砂をまく人

うお

砂をまく人



小説を書いてみようと決めた日に 椅子と机を買った にとりで




たとえば異世界転生小説を最初に書いた人になりたい


書き出しでやめていちおう保存したテキストファイルが溜まってく夜


アイデアはいつも無限にあるけれど 書きはじめるといつもからっぽ


魔法のある世界に住んでいる人はそれを魔法と呼ぶのかな とか


うつむいたり肩すくめたり笑ったり いろんなことを人はしている




あおいそら たなびくけむり かわのおと これは書くのをさぼったじかん




書く音はにわとりの集団みたい 雨音のように書きたいのに


たぶんだれも気にしないけど一人称 この子は「わたし」 この子は「私」


かっこいいラストは思いついたけど たどり着くための地図はまっしろ


あと十日 つまり一日五千文字 夏休みの宿題みたいだ


これ書いた人天才ではなかろうか 書いたの一体誰だ わたしだ




「斬新で魅力的な作品でした」落ちた公募の評価シートで




いまわたしの一部が放流されていく インターネット インターネット


だらけてる人を書きたい だらけてるまましあわせになってみてほしい


生きるのは大変なのに 生きながらみんな小説を書いてる えらい


小説家にはなりたいしアニメ化もされたいけれど アイス食べたい


できるだけほんとのことを書きたいと思ってるフィクションだからこそ


「がんばらなくてもいいけど、がんばるとなおよいですね」

 と、彼は言った。




創作という名の砂漠に砂をまく わたしは砂をまく人になる

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