第11話 不可解
本日は部活がOFFだった。珍しくOFFだった。月に1日回しか無い貴重なOFFだった。
よし…自宅に直帰するか!
早々と帰りの支度を済ませ、教室を後にして、廊下に出た。
「あれ? 灰原君早いね。もう帰宅する感じかね? 」
偶然にも俺は深沢と遭遇する。どうやら深沢は俺と同様に、教室を後にし、廊下に身を置いたばかりだった。
「ああ。そうだな」
俺は淡白に答えた。特に返す言葉が見当たらなかった。
「じゃあ一緒に帰らない? 奇遇にも遭遇したんだし」
「深沢が良いならいいよ。一緒に帰ろうよ」
「なにその言い方。私は灰原君と一緒に帰りたいから。だから誘ったから。別に1人で帰るの可哀そうとか微塵も思ってないから」
「じゃあ何でそんな言葉がすぐに口から出るんだ? 少しは思ったんじゃないのか? 」
俺は怪訝な顔を向ける。目も僅かに細める。
「ばれた…。ちょっとだけは」
わざとらしく、深沢を舌を出した。てへっと片目も瞑った。
「正直だな! 少し落ち込んだ! 」
しょうもない掛け合いを経て、俺達は昇降口に移動した。運が良いのか、悪いのか。廊下には少数の人間しか居なかった。だが、さすが学年1の美少女と言うべきか。すべての少数の人間が深沢に視線を走らせた。自然と真隣を歩く俺にも視線が届いた。大部分が嫉妬や嫌悪の目線を届けた。
心を痛める視線に耐えながら、俺は深沢と共に昇降口を抜けた。
「ねぇ1つ気になったことがあるんだけど」
両手を後ろに組み、上目遣いを用い、深沢は俺の目を覗き込む。深沢の整った容姿が視界に入る。赤系の茶髪とピンクのヘアピンが際立つ。その上、大きな紺色の瞳も存在感を放つ。
「どうした? 前置き何かして」
違和感を感じた。深沢が真剣な表情で俺を窺っていた。今まで経験したことが無かった。それに、畏まったように深沢が前置きをするとはな。今日は雨でも降るのだろうかな。
「最近、佐藤さんと一緒に居るところを全く目にしないけど。どうしたの? もしかして喧嘩でもしたの? 」
神妙な面持ちで深沢が尋ねる。そこに笑いは皆無である。
「ああ。その件か。佐藤となら別れた」
特に隠す必要は無かった。だから正直に答えた。特に苦痛や恥ずかしさも覚えなかった。既に佐藤に対する好意は消え失せていた。
「え!? 」
思わずといった形だった。動揺が深沢の顔に走る。ついでに、女性らしく口元を抑えるような仕草を取った。
それにしても、以前にも深沢は佐藤との関係を何度か俺に尋ねていた。
佐藤とはどうゆう関係だの。関係は順調だの。進展しただの。
様々な事柄を聞かれた。妙に深沢は俺と佐藤の関係を詳細に知りたがった。不思議だった。当時は意図が理解できなかった。不気味さを感じた。そんな記憶を覚えていた。
「どうして別れたの? ちなみにどちらから別れを切り出したの? 」
おそるおそる深沢が言葉を紡いだ。緊張からか。深沢の瞳はわずかに揺れていた。
どうして別れた理由が気になるのだろうか。深沢には関係ないと思うが。不可解だ。これが女心というものなのか?
「それ聞く必要あるか? まあいいけどな。俺が別れを切り出した」
淡白に答えた。軽い口調で返答できた。これも佐藤に対する好意の消失の表れだろうな。俺の態度にはっきりと表れているな。俺って分かりやすい人間なのかもな。
「そ、そうなんだ。それで…何で別れたの? 差し支えなければ教えて欲しいな。もちろん嫌なら言わなくていいから!! 」
終盤の方は早口だった。明らかに普段の深沢とは様子が違った。落ち着きが無かった。
「俺が佐藤と釣り合ってないと感じたから。今まで隠していたが、付き合って始めてから劣等感を感じていたんだ。だから別れた」
本当は違う理由である。佐藤の浮気が原因である。だが敢えて真実を伝える必要はないだろう。だから、傷ついているように、演技をし、意図的に暗いオーラを醸し出す。
まあ、今後どうなるかは分からないけどな。
「釣り合ってないとは思わないかな。どちらかと言えば……。いやなんでもないや」
中途半端な箇所で、深沢が言葉を区切った。言い淀んだようにも見えた。何を口にしようとしたのだろうか。
「なんだ? 何か言いたいことでもあったのか? 」
内容が気になり、追及するために疑問を投げた。
「何でもないから! それにしてもそうなんだ。別れたんだ……」
豊満な胸の前で両拳を握る深沢。意気込むような姿勢だった。不思議と何処となく嬉しそうだ。何となくだが。俺の目には、そのように見えた。俺の目は当てにならないがな。
「慰めというか励まし? 私がしてあげるよ。一緒にファミレス行こ! もちろん私のおごりだよ!! 」
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