中学時代

「これは、難しいな」

 こちらには視線を向けず、画面に目を向けたまま死神は言った。コントローラーを握り直す。今、人間というものを教えるべく、残りわずかな日々を死神と過ごしている。

 二日目の今日、僕は彼女にゲームを教えることにした。僕が今まで遊んできた中でも難しい、百匹近くの小さい生物を統制し、ある惑星を攻略していく、というものだ。

 しかし、彼女は難しいという割に、確実に僕よりは上手くやっていた。そこで、唐突に中学時代のある情景を思い出した。

 

「うわ、絶対こっちだと思ったのに」

「残念、ツキはこちらにある!」

「残るは私たちだけだな」

 とは言ったものの、僕たちはその後すぐに負けてしまった。今日は僕の家で、友達の志村と田中で、色々なミニゲームが遊べるパーティゲームをプレイしていた。今やっているミニゲームは、トロッコに乗り、分岐する三つの線路のうち、ハズレが一、二個あるので、それを選ばないように進もうというものだ。

「田中たちはさ、トロッコ問題って知ってる?」

「人の命を握るなら、どちらを見殺しにするか、というやつだろう?」

 言い方は悪いけれど、大体それであっている。

「ちょっと変えたんだけど、二人とも答えてみて」

 了解、おっけー、と二つの言葉が混じった。

「トロッコの片方ずつにそれぞれ、友達一人と、家族一人それぞれがいるとします。走るトロッコは止められませんが、どちらに進むかを選ぶことができます。さて、どっちかだけを助けられるってなったら、どっちにする?」

 ちょっと考えただけあって、二人とも悩んだようだ。

「私は間違いなく友達を殺すな。私が全員、私の友達を好きなわけじゃない」

 田中は相変わらず冷たいが、「友達」が志村なら、間違いなく志村を助けただろう。田中はそういう人であった。

「私は友達かなあ。っていうか、現実でそんな状況になったら走るトロッコに飛び込んで自決するね」

「それは無駄死にじゃないか?」

「まあたそういう冷たいこと言う」

 

「死神さんはさ、トロッコ問題って知ってる?」

「なんだ、それ」

 本当に知らない様子だった。のでこれも教えてあげることにする。

「じゃあ特別バージョンで。偽善者と、悪人しか殺さない殺人鬼の二人が、それぞれ別の線路に縛られています。そこのどちらかの上をトロッコは確実に走ります。そして、あなたは進行方向を変えれます。どちらを助けますか?」

 楽しみに聞いてみたが、「それは、上層部に依頼された方だろう。私たちがやらなければならないからな」と答えられ、やる気を失ってしまった。

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