デートですっ?!

 動物園前、どんよりと暗い空を見ながら凛城先輩を待つ。出会ってすぐの水族館を除けば初めてのデートである。


「ごめん!待ったかしら?」


「いえいえ、全然待ってないですよ」


 フリフリの袖がついた純白のワンピースに腰に巻きつけられた青いリボン、薄ピンクのリップに小さいポーチ……俺の知ってる人ですか?


「どう?今日のコーデは生まれたての子よ!」


 良かった、俺の知ってる人だったみたいだ。


「もう白ければ何でも精子じゃないですか……」


 いつも通り無駄口を叩きながら動物園に入る。ちょくちょく家族連れはいるが空いてはいるみたいだ。


 中に入ると、肉食動物コーナー、草食動物コーナー、爬虫類コーナーなど多くの種類の看板があっちこっちに矢印を生やしていた。凛城先輩は何の躊躇いもなく爬虫類コーナーに向かう。可愛げねぇな。


「見て!亀よ!亀の頭は……そう!」


「ちょっと待て、あの、分かったので黙りましょうか」


「そうね、亀頭ね」


 おい、俺の制止は聞いてたのかな?因みに俺の精子は効かない。なんだそれ。


「知ってるかしら?亀の亀頭って、亀の頭より大きいのよ」


「紛らわしいな。んでマジですか……人間で考えたらヤバいですね……」


 亀の甲羅の中ってすごいんだろうか……凛城先輩の豆知識を聞いてる感じ十中八九やばいのだが。


「ヘビもいるわ……私ヘビは苦手なのよね。ただあの舌にはちょっと興奮するわ」


「苦手ならなんで爬虫類コーナー来たんですか……小動物コーナーとかあったのに」


 俺の声を聞いているのか、いないのか。凛城先輩は蛇の卵の写真を凝視している。


「ガラガラヘビって繁殖期になると一日中発情してるらしいわよ。ガバガバヘビに改名したらいいのにね」


「嫌ですよそんなヘビ。どことは言わないけど入ってきそうじゃないですか」


「ふふっ、入ってくるのは嫌ね」


 上品に笑ってはいるのだが笑いのツボが下ネタなせいで全くもって華奢きゃしゃじゃない。


「ヘビと言えば、ガターヘビは乱パが好きなのよね。一匹のメスに100匹のオスで犯すらしいわよ」


「勝ち目無いじゃないですか。可哀想すぎる。ガーターベルトヘビとかに改名しましょう」


「ガーターベルトヘビっ……いいわね。才能が芽生えてきたんじゃないかしら?」


「嫌なんですが」


 でも確かに以前の俺ならガーターヘビをガターベルトヘビにはしなかっただろう。こう言う一面でも凛城先輩の影響は強いんだと思う。悪い影響だけどね。


 他にもトカゲやカエルがいたが凛城先輩は華麗に素通り。草食動物コーナーへと向かう。


「キリンねー、初めて見たかも」


「俺もです」


「キリンはオス同士で交尾するのよね。まさかベーコンレタスが人間だけのナワバリじゃないなんて驚きだわ」


「俺は凛城先輩の偏った性知識に驚きですよ」


 凛城先輩は「何よ、イキリンじゃない、絶倫に対する知識は人並みよ」なんてほざいてた。あとキリンです。


「馬だわ!騎乗位ね!」


「よーし、騎手に謝れ」


 豆知識だが馬に乗る人を騎手、もしくは騎乗者と言うらしい。後者は完全にやってますね。二つの意味で。


「馬は一回で人間の千倍も精子が出るのよ。凄いわよね。試してみる?」


「試すわけないでしょ」


 絶対人間の比較対象、俺じゃねぇか。何が楽しくて馬と競い合うんだよ。


「向こうにはゾウがいるわ!私もあれだけ鼻が長ければ乳首両責めしながらアワビも弄れるのに」


「かつてこれほどまでに気持ち悪い妄想があっただろうか……」


「ローション辞めなさい」


「ナレーションな。ションしか合ってないですよ」


「立ちションと同じね」


 もうこの人嫌だ……。


 凛城先輩がお腹すいたと言うので、小動物コーナーを見る前にソフトクリームを買うこととなった。


「さっき気持ち悪いなんて言ってくれたけどゾウだって自分の鼻で下の鼻を弄ってるのよ?それでも私のことを変態だって言う?」


「えっ?ゾウって自分の鼻でやるんですか?汚ない……あと変態なのは事実でしょ」


 下の鼻とか言ってる時点で末期だ。下に口も鼻もあるのかよ。口の中には喉チンコ付いてるし、もう訳わかんねぇな。そのうち隠毛が下の髪の毛とか言い出すぞ。


「肉食動物ね、虎は2日で100回オセッセコやってるらしいわよ」


「オセッセコって何ですか……何となく分かるけど……」


 多分、を掛けてる。『お』はどこからきたんでしょうね。


