第10話 別れを切り出す

「どうしたのよ。いきなりSNSを介して呼び出したりしてよ」


 昼休みの終盤。俺は屋上に佐藤を呼び出した。佐藤は不機嫌さを隠さなかった。明らかに冷たい対応だった。


「いきなりだが、俺と別れてくれないか? 」


 俺は別れを切り出した。もちろん予備情報は提供していなかった。


「え…」


 突然の俺の衝撃発言に、佐藤の目が点になった。予想外の展開に違いなかった。顔にそのように書かれていた。まさか別れを切り出されるとは夢にも思っていなかったようだな。


「理由としては冷めたから。最近は個人的にマンネリ化へ推移しているからな」


 佐藤が浮気している事実には触れない。決してその件は口にしない。


 敢えて自身の気持ちを伝えた。実際に嘘ではなかった。正直、佐藤に対する好意は冷めていた。浮気が発覚し、人気の小説を執筆し、良い結果の誕生に、様々な要因が重なり、佐藤のこと等どうでも良くなってしまった。だから別れを告げた。もちろん小説のネタを獲得するためでもあるが。


「わ、分かった。あんたのくせに生意気だけど、受け入れてあげるわ。実際に陽キャのあたしと陰キャのあんたでは釣り合ってなかったから。仕方なく受容してあげるわ! 」


 吐き捨てるように、佐藤は皮肉を口にした。盛大な皮肉だった。苛立ちと軽蔑が混じった皮肉だった。


「じゃあね! 別れを切れだしたから、既にあたしには用なしよね! お望み通り姿を消してあげるね。決してあたしと釣り合ってなかった元カレの灰原君! 」


 大声で捲し立て、佐藤は屋上から逃げるように退出した。


 バタンッと扉の閉まる大きな音が屋上内に響き渡った。


 俺は屋上に1人取り残された。だが、寂しさや後悔は存在しなかった。


 計画通りだった。俺の予想通り、別れを切り出し、腹を立てた。プライドの高い佐藤は別れを受け入れた。佐藤のプライドから、別れを拒否するようなことは、考えられなかった。


 すべては想定内だった。立派な立派な小説のネタが入手できた。


 はは。やったー。

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