一緒にお勉強!

 テスト前、なんとなく危機感に襲われる感情が倦怠感となってやる気を削ぐ。俺はいつも通り重い足取りで部室に向かうのだった。


「はい!腰を振って!はい!リズム良く!3回回ってワン!」


 部室の中から凛城先輩の声が廊下に響く。何やってんだよあの人。


「テスト前ですよ、何やってるんですか?」


「テスト勉強よ。作業変態活動サ行変格活用命令形の」


終わってるだろ終止形だろ


 そこでは沢良木さんが伏せをして、凛城先輩がそれを見下していた。これのどこがテスト勉強なんですか?


「古文の活用の勉強をしているのよ」


「古文ですか、俺も苦手なんですよねー、どうしても現代語にまとめられないんですよ」


「古文は主語がないですからね。主語を意識して、形容詞を訳せるようになると流れは掴みやすいですよ」


 沢良木さんは現代国語は俺より低いが、古文はよっぽど俺より高い。よし、参考にさせてもらおう。


「動詞の活用も無理なんですよ。『ありよりはべり』とかいまいち使い方分からないんですよね」


「あれね。『アナヤリはべらせイクそぶり』ね」


「ね、じゃねぇよ、なんだそれ」


 『ありよりはべりいまそかり』すら分からんのにこれ以上ややこしくしないでくれ。


「ラ行変格活用の動作ですね。あり・より・侍り・いまそかり、がラ行変格活用の『らりりるれれ未用終体仮命』の順で活用するんです」


「下ネタん活用とかあったわね」


「下二段活用な」


 どうしてもエセ文豪的には主語がない文は稚拙な文に見えてしまう。これも本好きのさがだろう。


「誉くんの言うとおり学校で教えられる語呂合わせって無理がありますよね」


「そうでしょ!前にも言いましたけど流石にスイヘーリーベーは無理ありますって」


 俺的には「スイへーリーベーなんじゃそれ」までワンセットである。なんじゃそれ。


「私は『エッチにライブにコンドーム、変』で、そこまでは覚えてるわよ」


「面影ないですけど」


「エッチに、はHが2だから水素HヘリウムHe、ライブに、はLiveをLibeと考えてリチウムLiベリリウムBe、ライブに、のは2だからBが増えて、ホウ素Bになるの」


 無理矢理だけどインパクトがある分覚えやすいかも。いや待て、まだ『コンドーム、変』とか言う問題児が残っている。


「コンドームには炭素のC、窒素のN、酸素のOが入ってるでしょ?そして変はフッ素のFと、最後はだからNにeをつけてネオンのNeとaをつけたナトリウムのNaよ」


 こっちの方が綺麗だったな。いや、言葉は汚いんだけど。整ってはいる。とは言っても使わないが。


「理科といえばあれね!乗客痴漢法!」


「上方置換法な、なんだその痴漢方法、キモすぎるだろ」


「アンッ///マニアはこれで集めるのよね」


「アンモニアな、なんだその気持ち悪いマニアは」


 すぐ喘ぐのはこの人の習性だから仕方ないとは言え勉強の邪魔はしないでほしい。


「私は科学はドクターストーンを見て覚えましたよ。もう遅いですけどね」


「沢良木さんもアニメとか見るんですね」


「あんまり見ないんですけど、働く細胞とか勉強になるものは見せられてます」


 理科はアニメで覚えるのも手段の一つなのか。無理に暗記するより楽しいし息抜きにもなりそうである。イキ、ヌキにはならない。


「逆に物理法則無視してるアニメもよくあるわよね」


「ドラえもんとかですね」


「スモールライトっていいわよね。smallrightよ?S M全て正しいって意味じゃない!」


 どう言う意味だよ。と突っ込もうとしたがなんとなく分かったのでやめておいた。無視した方がいいやつだこれは。


「てか話、それてますね。どこまで戻します?」


「タイムマ◯コ〜」


 マントで、あってくれ……マジ頼むから。あとタイム風呂敷だから。透明マントと被ってるよ。


「やっぱり語呂合わせといえば歴史よね!いちごのパンツ15 82、本能寺の変!とか」


 なんでも下ネタにするあたり凛城先輩はアナル取れない。違う、侮れない。


イク兄さん1923関東大震災は覚えておいて損は無いわよ」


「地震って案外ごっちゃになりますもんね」


 おそらくイクを行くと勘違いしたまだ健全な沢良木さんはしっかりと相槌をしている。まだ純粋なんだな〜。


イクシコ1945、ポツダム宣言とかね!」


 前前前回言って欲しかったな。その語呂合わせ。今回はもう大正時代のテストなんですよ。


 今回のテスト、沢良木さんには頑張ってほしい。そして自信を取り戻してほしい。また、前のような強い沢良木さんになるよう俺も力になろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る