第1話
「人類サマ、おはようございます! みんなの奴隷、
満員電車の中、甲高い声が耳に響いた。思わず、ちゃんとイヤホンが耳に刺さっているか手で触って確認する。
スマホの画面に目を移すと、そこは明るいステージの上。
中心で動き回りながら、黒髪ツインテールの女の子がきゃぴきゃぴ喋っていた。
「魔物が出現してはや数十年……最近は『黙示録』とか『法典』とか、わけのわからない単語が出てきて混乱しますよね? そんな愚かな皆サマの為にわかりやすーく情報を整理したので、ぜひ最後までご覧ください! さあ、行ってみましょう!」
周りに人がいる中でこれを見るのは結構恥ずかしい。せめてもの抵抗として、声が聞こえるギリギリくらいまで音量を下げた。
「2042年。もはや存在しないと断定されていたネッシーが出現しました。その姿は、まさに古代生物プレシオサウルス! 興奮した人間は、UMA発見に熱を入れ始めました。チュパカブラ、ツチノコ、ビッグフット……こーんな奴らからあーんな奴まで、あらゆる未確認生物が発見されていったのです! それを境にUMAブームが巻き起こり、人も動いてお金も動いて、人類総幸福状態でした!」
画面に映っているのは、当時撮影されたUMAの画像。
ボケた物からはっきり写ったカラー写真まである。
「でも、ただハッピーなだけ、なんてわけがありませんよね?」
ステージが暗転した。
「世界各地に、魔物が出現し始めたのです。最強のドラゴンから、最弱のスライムまでピンキリに! 奴らは家を壊し人を殺し、人類に多大なる被害を及ぼしました。しかも恐ろしいことに、銃や爆弾などの兵器が効かず、大変苦戦を強いられました……」
燃え崩れたビルの前で、オーガやハーピーの立ち絵が動き回っている。
昔の記憶を思い出して気持ちを静めていると一転、ステージがまた明るくなった。
「しかしそこに救世主が現れます! 名は『特異能力者』。神から力を預かった人や、アニメのような能力を操る人たちの総称です。彼らは急速に数を増やし、魔物を殲滅していきました! 怒涛の快進撃、もはや世界に敵はいない!」
腕を何本も生やした女性が、4つの顔と8つの腕の男を切り殺している姿が映る。
見ていると映像が切り替わって、水を槍にしてオーガを貫いている男性になった。
「……と思ってたら
また画面が暗転したと思ったら、黒貌にゃるだけが現れた。
「そんなこんなで、人類は早急に魔物対策を進めました! まず作ったのは”対魔十字軍”! 世界各地の能力者を集めて、今も魔物から人類を守っています!」
カメラがどんどん彼女に寄っていく。
「で、大事なのはここからです! 彼女らは対魔十字軍の後進育成のため、学校を設立しました。特異能力育成学校、通称
「小金駅~小金駅です。お降りの際は足元に――」
電車のアナウンスに黒貌の声がかき消される。私はポケットにスマホを入れて降車した。
ホームの屋根の間から漏れる斜光が、私を刺す。
思わず目を瞑ってしまい、得られる情報は音声だけとなった。
「ちなみに。私も今日からそこに通いまーすっ! あっ」
なんかとんでもない爆弾発言をしていた気がするが、正直耳障りなので動画を止めた。
目的地に向かって歩き始める。
改札を出て、2番出口に向かった。
朝早い時間なので、人ごみに揉まれる。
しかも前の人物は背が低い。
私が高身長なのもあって、なかんか目立ってしまった。
そのまま流れに乗り、駅からでる。瞬間、天日の元に晒された。
目がいいせいなのか、私にとって太陽光は刺激が強すぎる。
すこし俯いて歩く形になり、自然につむじを眺める事となった。
ちょっと気まずい。
歩いていけば、次第に人の群れから解放される。
ただ背の低い娘とは目的地が一緒のようで、縦に並んで移動している。
歩幅の差か、彼女を抜かした。
その時にちらっと見えたのだが、こいつ歩いてない。
足元に台を置いて、それを黒くて小さい人間のようなものに運ばせている。
何かの能力だろうか?
