Part6 ノクティス大迷宮
*ジェイムズ*
弾薬庫からラーテル胴体左側の揚弾機に乗って、スーパーアロイ製の砲弾が出てくる。
レールキャノンの砲身が装填可能な角度まで倒れ切り、いよいよ装填作業の開始だ。
機体後部にはみ出しかけている尾部の、閉鎖機が開く。
専用キャブから装填手が操作するマニピュレータ・アームが、砲弾を掴みレールキャノンまで運んでいく。
アーム先端のマニピュレータが器用に回転して角度を調整、弾頭から尾部に押し込む。
マニピュレータが砲弾を離せば、後はレールキャノン機構部に仕込まれたベルトコンベアが薬室まで運んでくれる。
最後に閉鎖機を閉じれば、装填は完了だ。
『装填完了。行けます』
「機長了解」
装填手からの報告を受け、ジェイムズは次の段階に進む時だと判断した。
「操縦、砲手、目標を追尾。だが俺が撃てというまで、発砲は厳禁だ」
「操縦了解」
「砲手、了解」
新たな指示に併せて、脚が一本ずつ動いて、ゆっくりと旋回を始める。
レールキャノンが電磁投射兵器特有の逆三角形の砲身に、再び仰角を付け始める。
ラーテル本体を二人に任せ、"エキドナの子"が駆る白いウォーレッグと交戦中のウェンミンに通信を繋ぐ。
「ウェンミン、待たせたな。キグナス1を例の場所に誘い込んでくれ」
『了解……』
彼らしい素っ気ない返事で終わる。
それでいい。
口数は少なくても、仕事は確かなのがお前の良い所なのだから。
間もなくレーダーに映る2つの光点が動き出した。
ジェイムズが指示した場所は、マリネリス峡谷の西に存在する、無数の細い谷からなるノクティス
あの場所なら、直撃させられなくとも"エキドナの子"を死に追いやれる。
「前進だ! 安全な距離を保ちつつ、俺達も黒龍の後を追う!」
号令と共にラーテルが脚の人工筋肉に力を漲らせ、ゆっくりと歩き出した。
*ハイドラ*
ハーキュリーズが暗号通信の電波を傍受した直後、突然バーサーカーがロケットアンカーを解除した。
地上に降り立ち、ワイヤーを巻き取りながら脱兎の如く離脱していく。
こちらをどこかへ誘い出す気か。
だが奴を倒さなければ、ラーテルへの攻撃に集中できない。
ハイドラは誘いに乗ることを選んだ。
ウォーレッグ形態のまま、慎重にスラスターの出力を上げていく。
高速巡航形態や共振稼働を使えば小回りが利かなくなり、狭い谷間では却って不利になるという判断からだった。
敵ウォーレッグは峡谷の西側に向かっていく。
ナビゲーションシステムによれば、その先は迷路のように入り組んでいる谷からなるノクティス大迷宮だ。
身を隠して奇襲を狙うつもりか。
見失う前に仕掛ける。
幸い、空中から相手の位置を俯瞰できるこちらが有利だ。
腕部30ミリ電磁バルカン砲、エクスブラスターライフル、ブラスターランチャー――すべての射撃武装を選択。
地上へ向けて掃射を掛ける。
敵はまるでそれを予期していたかのように回避運動に入った。
撃ち込まれる銃弾を、左右に
誘導するように放たれるショートバレルモードの光弾を、敢えて応じる形で前進する。
前を塞ぐ大岩の手前を狙ったロングバレルモードのビームを、跳躍と宙返りで岩ごと飛び越える。
着地点に向けられたエクスブラスターライフルのビームは、ロケットアンカーを左の崖に撃ち込んでの着地点ずらしで避けた。
谷底は決して平坦ではないが、バーサーカーは降り注ぐ弾幕を的確に回避して見せた。
ノクティス大迷宮は目と鼻の先だ。
迷宮に入れば、隠れる場所が多くなる。
よもやの奇襲を受けてもおかしくない。
どうする。
このまま追いかけよう。
ハイドラは即断した。
奇襲のチャンスができるのはこちらも同じだ。
入り組んだ地形を最大限活用してやろう。
コンソールモニターにモーショントラッカーのディスプレイを呼び出す。
同時にナビゲーションシステムを起動し、マップをトラッカーのディスプレイに重ねる。
ハーキュリーズはバーサーカーを追う形で丁度狭い谷間へと入ったところだった。
スクリーンモニターの視界左右から、次第に岩壁が迫ってくる。
いよいよノクティス大迷宮に進入するのだ。
空中での運動性で優位に立つという方針は変わらないが、高度と距離は維持する。
距離を詰めればロケットアンカーを撃ち込まれる危険性があり、かといって高度を上げれば、見失う可能性が高くなるからだ。
攻撃を再開するが、すぐに撃つ・躱されるの繰り返しになる。
更に谷の幅が狭くなったことで、敵はロケットアンカーを織り交ぜた動きを多用するようになった。
当然崖にも射撃は命中する。
だが派手な爆発に比して成果は全く上がらない。
焦りだけが募っていく中、唐突に手応えが来た。
視界右下方にあった岩を、バーサーカーが飛び越えるのに合わせてエクスブラスターライフルを撃った時だ。
ビームが岩の上半分を吹き飛ばした直後、ディスプレイから敵機を示す動体反応が消えた。
爆発で立ち昇った砂埃で見えないが、おそらく命中したのだろう。
確認のため高度を落とし、反応が最後に出ていた場所に接近する。
動くものは何もない。
これで終わりか。
存外呆気ないものだな。
後はラーテルだけだ。
ハイドラはハーキュリーズに回れ右をさせ、来た方向へ引き返す。
その時のことだ。
ディスプレイに、再び動体反応が映った。
場所は自機の後方。
モーショントラッカーは、静止している相手を捉えることはできない。
相手はこの時を待っていたのだ。
出し抜かれたことに気付いた瞬間、背後からバーサーカーが飛び付いてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます