沢良木さんを慰めますっ!

 何かが始まると何かが終わる。それが今回は文化祭だっただけ。かっこいい言い方をしたが特段何か言いたいことがあるわけでもない。


 皆が焦る阿鼻叫喚のテストも終わり、通常の日々が戻ってきたってだけだ。今回の順位はなんと7位だった。夏休み、文化祭と少し遊びすぎたな。


「こんにちは〜」


「っ……あっ、こんにちは」


 部室に入ると沢良木さんが1人で泣いていた。俺に気付き、つくろった笑顔はどこか悲しげで闇深く見えた。


「沢良木さん、大丈夫ですか?泣いてたように見えましたけど」


 踏み込んでいいものか分からないのであまり興味なさげに聞いてみる。


「いえ、少し悩み事と言いますか、ごめんなさい」


「そうなんですね。全然謝るようなことじゃないですし、俺だったら相談に乗りますよ。力になれるとは思えませんが」


「じゃあ、ちょっとだけ良いですか?」


「もちろんです」


 語尾が弱くなる沢良木さんは今まで見たこともないほど弱々しく、少し赤くなった目元は見ていて辛かった。


「私、今回のテストの順位27位だったんですよ……」


「えっ?沢良木さんが?」


「親にも驚かれました。でもそれ以上に呆れられたと言いますか…高校生にもなって勉強を疎かし過ぎるのは恥だろうと…」


 別にテストの順位27位と言うのは特段低いわけではない。この学校には一学年大体200人ほど、その中で27位。全くと言って悪くない。全国模試で見ても5000位以内は余裕と言った順位だろう。


 それでも前回の2位からは25人ほど抜かれている。厳しい親なら多少怒るのも無理はない。


「私の両親はどちらもそれなりに名の高い大学からの卒業でして、テストの点数や順位だけは少し厳し目なんです」


「そうなんですか……」


 まともに相談なんか受けたことのない俺は返事に困る。実際俺の父は厳しい方ではないし放任主義気味だ。沢良木さんのためになれるようなことを言える気がしない。


「クラスでも2位だからこその威厳があったぶんその反動も大きいみたいで……存在意義って言うんですかね。それが少し分からなくなってしまって……」


 持っている人、期待されている人だからこその苦悩。勝手に期待しておいて、勝手に見放される苦しさは俺も良く知っている……。


「俺はですね、小学校の頃、いや中一ぐらいまで結構荒れてたんですよ。理由はあんまり聞かないで下さい」


 沢良木さんは一体なんの話をし始めているんだと言わんばかりこちらを見ている。それでも俺は自分語りを続ける。


「そんな荒れてた時期に沢良木さんを初めて見たんです。俺が初めて見た沢良木さんは、怪我している野良猫を介護してたんです。俺はなんてキレイな少女なんだって思いました。そっから名前を調べたり、志望校を聞いたりストーカー気質なことしまくってこの高校に入ったわけですが、まぁ、要するに俺は沢良木さんのそう言う優しいとこに惹かれたんです」


 早口で捲し立てる俺は何度か口を滑らせたが、それは気にも止めてない様子で沢良木さんは目に雫を浮かべていた。


「多分両親も順位が下がったから怒ったんじゃなくて、努力を怠ったから怒ったんだと思います」


 沢良木さんの声だけが静かに響く空気が嫌になり、着地点がどこか分からないようなことも付け加える。


ガラガラガラ−


 真打しんうち登場と言わんばかりに腰に手をあてている、凛城先輩がドアを開けた。残りは凛城先輩に持っていってもらおう。


「順位が落ちた?クラスの居場所がない?何言ってるの!順位が落ちたならまた頑張れば良いじゃない!クラスに居場所がなくてもチョベリ部があるじゃない!痴漢ちゃんに存在意義が無い?ふざけないで、貴方、言ってあげて」


 ここで俺にパスかよ。ハードル高すぎだろ。潜り抜けちゃうって。まぁ良いよ。最後くらいカッコ付けますか。


「沢良木さんに存在意義が無いなんて俺が、俺らが認めませんよ」


「誉君……」


「認めない……否認……避妊ね」


 マジこの人空気感ぶっ壊すな。それでも今は切ない空気が霧散し、沢良木さんは作り笑いをやめ、いつものように明るく可憐な笑顔を作っている。


「本当にありがとうございます……本当に……」


「アへ顔自撮り一枚で許してあげますよ」


「俺そんなこと言わないですから」


 全く似てない俺のモノマネをする凛城先輩にツッコミつつ微笑む。いつものチョベリ部が戻ってきてよかった。


 てか今回下ネタ無いんじゃなかったのかよ。

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