「他にもプチハイエナのメスには立派なイチモツが付いてるのよ。成獣というか性獣よね」


「先輩、一回下ネタ辞めません?ソフトクリーム変な味するんですよ」


 白くてネチョネチョしたものが口の中にあるだけだが、凛城先輩の話も相まって吐き気がしてくる。


「確かにそうね。行儀が悪いし、いったん股を閉じましょうか」


「口を閉じましょうか」


 凛城先輩が下ネタを辞めた途端に会話が途切れる。これでカップルとか世界中の独身たちに謝らなければいけない。


「ねぇ、ほっぺたにソフトクリーム付いてるわよ」


「どこですか?」


 凛城先輩がじっと俺の頬を見てくる。舌で取ろうとするが届かない。ちょっぴりガバガバヘビの舌が羨ましい。


−ペロッ


 俺の左頬に付いたソフトクリームを凛城先輩が優しく舐める。してやったとばかりに大きな瞳で俺を見上げる。


「えっ……」


「ふふっ、照れないのっ」


 何これ、超可愛いんですけど。下ネタのインパクトもといいんパクトが強すぎて忘れてた。


 凛城先輩は黙っていたら、下ネタさえ無ければ文句なしのS級美女なのだ。自覚と共に顔が赤くなる。


「私のも食べる?」


 凛城先輩がソフトクリームをそっと俺に差し出す。


「いや、味同じですし……」


「そうよね……彼女だし……それっぽいことして欲しかったんだけど、ごめんね」


「嘘です!やっぱり食べます、超食べます」


 俺も一口貰う。ひんやりとした液体が喉を通って体内に送られる。熱くなった体が冷やされていく気がする。


「次は小動物コーナーね」


「ですね」


 アイスを食い終わった俺たちはウサギやハリネズミなんかがいる室内へと入った。


「うさぎっ!可愛いっ。ねぇ、見て見て!」


 俺が凛城先輩の方に目をやると、先輩は自分の手でウサ耳を作りながらこっちにはにかんでいる。


 恥ずかしいのかちょっぴり耳を赤くしている。耳っていうのはウサ耳じゃない方ね。


「でも私、ウサギにはなれないの。ウサギって年中発情してるじゃない?私には無理よ」


「あんた、年中発情期でしょ」


 凛城先輩は俺をクッと睨んだがすぐに何か思いついたような顔をしてニヤケ出した。


「ねぇ、誉ぇ、私、年中発情期だから我慢できないぃ……もう無理だよぉ」


 凛城先輩が俺の胸部にもたれ掛かる。やばい、凛城先輩の腹を立たせてしまった。ついでに俺のアソコも勃った。


 耳元に甘い吐息がされる。これ以上はやばい。今食ったソフトクリームが下から出ちゃうから。


「わっ、分かりましたから、ごめんなさい。て言うか下ネタ封印はどうしたんですか」


「食べ終わったから良いじゃない。はっ、もしかして私を食べる気だった?!まだダメよ」


「まだって、そんなつもり微塵も無いですから」


 先ほどS級美女と言ったがあれは間違いだ。ドS級美女が正しい。


「見て!ハリネズミよ!因みにハリネズミには4本のチンコがあるのよ!そのうち勃つのは2本だけなんだって」


「イチモツってよりヨンモツですね」


 何言ってんだ俺……


「ふふっ、ヨンモツ……上手いこと言うわね。私も負けてられないわ。猫のチンコには100本のトゲが付いてるのよ。メスは可哀想よね……ハードプレイすぎるわ……」


 シャレに何ねぇーな。って言うか虎もネコ科だからトゲって付いてるよな?その上虎は一日に何回も合体するんだろ……?ご愁傷様です。


「黙っちゃってどうしたの?もしかして貴方にも付いてるのかしら?」


 返答をせず考え事をしている俺に凛城先輩は不信感を抱いたのだろうか?違和感からか凄いことを言い出した。


「付いてるわけないでしょ?!見ますか?!……見ちゃダメですからね?!」


 こっちもパニックだ。


「分かってるわよ。のしか見たこと無いし興味がないと言えば嘘だけど」


「えっ?先輩って……もしかして処j」


「黙って、デリカシー無いわよ」


 下ネタモンスターだから凄いのかと思ってたけどそんなことなかったのか……なんかちょっと嬉しいな。いやいや、何考えてんだ俺。


 変な空気で外に出る。そこにはザーっと滝のように大雨が降り注いでいた。


「あと4時間は振り続けるみたいです……どうしよ、帰れない……」


「そっか、貴方は家遠いものね……うち、来る?」


 フラグとアソコが勃ったのは言うまでもなかった。

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