死神
宇宙(非公式)
トロッコ問題
高校時代
「君は1週間後に私に殺されることになるだろう。まあ、人間と私のためだと思って我慢してくれ」
「…いやはや、最近の若者は血の気が多いですなあ」
眼鏡を掛けた女はあくまで無表情で、君は若者だがと言った。それは事実を述べるように淡々としていて、面白味に欠けていた。
「いや、マジの話なの?」
「正真正銘、マジの話だ」
マジの話でしたか。そういえばと、高校時代を思い出した。
「三十まで生きたら死にたいなあ」
「ええ、やだよ寂しい」
志村は変人の僕に、唯一付き合ってくれる友人だった。彼はクラスでもそこそこ人気なので、僕がいじめられっ子にならなかったのも彼女の存在が大きいだろう。
彼女は生まれつき,右肩から腕にかけてアザがあり、それを嫌がっていた。
伊達メガネをかけている人が、「度、入ってないんですね」と言われるように、自分も「アザがあるんですね」と軽蔑されてきた、と前に話していた。
「志村には僕以外にも友達がいるんだから」
「ええ、まだ気づいてなかったの?」
何が?としつこく尋ねた、どうも拗ねた様子で答えてはくれなかった。
彼女は高校を卒業したあたりで事故にあって死んでしまった。
「いや、たしかに三十で死にたいとは思ったけど!」
「なんだ、ならちょうどいいじゃないか」
「それは昔の話なんですよ」
「ていうか、あなたは何なんですか」
「私は死神だ。クライアントから貴方を殺せと言われたので来た」
にわかには信じられない話だが、嘘をついているような声でなかったし、先程から全く冗談を言わないので、おそらく本当だろう。少し前に、僕は五十万の詐欺に引っかかったことがあるため、人を見る目には自信がない。
「で、僕が死ぬまで一週間、何をすればいいんでしょうか」
女、もとい死神はまた面白みのない声で、「好きなことをすればいい。もっとも、自殺をしないように常に側について見張ってはいるが」
と言ってきた。前に志村が、
「教えるということは最高の贅沢なのだ」
というような事を、やはり満足そうに教えてきたのを思い出した。しかし、僕が志村に何かを「教えた」時、彼女は僕に「教える」時よりも生き生きとしていた気がする。
「君、よく“人でなし!”とか“血も涙もない!”とか糾弾されるでしょ?」
「ま、この仕事をしているとよく言われるが」
「だから、僕が君に人間を教えてあげるよ」
女は、この一週間でやるのか、と少し驚いたようだった。
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