第6話
「っわかった。それまでの足止めは私がやる! 「は――?」
理解できない。
「ウロ、何があったの!」
「図書館が、潰されました!」
クルア先輩の疑問へ答える。
あれは、ゲートを占拠をしていた大翼の悪魔か?
振ってきて、図書館を破壊したと?
じゃあチモ先輩はどうなった?
図書館にあった、無数の意識。
ポツリポツリと消えて行く。
「駄目です、助けは来ない! 逃げましょう!」
「逃げるって、どこへ!?」
「この学校の外、地獄に!」
「危険!」
「それしかありません! 今ここで戦っても勝てない!」
カイたちは、今も足止めしてくれている。
しかし勢いは向こうにあって、徐々に距離が詰められている。
水球から生成したモノも、カイの鉤爪も、もうボロボロだ。
「……でもどうやって逃げる!?」
「カイの爪と、白髪の人の能力で柱を壊します!カイと……名前聞いてないや! 交代!」
「チヒロだよ!」
位置が入れ替わる。
「”ツクヨミ”――剣!」
淡い光が、クルア先輩の前に収束して剣を形作る。
「おぉ……いや、違うな。カイ、チヒロさん! 柱を破壊します!」
「了解!」
彼女の能力も興味深い。ぜひ近くで見ていたいのだが、そんな場合ではない。
「チヒロさん、複数生成できますか?」
「できるよ! 限界はあるけどね!」
今もクルア先輩が戦っている。
時間がない。
大切なのは想像力と、それを伝える能力。
想像なら得意だ。数多の弱点を見続けてきたから。
伝える事なんて、テレパシーの十八番だろう。
想像したイメージをそのまま伝える。
柱の右斜め前の――とか。
ドッジボールくらいの体積の――とか。
文章じゃ到底伝えきれない情報を与えられる。
(おけ……!)
「了解!」
チヒロさんが能力を発動する。
現れたのは、杭の形。
そのまま柱に突き刺さり、ひびをいれた。
「もう一声、だね!」
とどめは私のとび膝蹴り。
水球に生成された杭へ向かって勢いよく実行した。
体重すべてがのしかかり、杭は突き進む。
結構大きめの音が鳴って、ひびは広がり続ける。
「おおぅウロちゃん、だっけ。結構アグレッシブ……」
「よく言われます。クルア先輩、引いてください!」
彼女の方をみると、多数の悪魔相手に無双していた。
近づいてくる悪魔を、いつの間にか生成していた槌で飛ばし。
その隙に近くの悪魔を剣で斬りさく。
この繰り返しで戦っている。
つっよ。
「おっけぇ。”ツクヨミ”――兎足!」
そう言うと、彼女の足が兎に似た。
実際の効能もそれらしく、一介の跳躍でこちらにたどり着いた。
「もう倒れます! 急ぎましょう!」
私たちは走り始めた。
正直に言うと、逃げるしかない、というのは言い訳だ。
図書館に生き残りが居るかもしれないし、そもそもゲートに大翼の悪魔がいない。ならそっちに行くのが正解かもしれない。
でも、好奇心を抑えることが出来ないのだ。
私たちを襲う謎があって。それを知りたいと思ってしまって。
都合のいい言い訳が出来てしまった。
ならば行くしかないのだ。
テレパシーがなかったとしても、此処に居る人間が考える事は一緒だろう。
能力を持って生まれた、変な人間だ。
多かれ少なかれ、何かが狂っている。
悪魔に背を向けて走る。
図書館に背を向けて走る。
あれを気にしている暇はない。
ただ私たちを支配するのは恐怖と好奇心。
この、絶望的な状況をどうにかしたい。
だから、今何が起こっているかを知る必要がある。
人類と私たちとの、ただ一つの共通点。
ふとあたりを見てみると、それは血の海だ。
生き残りの視界を借りてみると、悪魔の腕が目の前にある。
靴が血で滑る。誰かの何かを踏む。
後ろからの大きい足音。
目の前に広がる樹海。
横から殴るような悲鳴。
体が熱い。頭に血が回っていない。
どれくらい走ったのかわからない。
目の前が暗くなる。
まるで地獄への通り道のようだ。
そう、だからまた、光が現れる。
淡い光。太陽もそうだったが、地獄でも天体の運行は変わらないらしい。
それは辺りを照らし、世界の姿を露にする。
先輩方が言っていた。
ここには、悪魔以外も存在すると。
黒く、鎌が四本生えた蛇。空を飛ぶハエトリグサ。
見たことのない動物が、無限に存在している。
「想像以上に、ヤバっ……!」
彼らは私たちを認識すると、わき目も降らずに襲ってくる。
ハエトリグサが、翼のように進化した葉を広げて威嚇する。
しかしあっけなく、カイに切り裂かれた。
「さっさと安全なところを見つけた方がいいですね、これは!」
足に絡みついた草をほどき、みんなに伝える。
あたりを見渡すと、木が階層構造のようになっている場所もあった。
「……」
沈黙が場を支配している。
チモ先輩の事だろう。
逃げる時は興奮していて、あとも先も考えていなかった。
しかし、今は冷静になっている。
あの時の行動は正解だったのか? とか、そんなとりとめのない事を考えてしまうものだ。
どうしたものだろう。
こんな時にこそ、明るい人に居てほしい。
葉をかき分けて歩く。
この場所は典型的な熱帯雨林気候。じめじめしていて、暑い。
学校を出る時に見た辺りを照らす月は、樹木に覆い隠され見えない。
体力と精神力が削られていく。
しかも、だ。
悪魔だけじゃなく、そもそも地獄の生物にテレパシーが効かないらしい。
今のところ、私は完全なお荷物だ。
「――シャッ!」
風を切る音が聞こえた。
振り返ると、翼の生えた蛇が口を開けて向かってくる。
しかしカイに処理された。
「ありがとう、助かったよ」
「いい」
ヘビが襲ってきたので、襲撃は5回目くらいだ。
地獄の生物は血気盛んなようで、逃げる、という事をあまりしない。
ただ、樹海の深くに進んでいるからか、襲撃の頻度は下がってきている。
「そろそろいいかな」
私はそう言って、カバンの中からカプセルを取り出した。
「カプセルの中に……虫?」
クルア先輩が反応してくれている。
自慢するように手を出して、ふたを開けた。
「地球で捕まえておいた、蠅です。コイツの視界なら見られるので、私の代わりに偵察してもらいましょう」
「へぇ、感心。用意周到だ」
「向こうでもよくやってたので」
「えっ、それで何してたの!?」
急に食らいついてきたチヒロさん。
そういえばこの人の事をあまりよく知らない。
「ん……よく考えたら自己紹介をしていない! ボクは1年のチヒロ! 反射したものを実体化できるんだ!」
胸に手を当てて自分の名前を言った。
「ふーん……クルア。2年生ね」
「アッ先輩……ごめんなさい、よろしくです」
「敬語は別にいらないよ。気にしないし」
「じゃあよろしくクルア!」
「なにコイツ……」
「あれ? じゃあよく考えたら皆も2年?」
「私とカイは新入生だよ」
「そっか! 同級生同士仲良くしようね!」
そういって、チヒロは肩を組んできた。
こいつ、距離の詰め方が異常すぎる。
「それよりさ、テレパシーって色々悪用できるよね……例えば――」
何か違和感を感じる。
カイと同じくらいの身長だが、なんだか感触が違った。
少しだけ、ほんの少しだけだが妙に角ばっているような……。
(やった、女子だらけのハーレムパーティだぜ!)
……?
……
!
こいつ男か!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます