Part3 ビームプロジェクター

*ノゾミ*


 敵の姿を認めたのは、ノゾミも同じだった。


 キグナス1はこちらを向くや否や、手にした射撃武装を撃ってきた。

 3連射。緑色をした2本のビームがジャターユスを掠める。

 照準が甘い。


 それでも内1本は機首を直撃した。

 反磁力パルスに阻まれてそのまま霧散する。

 他の搭乗員が表情を凍らせる中、ノゾミだけは涼しい顔をしていた。


 こういう場合は下手に動く方が、パルスが流せない部分に当たったりして危ない。


 同時に今の攻撃が目くらましに過ぎないことも見抜いていた。


 事実、キグナス1は隙を突いて再びジャングルの中に身を隠していた。


 森の中で光学兵器らしき閃光が走った。

 ターマイトが1機撃破されたという報告が上がってくる。


 追い込み担当の2個小隊はそれでも追跡に入る。

 待ち伏せ担当のもう2個小隊も合流に動き出した。


 地上部隊とのデータリンクによれば、二つの進路はカタカナの"イ"を描くように交差しつつある。

 キグナス1と追い込み担当が縦棒を遡り、待ち伏せ担当が斜め棒を下るような針路だ。


 完全な包囲網を築くまで、もう少しだ。

 そろそろ私達も動こう。


「ビームプロジェクター、照射用意。敵ウォーレッグ10時の方角から、逃げ道を塞ぐのよ」


 ノゾミは砲手と副操縦手に指示を出した。

 戦いはまだ、始まったばかりだ。






*ハイドラ*


 敵母機が姿を見せた時点で、ハイドラは逃走を選択した。


 サンダーバード級は時間当たりの発電量の都合上、戦闘時はステルス機能を解除し、武装類に回す電力を確保する必要がある。

 逆に言えば、態々わざわざこちらの目の前でクローキングモードを解除したのは、母機もハーキュリーズへの攻撃に加わる意思があるということだ。


 ブラスターライフルで牽制しつつ、再び移動を開始する。

 上空に3発、背後に1発。

 背後で爆発音がした。


 戦果を確認しないまま、密林に後退する。

 すぐに胴体を撃ち抜かれたターマイトの残骸が見つかった。


 ようやく1機撃破だが、状況は未だにこちらの不利だ。

 5機の敵ウォーレッグを振り切れていない上に、空では空中ステルス揚陸艦が戦闘態勢に入っている。


 サンダーバード級の対光学兵器防御システム・反磁力パルスは極めて出力が高い。


 この距離ではロングバレルを装着した精密射撃モードでも、命中する頃には打ち消される出力まで減衰してしまうだろう。

 腕部バルカンはそもそも射程外だ。


 するとサンダーバード級を倒す手段はおのずと絞られてくるが、この状況でやれば確実に失敗する。


 一つはブラスターライフルをワイズマン・リアクターに直結して放つ最強の武器、ブラスターキャノン。

 だがこれはエネルギーチャージの最中は完全に無防備な状態となる。

 敵に捕捉されている今使えば、いい的になるだけだ。


 もう一つは、全速力でサンダーバード級に接近、至近距離から猛攻を加える肉薄戦法。

 しかし相手は何らかの手段――おそらくデータリンク――でこちらの正確な位置を把握している。

 迂闊に飛び上がれば、確実に地上と空からの十字砲火に曝されるだろう。


 ハッキングで敵ウォーレッグを操ってけしかけるのは論外だ。

 腐ってもウォーレッグだ。

 構造が複雑で、奪えても操縦プログラムを組むのに時間がかかる。

 何よりそれをしないことが、今のハイドラに残された最後の人の心に通じていた。


 ここは敵の撃破よりも、座標の場所に辿り着く事を優先する。


 それがハイドラの下した決断だった。

 目標地点まで残り17キロ。


 モーショントラッカーに新たな反応が現われた。


 ハーキュリーズから見て右前方から、進路を塞ぐようにもう6機のウォーレッグが接近してくる。

 完全に包囲される前に手を打とう。


 ハイドラは自機を加速させた。

 針路は左へ。


 上半身と下半身が独立しているような人型ウォーレッグ特有の走り方は、ハーキュリーズも変わらない。


 そこで木々の間にできた大きい隙間から、サンダーバード級が接近してくるのが見えた。


 機体の腹部中央に設置された、カメラの絞りのような円形シャッターが開き、余剰エネルギーで輝く巨大なビームランプが姿を現した。

 ランプの中央部から地上に向かってまず赤い誘導レーザーが放たれる。


 次にビームランプが一際強く光ったかと思うと、青白いビームが滝のようにジャングルに降り注いだ。

 真下にある全ての物を焼き尽くしながらハーキュリーズに迫ってくる。


 サンダーバード級空中ステルス揚陸艦最大の武器、大口径対地ビームプロジェクターだ。

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