死ぬまであなたを愛してる
「僕の名前は、豆腐逃散々というんです」
彼はあのファミレスでそういった。豆腐逃、とは聞いたことのない苗字だ。ちりぢりという名前も変わっている。が、それは何度も言われて飽き飽きだと思うので、そこには触れなかった。
私は、その豆腐逃さんと仲良くなっていき、言ってしまえば好きになっていった。彼は少し不思議な人で、
「僕、子供が生まれたら自分の偽名をつけようと思うんですよ」
や、
「そう言えばあなたって,どんな男性がタイプなんですか?」
と、唐突にカミングアウトしてきたり,聞いてきたりする。そりゃもう、あなたがタイプですと言いたかったが、数年間家に引き篭もった女が答えられるわけはない。
とにかく、このままではまずい。そう思い始めた頃、というよりも、一昨日の話だ。その頃は、豆腐逃さんも忙しいのか、なかなか会えていなかった。いつも通り歯医者に行くと、小学生くらいの子供が、じっと私を見つめてきた。それどころか、話しかけてきた。
「おばさん、どうして僕の友達の名前を知っているの?」
「どうしたの?」
男の子は当然、とでも言うように,
「だって,トーフニガシなんて苗字、日本で一人しかいないと思うよ」
驚いた。なぜなら、私の唯一と言ってもいい友達の名を彼が口にしたからだ。というか、そもそもなぜ彼の名前を私が知っていることを、この少年は知っているのだろうか。
「ああ、彼って、おばさん、あいつの不倫相手か」
あいつ、とは誰か。それを聞く前に、いや、口にしようと思ったところ、少年が被せるように言った。
「田中賢、ああいや。豆腐逃散々さんは亡くなりました。ごめんなさい」
少年はため息を吐くと、座っていた場所に戻り、また腰掛けた。
遅かったのだ。豆腐逃さんは、私が好きになったばかりに亡くなってしまった。私は例の如く自決を自決したが、成功はもちろんしなかった。
死神 宇宙(非公式) @utyu-hikoushiki
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