺りではまったく見つけられないのだ。
居たといえば、クルア先輩が倒した5匹の悪魔だけ。
流石に違和感がある。
蠅をさらに上空に進める。
高度に限界があるのか、進むにつれて遅くなっていった。
しかし何度か休憩をはさみつつ、なんとか木の葉の屋根を突破する。
「うわぉ、これは――!」
あまりの衝撃に、口から声が漏れてしまった。
「なに? どしたの?」
クルア先輩の疑問に答えようとして思いとどまる。
これは実際に見てもらいたい。
「すごい発見をしてしまったかもしれません」
あまりにも抽象的な答え。
当然、全員が疑問符を頭に浮かべた。
今度は私が先導して目的地に向かう。
道の邪魔をする木の枝は鋭くなっていて、かき分けるたびに傷がつく。
血は出るし、痛い。
近づくにつれ、樹林が深くなっていくようだ。
明かりはなく、木の根で足を取られてしまう。
体力を消費する。
しかし、”それ”をこの目で見たいという気持ちだけで前へ進んだ。
やがて、樹林はなくなった。
そこは晴れた土地。一片の木も草もなく、ただ広大で平らな場所。
ただ、中心に坐する物が1つだけある。
それは、白いピラミッド。
学校と同じような光沢を放っていることから、金属で出来ている事がわかる。
横幅は都会で群像するビルに似て、高さは三階建てのマンションぐらいだろうか。
「これ、何か聞いてます?」
「……いや、私たちは知らない」
冷や汗をかきながら、クルア先輩が答えた。
ふむ、先輩も知らないか……。
蠅を飛び回らせて、何か生き物がいないか確認する。
「でもここならボクの能力使い放題! 悪魔が何体来ても守ってあげるよ!」
なんでこいつ上から目線なんだ。
「悪魔、人間、その他動物……全部いません」
「動物がいないのはこれが原因、かな」
「そうだとしても、どっちが先なんでしょうね」
「先って?」
「これが嫌だから金属に近づかないのか。金属が嫌だからこれに近づかないのか」
「……なるほどね」
「そもそもこれ誰が作ったのかな? もしかして悪魔!?」
「悪魔って、文明あるのですか?」
「聞いたことない。でも、人間がここに作ったのなら記録されているはず……」
みんな好き勝手に興奮し始める。
知らないものがあると、いい方向にも悪い方向にも興奮してしまうのが人間だ。
私も興奮が止められない。
「自然に生成された!」
「無い……切り開かれた場所」
カイの言う通り、ピラミッドの周りは草木一本生えていない。
樹海の侵攻は強いと聞く。つまり、誰か管理している者がいるのだ。
それによくみると、ピラミッドの一部に獣道がつながっている。
そこから中に入れるのだろうか?
けど、引っかかるところがある。
「このピラミッド、ブロックで出来ていない。底辺から頂点まで溝なく繋がってます」
「ほんとだ。人間じゃこのサイズの物を作れないよね」
「……能力かも」
「自然に出来た物を利用している、という説もありますけどね……情報が少なすぎる。中に入りたい」
「わかる!」
でも流石に、この状況で探索は愚策だ。
雨風を凌げると言う名目でワンチャンあると思ったが、私だって命は惜しい。
まず地球に帰って、案内という名目で付いていくしかないな。
「とりあえず離れましょう。管理している奴が戻ってくるかも――」
と、言おうとしたところで、音が鳴った。
また、轟音。
一定のリズムで、地に叩きつけるような音を出しながら近づいてくる。
しかも、それに加えて木が倒れる音もある。相当な重量級だ。
緊張が走る。
全員が、音のなる方へ集中する。
木の倒れる瞬間が見える。
地面の揺れを体で感じる。
呆気にとられ状態から、臨戦態勢へ移行する。
そして、現れた。
木をなぎ倒して、踏み潰して。
見た瞬間、ダメだ、と思った。
これは、違う。
色が違う。大きさが違う。重さが違う。
形態が、違う。
基本は悪魔なのだ。
しかし、体全体を地に伏している。大きさは、平均的な一軒家一個分くらい。口は頭の後ろまで避け、小さい目が上向きに付いている。悪魔だと翼が生えている部分が大きな掌のようになっていて、これが降るだけで私は死ぬのだと理解した。
手は見えず、足は横に伸びている。思わずカエルを連想した。
絶望のような、感動のような感情を抱いている間に、その手が降る。
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