あなたまで私は好きになる

 私は人を好きになりたくない。なぜなら、私が好きになった人は決まって、亡くなってしまうからだ。そのせいで、私の両親は幼い頃に亡くなり、私は遠い親戚に引き取られた。そこでは既に息子がいて、私には興味も向けられなかった。だから、彼らは死ななかった。

 もちろん、何度も自殺を試みた。しかし、嫌いな人は、逆に死ななくなるらしく、ことごとく失敗した。外に出ることすら怖くなり、一人暮らしを始めた。通信制の学校に通い、人と離れた暮らしをするようにした。もちろん、私も女子なので,体型を気にして家の中では運動はしている。誰に見せるわけでもないのにも関わらず、だ。


 今日は歯医者で、その帰りだ。久々に出た外は、思ったよりも騒々しく、耳を塞ぎたくなった。ストリートミュージシャンがギターを奏でている。二十代後半くらいだろうか。明るい音色が、私の心を照らして,影を作った。

「もう誰でもいいから

 私を愛して欲しいだけ」

 とんとん、と肩を叩かれ体を跳ねさせる。

「このハンカチ、落としましたよ」

 心地いい低い声が、私の心を締め上げた。私はこの時、確かに落ちたかもしれない。ハンカチではなく、恋に。などと考えて、気恥ずかしくなった。謝罪と感謝を述べて早足で帰るつもりが、いつの間にかファミレスに来ていた。いつの間にか、と言う表現は間違っているかもしれない。なぜかと言えば、それは私が「お礼に」と誘ったからに他ならない。

「何やってんだよ」と叱る私と、「よくやったよ」と褒める私が、心の中で別れる。どっちでもいいじゃない、とどちらかと言えば褒める私側の私は宥めた。

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