「
女性の声で目的地の名前が聞こえた。
思考から現実へ意識を戻して、そちら向く。
黒髪を後ろにまとめたお姉さんがアナウンスをしていた。
言われるがまま向かう。
「九津呂木ウロです」
「はい、九津呂木さん……確認しました。ビルに入ったら、誘導してくれる人に従って進んでください」
頷いて、ビルの方へ向きなおした。
高い。視線を上げて確認すると、20階くらいはありそう。
ただ、横幅と奥行きが広いわけではない。
体力トレーニングでランニングがあると聞いているが、いったい何処でやるんだ?
考察しようとして、何時までも突っ立っていたら邪魔になると思いなおした。
いつの間にか前にいた緑髪の男性に付いていこうとすると、さっきの小さい娘が横に現れる。
まだ台に乗っている。
案内人らしき男性も少々驚いているようだが、直ぐに立て直して誘導し始めた。
個性的な人間になれているのだろうか。
3階くらい登って、廊下を歩き始める。
まだ台に乗っている。階段はどうやって上がったんだ?
気になる。
(まだ付かないかな……)
思わず心を読んでしまった。
しかし彼女にとっては日常なのか、特に台について言及する様子はない。
「ねぇ。私、九津呂木ウロって言うんだ。君の名前は?」
「……? 流音カイ」
「カイ、これからよろしく」
(なんで喋りかけて来たんだろう)
いきなり怖がらせてしまったようだ。
しかし気になるだろう、台に乗って移動する女の子。階段も登れる。
「なんで喋りかけてきたの?」
「えっああ、いや、それ能力なのかなーって」
まさか聞き返してくるとはおもわなかった。
動揺して不審者みたいな喋り方になってしまったし。思った事全部言っちゃうタイプなんだろうか?
「うん、私の能力。神様とお話しできる」
「能力なんだ? 力貰ったんじゃなくて」
「そう」
預言能力とはまた珍しい。
ただ今の情報だけだと、彼女を運んでいるのはその神様って事になってしまう。
喋りかけようとして、緑髪の男性が停止したことに気が付いた。
「こちらをお進みください」
「え、ここ?」
カイが驚くのも無理はない。私たちは開いた扉の前で止まったのだ。
その先に明かりはなく、どこまでも真っ暗闇。どこに壁があるのかも、どこまで通路が伸びているのかもわからない。
「はい、ここです。ご安心ください。犯罪行為をするわけではありません。ただ、この道を歩む者に驚いてほしいのです」
どう考えても怪しすぎるので、天秤にかける。
彼の言う驚きと、身の安全……。
ま、私なら何とかなるだろう。
テレパシーを使わずに進むと決めた。
「ねえカイ。先行ってもいい?」
「いや……一緒に行ってほしい」
「……ん? わかった」
すごく豪胆だな、この娘。
言われた通りに歩き始めた。ただしカイと並んで。
流石に自分で歩き始めた彼女の身長はさらに小さくなってしまった。
140cmくらいのだろうか? 私と並ぶと親子みたいになる。
しかし彼女はそんなことを気にせず。ただ前だけを見て歩いていた。
瞳に映っているものは、恐怖なのか、期待なのか。
ただ間違いないのは、この先に待つ何かを見ようとする、その姿勢。
見習って、前に視線を移して歩く。
コツコツと足音だけが鳴り、他には何も聞こえない。
カイの呼吸音も、私の鼓動も。
次第に見えてきた、小さい光だけを頼りに歩き続ける。
コツ、コツ。
足並みをカイに揃えた。
光がだんだん大きくなって、走って今すぐ行きたくなる。
我慢しようとしても、落ち着かない。
彼女も私も、自然早歩きになる。
けどこの我慢が何かに繋がるとどこか確信しているのか、絶対に走りはせず。
前を見て、歩く。
光はもはや目の前にあり、暗闇になれた目をつぶす。
一瞬、目を瞑ってしまったが、横にある足音を頼りに進み続ける。
そして――
暗黒を超えた先にあったのは、異世界だった。
異世界。地球とは何もかも違う場所。
洞窟の中に出たのだろうか。何本もの石の柱が天井を支えている。
その後ろに見える光景は、地球のどこにもないものだ。
天を貫く山々。
螺旋を描く大木の中段からまた別の木が生えていて、自然の階層構造を作り出している。
視線をそのまま空に移せば、手と翼と足を持つシルエットが飛び立っていった。
「……は?」
少女と口がそろった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます