今の僕たちの時代

「今日で最後だけど、何か感想は?」

 あの日から七日、つまり一週間が経とうとしていた。あと五分で、約束の時間だ。

「私には、人間を理解するには時間が足りな過ぎた。だが、自分なりの“楽しい”は見つけられた気がするな」

 あの小説もそこそこ面白かったし、と死神は付け加える。

「とにかく、そろそろ時間だ」 

「そういえば僕、どうやってやられんの?」

 と聞くと、彼女は懐からナイフを取り出した。刃の部分が少し長くなっている。

「それをいうのもあまりに野暮なものだろう」

 彼女の声を聞きながら、時計を見やる。残り一分だった。そして、今の僕たちの時代に想いを馳せる。夜の淡い光に照らされ、自分に守りたいことがあることに今更ながら気がつく。

 しかし、どちらかを守らなければいけない時は来なかった。そうして、僕が線路の上に立ったら、真っ先に助けてくれそうな人を考える。

 志村はどうだ?志村なら、助けてくれそうだ。田中は?田中は、「お前ならなんとかできるだろう」と言って、見放しそうだな。

 くだらないことなのに、噴き出してしまう。口から息が漏れるのと同時に、目からも水が漏れる。

 死神は再びナイフを取り出し、構えた。そして、死神はいつものように、抑揚のない声で言った。

「友達を殺さなければならない時、私はどうする?」

 口を開こうと思ったが、上手く動かない。体が死に怯えているのだろう。月明かりが死神の右腕を照らす。そこには大きなアザがあった。

「真っ先に私は、自死を選ぶね」

 そうして彼女は、なんの躊躇いもなく自分の首をねた。

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