Part4 強行突破

*ハイドラ*


 前方に青白い光の柱がそそり立つ。

 ビームから逃れる鳥が空に黒雲を作り、仲間に危険を告げる獣達の鳴き声で周囲が騒然とする。


 完全に手の内を読まれていた。

 逃げ道を塞がれた。

 そんな状況に置かれても、ハイドラは戦う意思を捨てることだけはしなかった。


 逃げ道が無いなら作るまでだ。


 大口径ビームプロジェクターの接近を一時的に思考から追い出す。


 ハイドラは進路を塞ぐように現れた方のウォーレッグ隊にハーキュリーズを突進させた。


 座標へ向けて直進しながら応戦する。


 まず先行していたターマイトが正面から飛び掛かってくる。

 カウンター気味に突き出したシールドの先端部で、演算ユニットを正確に潰す。


 その隙を突いて、右側方から来た2機目に絡み付かれた。

 咄嗟にターマイトとの隙間に右腕を差し込み、伸ばす力で脚部を引き千切る。

 地面に落ちたところで左腕部バルカン砲でハチの巣にする。


 軽く飛び上がって、今の2機の指揮官機らしきイヴリースを右足で蹴り倒しながら着地、そのまま胸部を踵のリニアパイルで刺し貫く。


 1個小隊との戦闘は10秒で完了した。


 足は止めず、後方カメラの映像を別ウィンドウでスクリーンモニターに呼び出して確認する。


 五体満足のまま、胴体前部だけがへこんだターマイト。

 脚を失い、胴体に斜めの弾痕が走るターマイト。

 コックピットブロックに胸から背中を貫く穴を空けられたイヴリース。


 前方には残りのもう1個小隊。


 小細工などせず、プラズマバトンで片付けていこう。


 太腿部からグリップを引き抜き、金属粒子を充填する。


 ハーキュリーズは重戦車のように木々を薙ぎ倒しながら尚も前進を続ける。


 モーショントラッカーの一番近い反応の方へ向かうと、ショットガンを持ったイヴリースと鉢合わせした。

 敵は闇雲に散弾を乱射するが、運動遮断コーティングに全て阻まれる。

 すれ違いざまにプラズマバトンで真一文字に切り裂く。

 胸から上がその場から前に向かって落ち、続いて残りが後方に倒れる。


 次は左前方の樹上からターマイトが飛び込んできた。

 ハーキュリーズの勢いのままにプラズマバトンを突き出し、幹に縫い付ける。

 やはり胴体の演算ユニットを貫かれたターマイトは、観念したように人工筋肉製の脚を弛緩させた。


 残るはターマイト1機だけだが――モーショントラッカーが後方へ向けて離脱する反応を捉えた。

 どうやら後方の追撃部隊との合流を選択したらしい。

 態勢を立て直す気か。


 一先ひとまず当面の脅威は去った。目的地へ急ごう。

 目標地点まで残り12キロ。






*ノゾミ*


 ビームプロジェクターの照射は、何の前触れもなく終わった。

 光の柱が大地に沈み込んでいくように、唐突にビームが途切れる。


 地上にはジャターユスの進路に沿って植物も、動物も、全てが焼き払われ、黒く焦げた地面だけが残っていた。


 その終点でジャターユスが腹部のビームランプを保護するレンズシャッターを閉じていく。


 ブリッジでノゾミは、直接戦闘の惨憺たる結果に思わず唇を噛んでいた。


 キグナス1がこちらを視認した直後の行動から、戦闘を可能な限り避けようとしていると読んだまでは良かった。


 見誤ったのは敵ウォーレッグの戦闘能力だ。

 強行突破は予想の内だったが、まさか待ち伏せ部隊を30秒足らずで壊滅状態に追いやるなんて。


 だが同時に、敵がこのジャングルに降下した理由が分かった。


 キグナス1は、ノゾミ達が"ポイントG"というコールサインを与えた地点を目指している。

 地上部隊を展開して間もなく、人工的な空間への入り口があると報告が上がってきた地点だ。


 詳しい調査が行われようとした矢先、キグナス1が降下してきたため全容は分からなかったが、ノゾミは統合派の無人工廠のたぐいだろうと目星を付けていた。


「地上部隊へ暗号通信。『ポイントGに急行、迎撃配置で待機』。私達は展開完了まで、コンテナ爆弾とレールガンで時間を稼ぎましょう」


 搭乗員達に指示を出す。


 どうにか生き残ったターマイト1機には、既に追い込み部隊との合流を指示している。

 撃破された枠を補い、小隊を再編できる。

 "エキドナの子"はポイントGにある何かを手に入れようとしているのだろう。

 少なくともこの状況を覆せる何かを。


 そしてそれを手に入れることは、自分達の敗北を意味する。

 その前に決着を付けるべきだと、ノゾミは判断したのだった。

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