Part6 暗闇を征け!

*ハイドラ*


 スクリーンモニターには、暗視モードで緑色になった視界が広がっていた。


 ハイドラは地中から秘密工廠へ入るつもりだった。


 ハーキュリーズは今、土の中を掘り進んでいる。

 それもかなり強引な方法で。


 ロングバレルを再装着したブラスターライフルで、土を吹き飛ばしているのだ。


 一歩間違えれば機体が吹き飛ぶ荒業あらわざゆえ、ハイドラはブラスターライフルのパラメーターを細かく設定していた。


 ビームそのものの威力に関わる粒子量は10段階中の7。ハーキュリーズの反磁力パルスがどうにか耐えられるレベルだ。


 貫通力に関わる初速は同じく10段階中の1。

 重金属粒子は固体に当たった時点で拡散する。


 その拡散の範囲に関わる危害半径は3。

 ハーキュリーズが身を屈めれば通れるくらいの穴が空く。


 いずれも本来ならエネルギーレベルとして一括して設定されるパラメーターだ。


 半ば生き埋めになる格好から分かるように、高速削岩機と比べれば安定性も速さも落ちるが、幸い地中に潜ったことで敵の追跡を振り切ることができた。


 掘り進むことに集中できる。


 ブラスターライフルが閃く度、前方の土や岩盤が吹き飛ばされ、少しだけ空洞になる。


 どの方向を向いても同じ光景ばかりが広がっているが、ハーキュリーズのナビゲーションシステムは、秘密工廠の方角を正確に示してくれている。


 目標地点まで、残り1キロ。

 後はこちらの動向を悟られる前に辿り着くだけだ。






*ノゾミ*


 ノゾミは搭乗員の肉眼を含む、ジャターユスの索敵能力を総動員して、必死にキグナス1の行方を捜していた。


 幾度となくスキャンを繰り返すが、それらしい反応は全く出てこない。


 そもそも、敵ウォーレッグがどうやって姿を消したのかすら分かっていないのだ。


 いたずらに時間だけが過ぎていき、焦燥だけが募っていく。

 だが地上部隊からの一本の通信が、全てを変えた。


「第2小隊より通信。『バイブレーションセンサーに異常振動を検知』」

「何ですって!?」


 副操縦手の言葉にノゾミは思わず目を見開いた。


「続報です。『振動源は地中を北東へ向かって移動中』とのことです」


 北東と言えばポイントGのある方角だ。

 間違いない、キグナス1だ。

 方法は分からないし、知る必要もないが、地中を掘り進んで直接施設へ入ろうとしている。


 すぐに新たな指示を出す。


「機首レールガン、対地射撃準備。地上部隊へ通達。『当機がレールガンで砲撃を行う。ポイントGにマーカー設置後、弾着観測に就け。その後は追って指示する』」


 これが最後にして最大のチャンスだ。


 ビームプロジェクターではなくレールガンを選んだのは、前者は地表の建造物に高い効果を発揮する武装であるため、このままではポイントG地下に広がる施設への効果は乏しいと考えたからである。


 逆にレールガンなら、その貫通力で砲弾を地下へと送り込み、効果的に損害を与えることができるだろう。


 イヴリースの1機がマーカーを設置し、仲間の待つ安全圏まで後退する。


 マーカーは使い捨ての指令誘導装置で、攻撃者は装置が放つ信号へ向けて攻撃を行う。当然、誘導装置は攻撃に巻き込まれて破壊される。


 ノゾミは地上部隊による弾着観測と併用することで、砲撃の精度を可能な限り高めるつもりだった。


「データリンク、来ます!」

「了解よ。私と副操縦手で可能な限り機首レールガンの射界を維持するわ。誤差修正、チャージ完了次第、撃ち方始め」


 砲手の報告に事実上の砲撃許可を出す。


 ノゾミの目の前にHヘッドUアップDディスプレイの透明なパネルが起き上がる。


 表示されているロックオンカーソルは2つ。

 どちらもレールガン用で、砲手の操作に合わせて動く。


 ここまで来れば機長と副操縦手には、前部レールガンが最大火力を発揮できるよう、機首をポイントGに向け続けること位しかできない。


 ノゾミはジャターユスの操縦に全ての意識を向けた。


 操縦桿を緩やかに左へ。

 簡易レーダーディスプレイの中でマーカーの反応が機体正面に来る。

 砲手の操作に合わせて機体前方のレールガン2門が俯仰・旋回し、HUDでは2つのカーソルが反応の発信源の位置で一つに重なる。


 ジャターユス搭乗員達の目には見えていないが、地上部隊とのデータリンクを基に微妙な誤差の修正が行われる。


 HUDに"チャージ完了"のメッセージが表示され、安全装置が解除される小気味の良い音がブリッジまで伝わってくる。


 砲撃準備完了だ。

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