マジカル◯◯◯!
凛城先輩と付き合った翌日。チョベリ部に行く前にやらなければいけないことがあった。
「沢良木さん!」
「はい?」
沢良木さん。俺の『憧れの人』。振り向く仕草は正に白鳥のようで、艶やかな髪が
「あのっ、俺、沢良木さんに言われてちょっと自分の気持ちを整理してみたんです。凛城先輩への気持ちも…正直、今も分かんないです。それでも凛城先輩を頼ってみることにしました」
明らかに言わなければいけないことまで言えてない。それでも沢良木さんは俺の意図を
「それはよかったです。末長くお幸せに。あっ、一つだけお願い聞いてくれませんか?」
自分の口元に人差し指を当て、俺を澄んだ瞳で見つめながら小悪魔のように呟いた。
「これからは千佳って呼んでくださいねっ」
「わっ、分かりました…沢、千佳さん」
千佳さんはふふっと毛玉のようなふわふわの微笑みを見せた後、部室に向かった。俺もその背中に続く。
ドアを開けた途端、凛城先輩が待ってましたと言わんばかりに声を上げる。
「マジカルバナナやりましょう!!」
すでに机は端に寄せられていて、円を描くように椅子が3つ並べられていた。
多分、俺を楽しませるためなのだろう。昨日はまだ親と顔も合わせなかった。俺はまだ逃げている。過去からも現在からも。それでも凛城先輩は向き合うチャンスと休憩をくれているのだ。その善意はありがたい。
「じゃあ私、痴漢ちゃん、貴方の順番ね」
「俺が凛城先輩の後にいきますよ」
「なんでよ」
オチが見えてるからだよ。
「まぁ良いわ。じゃあやるわね!マジカルバナナ、バナナと言ったらチンポ!」
ほらな。知ってたよ。この人だからね。最近は沢良木さんも『ちんこ』ぐらいじゃ反応しなくなってきた。
「チンポと言ったら細長い♩」
「細長いと言ったら鉛筆♫」
「鉛筆と言ったらア◯ル調教♩」
それ間に三つぐらい挟んでるだろ。あと文字数オーバーだから。
「ア◯ル調教と言ったらいじめ♪」
「いじめと言ったらだーめっ!」
わざと語尾を上げてあざとく言う。可愛すぎだろ。あとそのパスはダメです。
「だめぇぇッ//でイッたらアンっ//」
収集つかねぇじゃねぇーか。マジカルバナナのゲームどっか行ったぞ。イッたのか?
「アンと言ったらこしあん♩」
無理やり繋げる。
「コシアンッ//て言ったらどら焼き♪」
「待て待て、あんたの番じゃないでしょ!」
俺も沢…千佳さんもびっくりしてるよ。急にリバースするじゃん。一旦ゲームを止めてツッコむ。
「何よ貴方。マジカルチンポが気に食わないの?」
「もうチンポになってるよ…」
気を取り直してもう一度始めからになった。順番は変わらずに凛城先輩、俺、千佳さんだ。
「マジカルバナナ!バナナと言ったらフェ◯」
悪化してんじゃねぇーか。
「◯ェラと言ったら咥える♪」
「加えると言ったら料理♩」
「料理と言ったら女体盛り♫」
すごいな。俺、下ネタからしか始まらない。普通に繋げたいんですが。リズムよく手拍子しながら考える。
「女体盛りと言ったらノンフィクション♪」
「ノンフィクションと言ったら映画♬」
「映画と言ったらポルノ映画!」
「ポルノ映画と言ったら濡れ場♪」
すんません千佳さん!これは無理っす。と思いながらも心のどこかで濡れ場の意味が分かっていないだろうと安心する。
「濡れ場?と言ったら雨♫」
「雨と言ったら露出♩」
「えっ?いや、凛城先輩流石にそれはちょっと…」
「何よ。冗談よ。興奮しすぎよ」
垂れた髪を右耳に掛けながらそう言う。この人ならやっててもおかしくないんだよなぁ…。
「してませんから。もう良いでしょ。マジカルバナナ」
「そうね。それなりに面白かったけど3周も持たなかったわね」
凛城先輩のせいだと思うんですが。と言うか絶対そう。俺たちで机をいつもの形に戻して定位置に座る。この安心感のある空間が今はとても心地よかった。
「ねぇ、明日休みだし動物園にでも行かない?」
凛城先輩の提案に俺は考えるまでもなく首を縦に振る。今、家にいにくい。まだ自分の考えもまとめられてないのだ。母との話し合いはそれからだ。
「私は遠慮しときます」
「なんでですか?」
俺の質問に千佳さんは答えることはせず、ひょいひょいと手招きした。耳を貸せと言うことらしい。
「初デートなんでしょ、頑張って下さいね」
暖かな息が俺の鼓膜に吹きかけられる。内容以前に背筋がゾワっとした。千佳さんはそう言ったあと、俺を見て可愛らしくウィンクした。ほわぁ…
「何よ?!耳舐め?」
「そこまで馬鹿じゃないですよ!舐めてます?」
「舐めてるんじゃない」
そう言う意味じゃねぇ!そうして初デートが始まる。水族館を除けば…嫌な記憶が蘇ったな。
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