君がディナーだっ!(キッモ)
「どこ行きます?」
「サイゼなんていかがですか?お手軽価格ですし良いんじゃないでしょうか?」
「そうしましょうか」
12月12日の6時ごろ。俺と沢良木さんは、とっぷりと夜に使った空の下、並んで歩いていた。
「誉くん、テストの件と相談の件、ありがとうございました。すぐに取り返せたと言うわけではありませんが学年トップスリーには返り咲けました」
「いえいえ、そんな。俺なんて何もしてないですよ。沢良木さんの努力があってこそですから」
「そう言うものですか」
沢良木さんは小さな声でそう呟く。タイミングを見計らったかの様に店に着いた。少し緊張気味で席に座る。
「何食べます?」
「何食べましょうか…」
沢良木さんにメニューを渡して注文用紙とペンを手に取る。最近はタッチパネルのとこも多いがここはまだ紙媒体らしい。
「私、誉くんと一緒のにします」
ドキンと心臓が跳ね上がり俺の体の中でバウンドする。沢良木さんも少し恥ずかしかったのか顔を赤らめる。俺は冷静に頼むメニューを考える。
何が良いんだ?ここで沢良木さんが食べたいものを選ぶとポイントアップのイベントだろう。ミラノ風ドリア?どこだよミラノって、辛味チキンは嫌いな人いないか…でも手は汚れるよな。辞めとこう。
沢良木さんにメニューを受け取り眺めてみる。俺は無意識に視界に入ってくる文字にツッコミを入れる。
タマネギのズッパ…ズッパって何?、田舎風ミネストローネ…田舎風って馬鹿にしてねぇか?やっぱカルボナーラ?ちょっと子供っぽいかな?
サイゼのメニュー選びむず過ぎだろ。ステーキかハンバーグはちょっと高いか…なんて考えていると、
「あれっ?空川じゃん?」
明るい声に顔をあげる。すると
「天野さん、偶然ですね。そちらの方は?」
沢良木さんとの関係を深掘りさせないために話の主導権を握る。沢良木さんも男の人を眺めている。
「どうも、八千の彼氏の
黒いオーバーコートに黒いインナー。ワンポイントに赤いマフラーは、明らかに厨二病コーデなのだが、スタイリッシュで足の長い人が着るとただのカッコいい人である。
自己紹介の途端に八千さんが七瀬さんの横腹を突く。
「ウソつくなっ!」
八千さんがこちらを向き二度目の自己紹介を始めた。
「えーっ、こちら、私の兄の七瀬です。天野 七瀬、苗字みたいでしょ?大学2年生」
「どうも、よろしく」
整った顔立ちに自己紹介でボケれるメンタルの強さ。爽やかに会話できるコミュ力の高さまで八千さんの面影が見え隠れしている。
「そっちは?デート?」
「ディナーですね」
質問の答えにはなっていないが嘘もついていない。俺は適当にはぐらかす。
「誉くんの誕生日パーティーなんですよ」
咄嗟に沢良木さんも援護に入ってくれる。
「パーティー?2人で?悲しくない?」
この人、俺たちが目を逸らしてた事実を包み隠さず言いやがった。
「パーティーって言うんなら私も一緒でいいよね?」
俺と沢良木さんは見つめ合う。そしてどちらからか頷いた。俺の隣に七瀬さんが座り、沢良木さんの隣に八千さんが座った。
「天野家って8人兄弟なんですか?」
とりあえず名前に数字が入っているので、話題提示をしてみる。
「空川、面白いこと言うね、8人はハッスル流石でしょ」
「おい、飲食店だぞ」
喉まで出かかったツッコミは七瀬さんが処理してくれた。…初のツッコミキャラですか?!
「なんでか知らないけど親が7から始めたんだよね。私の下に1人、
「兄弟ですか、羨ましいです」
沢良木さんがお淑やかに返事をする。とりあえず4人で注文を済ませた。因みにクリームパスタを頼んだ。
「沢良木さんは一人っ子ですもんね」
「へー、君、沢良木さんって言うんだ。イメージぴったりだね?連絡先交換しない?」
オイ、ゴラ、誰に手ェ出したんじゃワレェ?アァン?※アァンは喘いだ訳じゃありません。
「ねぇ、妹の前で堂々とナンパするの辞めてくれる?しかも、にぃに彼女いるじゃん。あっ…」
「えっ?八千さん七瀬さんのことにぃにって読んでるんですか?」
「そんな訳ないでしょ!そんなのブラコンじゃない!」
(そうよ!ブラジャーコンドームよ!)
やべぇ、思念が伝わってくる。特殊能力キモすぎる…ここまで来たら重症だ。
「そっ、そうですよね〜」
顔を赤く染める八千さんを見ながら俺は話を戻す。
「七瀬さん彼女居るんですか?」
「いるよ。写真見る?」
スマホに映し出された女性は明るそうで。2人が頬をつけて自撮りしているのを見て微笑ましくなる。
「どうやって彼女とか作るんですか?」
とりあえず話を持たせるために恋人関係の話をする。正直見るからに七瀬さんは陽キャだし俺が話を振る必要もなさそうだけど。
「うーん、やっぱり好きな子のタイプに合わせるって言うのが手っ取り早いんじゃないかな?」
「にぃにじゃなくてぇ!
急にラジオ体操を始め出したのはスルーらしい。その後すぐに沢良木さんとの談笑に戻る。
「空川くんはどんな子がタイプなの?」
「そうですね、この人っていうのがいるわけでは無いですが、静かな人が良いですね。本とかが好きだと趣味も合って良さげです」
「ほぉー、外見は?」
「別にあんまり重要視しないですけど黒髪ロングが好きですね」
「えっ、あぁ、そうなんだ…」
何その意外な反応…そんなに変?
(変よ!好きな下着を聞かれた時にガターベルトって答えるぐらい変よ!)
好きな下着を聞かれたことがねぇよ。あの人、マジで俺の体の一部になりつつある。
その後も談笑したりして、俺の誕生日会(ほとんど関係ないけど)はお開きとなった。八千さんたちは少し前に自分たちの料金を置いて、帰って行った。
スマホが震えたので着信を開くと凛城先輩からだった。
『貴方、サイゼにいるのよね?痴漢ちゃんに「デザートは俺のチョリソーをお食べ」って言ってみて!そしたらイチコロよ!』
俺はそっとスマホを閉じる。あとそれはもうイチコロじゃなくてイチモツだろ。
「お会計しますけどカッコつけて良いですか?」
「はい?」
一度やってみたかったことがある。男として、やらずにはいられない行為、ヤらずにはいられない行為じゃ無いよ?会計の時に奢ってあげるってことだ。
「お会計、俺が払いますよ」
「ごめんなさい。それは流石にちょっと」
断られましたね。ダッサ。結局、自分たちの分を払い外へ出た。もう夜が深い。
「送って行きますよ」
「あのっ…誉くん。」
「はい?…」
沢良木さんが真っ直ぐこちらを向く。その俺を見つめる瞳が夜空を映し出す。
「私、誉くんが好きです」
「えっ…」
「だから、ずっと辛かったんです。誉くんはいつ勇気を出すんですか?いつになったら凛城先輩に想いを伝えるんですか?」
…………は?
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