小学時代
死神と僕がページを捲る音と、テレビから流れてくるニュースの声が部屋に響く。僕は小学校の頃の日記を、彼女は僕が勧めた小説を、そしてニュースキャスターは「三日後はスーパームーン」と、特に緊急性のない話題を話している。僕が今開いているページには、
「たなかさんがきょうヘンなことをを言ってきました。しにがみが何とかかんとかあるらしいです。ちょっと怖かったです。」
と書いてあるが、よく思い出せない。
時折、小説を読む彼女は「おお」であるとか「まさか」というような驚きの声をあげるが、その度に恥ずかしさを伴った咳払いをするので、触れないでおいた。
「死神も感動するんだね」
「ああ。私も初めて気がついた」
死神、といえど根本的には僕達と変わらないのではないか。その時、日記に書かれた小学校時代の記憶が溢れかえった。
「君は、死神というものを知っているか」
「なにそれ」
ある時たなかさんはいきなり話しはじめました。
「ある男が、人を死神にする実験を行っているんだ」
「しにがみ?」
「ああ。死神になれば、生前の記憶は消される。ただただ人を殺すために生きるんだ」
「えー?そうゆーのって『ちゅうに病』だってお母さん言ってたよ」
そういうと、なかのさんはいやなかおをしました
当時の日記にはここまで詳細な田中のセリフは書かれていなかったが、たった今思い出した。田中は、中学校の卒業式前日に行方不明になってしまった。
今目の前にいる死神は、あの頃の田中ではないか。眼鏡を掛け、雰囲気は変わっているが口調や性格がそのままだった。
「この落とし穴、ここで生きてくるとは。見落としていた」
「おや、落とし穴だけに?」
「そう言う話ではない」
また淡々とした口調に戻ってしまう。今がこれなら、このままでいいのではないか。そう思ってしまうほど、高校以来の幸せを感じていた。
どうせもうすぐ死ぬのだ。この雰囲気を壊すこともなかろう。と、いうことで今日も口をつぐんだ。
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