第12話 ファミレス

 俺と深沢学校最寄りのファミレスに入店した。ファミレスは俺の要望を汲み取り、イタリアン系のファミレスだった。


 コックのような服だけを着用したホールの店員に入店人数を伝える。ホールの手人はマニュアル通りの丁寧な接客をし、俺と深沢を空いた席に案内する。2人用の席に案内される。


 深沢は奥側、俺は内側に腰を下ろす。自然と向き合う形になる。


 俺と深沢の目線が合う。改めて目にすると、深沢は整った容姿を所持する。ロングの赤系の茶髪も丁寧に手入れされている。ツヤが半端ない。その上、前髪に装着するピンクのヘアピンが実にチャーミングだ。可愛い深沢の容貌にジャストフィットしていた。


「さあ! 今日は私の奢りだから! 何でも頼んでいいから! はい、これメニューね」


 なぜかご機嫌な深沢。俺が佐藤と別れたことをカミングアウトしてから、しばらくこんな感じだ。なぜ無関係の深沢が上機嫌なのだろうか。不思議だ。


「ああ。ありがとう。遠慮なく選ばせてもらう」


 深沢から差し出されたメニューを受け取り、1ページ目を開く。メニュー表にはサイドメニューが表示される。サイドメニューは注文するつもりは無いので、スルーして、ページをめくる。


 次ページはパスタのページだった。さらに後ろのページをめくると、ハンバーグやステーキのメニューが載るページだった。


 今日は部活もOFFであり、まだ時刻は16時を回ったばかりである。小腹しか空いていない。そこまで俺のお腹にガッツリしたメニューは入らない。


「ペペロンチーノで頼む」


 縦に長いメニューを閉じ、俺は深沢に差し出す。


「えぇ~、男なのにがっつりしたメニュー食べないの? 食が細いの? もしかして遠慮とかしてるの? そんな優しさ不要だからね。私の厚意をありがたく受け取って欲しいから」


「食の線は普通だ。時間帯が時間帯だ。まだ16時30分だ。小腹程度しか空いてないんだ」


 スマートフォンで、俺は時刻を示す。深沢に見えるように、テーブルの上にスマートフォンを置く。


「あ、確かに。この時間なら無理ないかも。でも男の子だからこの時間でもガッツリした料理を食べられると思ったの。私の勘違いだったみたいだね」


 深沢は俺からメニューを受け取り、目を通し始める。ペラペラとページをめくる。顔はわずかにメニューで隠れる。メニューを凝視しているようだ。


「じゃあ、私も灰原君と同じでペペロンチーノにしようかな。私もあまりお腹空いてないから」


 パタンっと、深沢はメニューを閉じる。


「他に頼むものない? 」


「ああ。特にない」


 簡単な言葉を交わし、深沢が呼び出しボタンをプッシュする。


「お待たせしました~」


 店内は空いているため、即座にホールの店員が、俺達の座る席に伺う。店員は席に案内してくれた店員だった。


 俺と深沢はメニューを注文する。店員からの注文の確認を受け、オーダーを終了させる。


「それでねちょっと灰原君に聞いて欲しいんだけど」


 店員の姿が消え、深沢が切り出す。どうやら話したいことはたくさんあるらしい。


「最近、私が虜になってる『彼女を奪われた俺のリアル実話』を友人や家族にお薦めしたんだけど。全員が全員、高評価だったよ。私の薦めた作品を気に入ってくれたんだよ。友人の女の子はドはまりで、休み時間とかSNSで作品についての話で何度も盛り上がってるんだよ! 作品の分析なんかもしてるんだよ! 」


 深沢の饒舌ぶりは健在である。今日は特に熱が籠っている。自分のお薦めが他者に気に入られて嬉しかったのだろう。顔に嬉しさと興奮が表面化する。


 気持ちは分かる。すごい分かる。自分のお薦めを受け入れられた気分は最高である。しかも、自分の趣味に関してお薦めして、反応が好意的だった。至福と言っても過言ではない。


「それでね。それでね」


 それからは深沢は俺の作品を褒めちぎる。最近では恒例になってきたな。


 毎回、体験しても飽きない。病みつきになる。拙作を褒められれば褒められるほど小説を執筆する動機に繋がる。嬉しさが起因して小説を書く動機にも繋がる。拙作を称賛されるのが至福なことをここ最近知った。本当に幸福だ。


「ああ。そうなんだな。その作品はすごいんだな。俺も読んだが面白かった」


 本当は目の前に作者がいることをバラしたい。深沢がどんな反応を見せるか。想像するだけでワクワクする。だが、作者の正体をバラスことは気が進まない。だから、深沢にバレないために余裕な態度で相槌を打つ。


 15分後、ようやく話が途切れた。何となく店内の窓に視線を移す。


 すると、以外な人物が認識できた。


 俺と深沢の座る席を虫のように、じっと凝視する吉澤の姿があった。吉澤は目の前の出来事が信じられないのか。だらしなく口を半開きにしながら、俺と深沢を1点集中で見つめていた。


 この光景を目にした直後、俺は1つのアイディアを思いついた。吉澤の姿からインスピレーションを受けた。


 よそ見ばかりしていたら、深沢に不快感を与えるかもしれない。


 俺は吉澤を他所に、深沢に意識を集中させた。吉澤を居ない者として扱った。

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