死ぬまであなたを愛してる

好きになるまであなたは優しかった

 私は、昔から人を好きにならなかった。いや、正確に言えば好きになりたくなかった。なぜなら、私が好きになった人はだんだんとクズになっていってしまうからだ。私の母は家庭内暴力を、父は酒に溺れて現実逃避を続けた。だからわ高校を卒業したら私はすぐに家を出た。初恋は、バイト先の先輩だった。その先輩は優しいことで有名だった。親のように,裏切られることはない。そう安心して付き合った途端、先輩はギャンブルにはまった。私の通帳がなくなった時、私は別れることを決意した。

こんな人生を過ごしてきて、私は人を好きになってはいけない。そう考えるようになった。

 ある時,私は考えた。元々クズを好きになればいいのではないか、と。そして,結婚したのが田中賢治だった。彼は,自分の実験と美人以外に興味はなく、しょっちゅう浮気をした。

「浮気をする時はコツがある。まずは偽名を名乗ること。そして浮気だと悟られないことだ」

と胸を張って言うほどだ。

が、それでもよかった。なぜなら、彼を好きになったのは紛れもない私だから。


「フィクションでもいいから

 嘘を吐いていてほしい」

 ストリートミュージシャンが歌う姿を横目に、私は通り過ぎようとする、が,足が勝手に止まった。歌う男の声は切なく、アコスティックギターの淡い茶色によく似合った。これはどこかのバンドのカバーだろうか。一人,弾き語りをする姿は,窓から眺める天気雨を彷彿とさせた。


 私が離婚届に判を押したのは、長女のなおが実験の失敗で亡くなってからだ。しかし,賢治は判を押すつもりもなく、私もやめた。だから、殺すことにした。この時のために,何年も待ってきた。実まで、これ以上辛い気持ちにはしたくない。

「だからさ,地獄で待ってて」

 ストリートミュージシャンは次の曲に行ったらしく、私も足を進めた。ふいに、あの夜のことを思い出す。

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