第7話
チヒロって男かよ!
思わず跳ね退いて距離を取る。
「えっ何どうしたの」
彼は驚いた顔をして聞いてきた。
その顔をしたいのはこっちの方である。
「チヒロ、私の能力はテレパシーなんだ」
「……あっ」
「どうしたん?」
私の急激な動きに、クルア先輩が疑問を持ったようだ。
「いや、ボクは男って事隠してないし?」
「えっ男なの? こんなに可愛いのに」
「そうなんだよねーボクが世界一可愛いばかりに、勝手に勘違いされて困っちゃうよねぇ!」
「なんでそんな自己評価高いの……」
まぁ、何か被害を出したわけじゃない。だから許せる。
けど警戒はしておく。
当然だ。
「……チヒロの世話役はどこにいったの?」
「あー……逸れたんだ」
(女の子を助けてモテるために彷徨ってたら、ね)
本当にテレパシーがあってよかった。
(そういうことか)
(あっ)
私は言う。
「これは、悪魔に何もできなかった言い訳なんですけど」
「ん、何?」
「テレパシーが通じたら最強なんだ、私」
「はい……」
とりあえず無力化に成功した。
話を切り上げ、偵察に集中する。
視界が、高い場所からの物に切り替わった。
ハエだ。
操作方法は簡単だ。
向かいたい方向に「餌がある」という思念を送る。
それだけ勝手に飛んで行ってくれた。
「今のところ、近くに悪魔とかはいません」
「えー、ボクの格好いいとこみせたいんだけどなぁ」
肘打ちをしておく。
「とりあえず探すものは食料と水場、あと雨風をしのげる場所ですね」
(私……水出せるよ)
「ああ、逃げる時にカイが水出してたね。問題は食料か……地獄の動物、食べられるのかな」
「悪魔はやめておいた方がいい。毒持ってるやつもいるから」
「なら蛇とか食べる事になりますね……」
「えー、絶対ヤダ!」
「文句言うな」
この辺りには動物が少ない。
木々が邪魔をして見られていない可能性があるが、数えられる程度の数だ。
(私の……触手)
カイの触手、って――
ああ、あれか! 巨頭の悪魔を倒した時に使ってたやつ!
「あの触手、食べられるの!?」
(……最後の手段)
「本当に最後の手段だな……」
彼女の能力は”神との交信”だった。
なら神の一部か、神の眷属とか権能とかその辺りになるだろう。
いろいろ問題が起きそうだ。
「……まぁ、とりあえずは”衣食住”の”住”を目的地にしましょう。こんな滅茶苦茶な地形なんだし、簡単に見つけられる」
「だね。その後なんだけどさ、別の学校に向かおうと思う」
「別の学校、ですか?」
「うん。SASは全国にあるからね、近くのゲートを使わせてもらおう」
クルア先輩の提案に否定する理由はない。
私たちは頷いた。
「ここの近くにも幾つかあったはずだよ。正確な場所はわかんないけど、ゲートの位置関係は地球と同じって聞いてる。だから、だいたいね」
「ある程度近づけば、私のテレパシーで見つけられます。ではその方針で行きましょう」
目的が決まったところで再度歩き始めた。
私は片目を閉じて、蠅であたりを確認しながら。
みんなには護衛のような陣形になってもらっている。
クルア先輩、私、チヒロ、カイの順だ。
チヒロは信用できないので、一応後ろにカイをつけさせてもらっている。
どうもこの世界の動物は軒並み多くなっているようで、近くに居たらすぐわかる。
そのおかげか、蠅みたいな小型生物は大体無視されここまで生存できた。
たまに食虫植物を見かけるので、無理やり引き戻して回避させる。
所詮蠅。どれだけ失おうと損害はなさそうだが、学校に持ってこられたのはこの一匹だけだった。
地球に戻る方法が今の所ない以上、貴重すぎる偵察機だ。
(っ。右に悪魔です。小さいですが、複数……5匹居ます)
テレパシーで皆に伝える。
目に映る悪魔の背丈は、デルコマイより少し大きいくらい。
さっき襲ってきたものを見た後だと小さく見える。
彼らの様子を確認し、息をひそめる。
しかし段々、様子がおかしくなっていった。
頭を持ち上げ、鼻をすんすん動かす。
きょろきょろあたりを見て、何かを見つけようとしている。
(あー……警戒してる。これバレますね)
私を中継して、蠅が見ている映像を見せた。
みんなの様子を確認すると、クルア先輩が天を仰いでいる。
その目線の先にあるものは、青々と光る満月。
彼女はニヤッと笑った。
「おっけ。私がやるよ」
(了解!)
テレパシーで了承の意を伝え、私たちは後ろに引く。
「私だけ能力見てもらってない。悪いけど、君たちは犠牲になって?」
大勢の悪魔の攻撃を、全部捌いていたのは知っている。
”月読み”と、唱えた後、剣が出現した事も。
ここにいる奴らは、全員ユニークな能力を持っている。
能力名の神だって、伝承が少ない。
どんな能力なのか、楽しみだ。
物思いに耽っている内に、彼女は進み始めた。
音を抑えることなく、誘うかのように堂々と。
当然、悪魔たちは気が付いた。
しかし、感知したのは音だけではない。
クルア先輩は、光を纏っていた。
淡く青く、しかし強く。
悪魔たちは勢いよく走りだし、背中の翼を広げて彼女に飛び掛かる。
「”月読み”――剣」
そう呟いて刹那、クルア先輩の纏う光が彼女の前に収束した。
光は剣を形作り、悪魔を五匹一度に切り払う。
どうみても、学校で見た物より火力が高い。
先ほどの事を思い出す。
彼女は月を見ていた。
それと関係あるのだろうか?
考えていると、彼女は振り返って行ってきた。
「どう? 格好いいでしょ」
「すごかったです!」
これもまた珍しい能力。
思わず声が大きくなってしまった。
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