Part7 デスマッチ

*ジェイムズ*


 加速が効きにくいラーテルだが、一度最高速度に達してしまえば、その大きさと相まって意外なほど速い。


 ラーテルはノクティス大迷宮の手前にある、広場のような場所に辿り着いていた。


 機長席の平面レーダーに、2機のウォーレッグを示す反応が現われては消える。


 マップによれば黒龍とキグナス1は、既にノクティス大迷宮に入っているようだった。

 追いかけようにも迷宮の谷間はラーテルが通るには難しい細さだ。


 ここが限界か。


「まだ撃つな。引き続き、目標を追尾しろ」


 ジェイムズは手短に指示を出した。


 俺達にできることは最早、レールキャノンを撃つことしかない。


 だがまだ2機は移動を続けている。


 レールキャノンを撃てば機体に何らかの不具合が生じることが、1発目を撃った時に確定した以上、2発目は何が何でも有効打を与えたい。


 せめて動きを封じてくれれば。






*ハイドラ*


 バーサーカーにしがみ付かれると同時に、ハイドラはイロアダイユニットを切り離した。

 もう一度尻尾切り戦法だ。


 そのまま重力に任せて一旦地上へ降りる。


 敵も学習している。


 ロケットアンカーを使わずに、奇襲で直接取り付いてくるとは。


 おかげでユニットをいわば人質に取られた状態になった。


 人質は、相手にとって重要な人物だからこそ、意味を成す。


 この戦いを終えても、まだアーガス本拠地での決戦が控えている以上、イロアダイユニットを失う訳にはいかない。


 ブラスターライフルでも、バルカンでも、ユニットを巻き込む恐れがある。

 事実上、射撃を使用不能にされたに等しい。


 近接攻撃で行こう。


 敵ウォーレッグが得物のバスターソードを失っているのは好都合だ。


 一瞬の思考の後、右手の武器をライフルからプラズマバトンに持ち替え、飛び立つ。


 同時にタッチパネルのコントロールパッドを操作し、イロアダイユニットを急激にローリングさせる。


 三回転した末に機体を横倒しで固定しても尚、バーサーカーは粘り強く手を離さない。


 そこに滞空している高さまで上がってきたハーキュリーズが、プラズマバトンを振り下ろした。

 相手だけを切り裂く、繊細な斬撃。


 バーサーカーはユニットに機体を密着させるように躱そうとするが、僅差でバトンの切っ先が背部を捉えた。


 あまりの切れ味に一呼吸遅れて敵ウォーレッグの背中が縦一文字に裂け、血飛沫しぶきのように火花が散る。


 流石にこれ以上の横転飛行は墜落の危険がある。


 敵を振り落とせないまま、イロアダイユニットは体勢を立て直した。

 その上でまだやれるとばかりに、バーサーカーが生まれたての子鹿のように立ち上がる。


 あくまで緊急手段ではあるが、イロアダイユニットは背部にウォーレッグを乗せて飛行することができる。


 手傷は追わせたが、引き続き射撃を封じられている状態は変わらない。

 やはり奴と同じ土俵で戦うしかない。


 ハイドラは覚悟を決めた。


 左腕シールドの先端を構え、ハーキュリーズを突進させる。


 シールドは先端が打突武器として使える。

 狭い場所ではプラズマバトンよりこちらの方が更に取り回しが良い。


 だがイロアダイユニットの上に飛び乗った瞬間、反撃が始まった。


 バーサーカー前腕部の装甲がスライドして手首を覆い、マニピュレータを保護するナックルガードになる。


 突き出されたシールドをアッパーカットで上に反らし、空いた胸部を狙って目にも止まらぬ速さでラッシュを見舞ってきた。


 やはり丸腰でなかった。


 コックピットのハイドラは上下左右に激しく揺さぶられる。


 狙いはここか。


 運動遮断コーティングに阻まれて装甲を貫通できずとも、パイロットにダメージを与えて突破口を開く気だ。


 だが奴は忘れている。

 ハーキュリーズからイロアダイユニットを遠隔操作できることを。


 ハイドラは何の躊躇いもなく、タッチパネルに触れた。


 ユニットが機体を左右に激しくバンクさせる。


 敵が身をよろめかせ、ラッシュが途切れた拍子にシールドで殴り付けた。


 足を踏み外しバーサーカーがそのまま真っ逆様に落ちていく。

 ナックルガードを解除する暇すらないようだった。


 しかし、苦し紛れに放ったロケットアンカーが、イロアダイユニットの上に立つハーキュリーズの足に命中した。


 サブフック先端が脛後部に回され、両足ほぼ全体を捕らえられる。

 これでは運動遮断コーティングの意味がない。


 ハイドラは咄嗟にバーサーカーとは反対側に身を投げた。


 スラスターは吹かさず、重力に引かれるままに任せる。

 不用意に使えばワイヤーが機体に絡まるという判断からだった。


 逆さに吊り下げられる格好になったハーキュリーズに、バーサーカーが即座に反応する。

 まずは機体を前後に曲げる運動とワイヤーの伸縮を併用して大きく勢いを付ける。


 ハーキュリーズはバルカンを撃つが、激しい揺れと相まって狙いが定まらない。


 その間に十分な運動エネルギーを得た敵が、満を持して殴り掛かってきた。


 振るわれる拳を、機体の前で両腕を縦に構えて防ぐ。


 弾かれたハーキュリーズは最低限のスラスター噴射だけで切り返す。

 その右手にはプラズマバトン。


 更に一瞬の噴射だけで微調整し、斬り掛かる。


 再び勢いを付けようとしていたバーサーカーは、これをワイヤー巻取りで回避する。


 プラズマバトンを空振りしたハーキュリーズにキックの追撃を浴びせれば、ハーキュリーズはシールドによる打撃で吹き飛ばす。


 イロアダイユニットの下にぶら下がった2機の動きは、ニュートンのゆりかごのような様相を呈していった。


 そしてハイドラは気付いていなかった。

 正確には気付いてはいたが、有効な対策を打つことができないでいた。


 イロアダイユニットが同じ場所を行き来していることに。

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