第8話 ま、まじかよ…

 翌朝。早朝。


 俺はベッドから起き上がり、即座に、スマートフォンを起動する。ロック画面で、パスワードを打ち込んで、ロックを解除する。


 世界的に有名な某検索エンジンを利用し、ヨムカクにアクセスし、スマートフォンを見つめる。


 当たり前のように、来客を知らせるみたいに、ベルアイコンに赤い点が表示される。どうやら本日もヨムカクからの通知がある。通知があること認識すると、気分が高揚する。最近では、何度も経験しているが、慣れないどころか、日に日にベルアイコンの赤い点を見る度に気分が上昇する。


 まずは、ベルアイコンをタップしてから、通知の確認を試みた。案の定、大量の通知が存在した。下に下に何度もスクロールしても、新規の通知は途切れなかった。


 拙作に対する、星、いいね、コメント、フォロワー等の数えきれない通知で溢れていた。


 うひょー。最高かよ~。


 興奮の勢いそのまま、ヨムカクでのマイページを開いた。


 ま…まじかよ。こんなことが有り得るのかよ。本当に直面する事実は現実なのかよ…。


 思わず、現実を疑ってしまう。


 それほどマイページに表示された拙作に関するデータが凄まじかった。


 星は1000を超えた。小説のファロワーは3000人を超えていた。いいねも3000を超越し、コメントも200件を突破し、大満足のデータがそこに実存した。


 ウハウハが止まらなかった。夢に見た星1000突破だった。俺の勝手なイメージだが、星1000を超越した小説は大物だ。実力のあるヨムカク作家だけが、到達できるものだ。そんな風に勝手に決めつけていた。書き殴るようにしか、小説を執筆できない俺が。まさか星1000を突破してしまうとは。


 この好調な状態をキープしなければ。


 それにしても、これからどうしようかと。次なる小説のネタをどのように取得し、調達しようか。


 強引に胸中でウハウハを鎮めた。脳が興奮状態では頭が働かない性質だった。不便だな俺の身体。


 些かの時間は頭を悩ませた。だが、名案は湧き出なかった。


「まぁ、すぐに良いアイディアが浮かべば、世の中の人間は苦労しないわな」


 やれやれと意図的に肩を竦めた。


「とにかく今日は日曜日だし、ショッピングモールにでも足を運ぶか。もしかしたら、佐藤と吉澤がデートしている可能性もあるしな」


 時刻は18時を過ぎていた。


 特に大きな期待を持たず、自宅を後にする。自宅から最寄り駅に移動し、電車を利用し、目的地に向かう。


 都心の駅で下車して、10分ほど掛けて、県でも有名なショッピングモールに入店する。


 日曜日の夕方にも関わらず、時間も関係なく、多くのお客で溢れていた。視界に入るだけでも、30人は優に超えていた。


 適当にうろついてみるか。おそらく佐藤達の姿は拝めないと思うがな。暇つぶしにもなる上、運が良ければ名案が浮かぶ可能性も無きにしも非ずだからな。


 俺はエスカレートを使用し、しばらく身を任し、地下から1階に場所を移す。さらに多くのお客が目にできる。数は余裕で50人を満たす。


 ブラブラ人との間を通過しながら、佐藤と吉澤を探す。2人の容姿は整っている。そのため、居れば確実に発見できる。そのはずである。


 だが、生憎見当たらない。15分も探索するが、2人らしい気配は見当たらない。


「やっぱりショッピングモールに身を置いていなかったか。多少なりとも期待したんだけどな」


 わずかに肩を落とし、自宅に帰るために、地下行きのエスカレートに乗った。


「ねえ! これからどこ行くのかな! 初めてのショッピングモールだから色々な店に行きたいな~」


 聞き覚えのある女性の声色。少し鼻につく声色。


 耳で音源を特定し、神経を集中し、俺は視線を走らせる。


「そうだな~。行ってからのお楽しみかな? 」


 この声色の聞き覚えがある。今度は男性の声色である。


 俺が視線を向けた先。俺のエスカレーターの反対。つまり、反対側のエスカレーターに佐藤と吉澤の姿あり。


 2人は仲睦まじげに、エスカレーターを活用し、先ほどまで俺が身を置き、探索していた1階に向かっていた。


 偶然にも、佐藤と吉澤は俺の直近を通過した。


 こうしちゃあ、おれん。早く後を追わなければ。


 他者のお客に気を遣い、急ぎ足でエスカレーターを駆け下り、地下のフロアに到着した。


 すぐに方向転換し、上りのエスカレーターに乗り換えた。

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