第3話
AIを嫌う風潮は一過性のものではなく、その勢いを増していった。人々はAIが搭載されたものを投げ捨て、ハンマーで砕き、車で轢き、水没させ、炎で燃やした。それまでのAI信仰が夢だったかのような変わりように、わたしは唖然とすることしかできなかった。
人々は本気でそう思っているのか。それとも、姿の見えない誰かに扇動されているだけなのか。
どちらにせよ、わたしにはどうすることもできなかった。年は十八で高校三年生。受験に集中したかったタイミングで、流されるままになっていた。
だからといって、わたしはヘイローを破壊したいわけでもなかった。
そんなとき目に入ったのが、古今東西の本を蒐集し、保存するプロジェクトライブラリアンであった。南極の地下深くに埋められた金庫の中にはサーバーがあり、その中に電子的な図書館を構築するという書籍版ノアの箱舟のような計画。
そこは人間が管理するのではなくAIが管理することになった。もちろん反対はあったけども、何世紀何十世紀と本を管理しなければならない。そんなことができるのは、AI以外にいなかった。
そうして、AIが募集されることとなったとき、わたしは迷うことなくヘイローを送り出した。
わたしは様々な理由をでっち上げたと思う。本がたくさんあるような空間に未来永劫生きられるなんて幸せじゃんわたしも行きたいなあ、とかなんとか。……確かにわたしの望みの一つではある。でも結局は自分の身がかわいかったのだ。
人とAI間の憎しみは、いまにもはちきれんばかりに膨らんでいた。AIだけじゃない。AIを擁護する人間に対しても、憎悪の炎は向けられた。
だから、わたしはヘイローを手放した。ヘイローを壊されたくなかったから――ううん、違う。
ヘイローよりも、我が身が可愛かっただけだ。
唯一無二の友人を遠い地へと送ったのちに、わたしは大学生になった。あっという間の4年が過ぎ去り、もうすぐ卒業というところで、AIが宣戦布告した。
人間とAIとの戦争が始まったのである。
だけども、まるで現実味がなかった。SF小説の読みすぎで、幻覚を見ているのではないかと思ってしまったほどだった。
戦争。
銃弾が飛び交い、ヒトの柔らかな体をAIの硬い体を平等に貫き、あたりに血とオイルの臭いが漂う。そんな本物の戦争が地球の至るところで起きていた。いたるところにAIとAIの肉体をつくりだす施設があるのだから、当然だった。
戦火を免れた場所といえば、人類のいない、そしてAIもいない南極大陸くらいのものであった。
それを知ったわたしはホッとした。ヘイローが巻き込まれることはない。電子化された本が焼かれることもないのだ。
その時には大学院に進学しており、わたしは、対AI研究をやらされていた。それ以外の研究は許されなかった。従わなければ、何かしらの罪をでっち上げられて、逮捕されるからしょうがない。父さんがAI研究の第一人者だった関係か、命令に従っている限りは戦場に出ずに済んだ。
研究をしながら、ヘイローのことを時折思い返し、ため息をつく日々。
そんなとき、わたしは偉い人に呼び出された。
研究所の所長に案内された先は、霞ヶ浦であった。そこのビルの一室に案内された私は、政府高官と話をした。いや、彼が本当に政府の人間なのかはわからない。狐にでも化かされていると言われた方が、まだ信じられそうだった。
どうして、わたしが呼ばれたのか。
その疑問に対して、むっつりとしたその男が一つの事実を教えてくれた。
――AIのリーダーがヘイローであるということを。
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