4
調子に乗って蹴りとパンチで効率よく倒していく。ふいに頭上に陰が落ち、見上げるとギラギラした漆黒の瞳と目があう。
――αだ。
αのオス、雰囲気でわかる。どこかの制服を着て、体格もよく、あの高い地面から穴に飛び込んできた。彼の剣の一振りで辺りのサンドスライムは全滅する。
人間だとわかっても、反射的に繰り出してしまったパンチは仕方ない。かえって彼にその手を掴まれる。その反対の手で、彼は私の顎を上向かせてキスをする。
……ん。ヤバい。
彼の柔らかな唇の感触が、初めてなのに。気持ちよすぎて抵抗するのを忘れた。そのままうなじを噛まれる。
「う……」
うなじを噛まれるとΩは、そのαと
身体中に電撃が走る。この
生理現象で涙が出て来た。
力が抜けるままに彼を見ると、彼は白い歯を見せて笑う。
「これからよろしくな、姫!」
「……姫?」
「俺の可愛いお姫様」
「……?」
「自己紹介が遅れて申し訳ない。俺は
「……はぁ」
「これから遠征の結果を王に報告する予定だったが、思わぬ用事ができた。……きみ、名前は?」
「沢井さなです……」
「さなさん。俺のことは気楽に海武と呼んでほしい。これからは一緒に過ごすのだから」
「……」
……勝手に番にされてしまっただけなのだが。
「さなさん、Ωだよね?」
「うん」
「俺はαだ。自分で言うのも難だが、その……モテるんだ」
「へぇ……」
「でも、俺は番となったさなさんに誠実を守る。ひとまず登城し王に謁見しなければならないから、遠征先で俺が保護したことにし、ついて来てくれないか」
「保護……?」
「嫌か?」
「服が……」
「服なら大丈夫だ。いきなり妻として同行すればきみが注目されて大変な思いをするだろう。ワンクッションを置こう」
何だかいろいろ飛び過ぎている……。
「そんなに、その……海武は偉い人なの?」
「俺は、この国の皇子だ。これからさなさんには苦労をかけると思う。だが、俺たちは運命だからきっとうまくいく」
「え……と」
急展開すぎ。皇子様ルートは望んでいない。
権謀術数で死ぬのは嫌だし、皇子妃修行はもっと嫌。
彼はイケメンで、権力も地位もお金もあるだろうけど、それに魅かれて結ばれるのは嫌。
きっと宮廷の魑魅魍魎が跋扈して不慣れな私は呆気なく惨殺される。
「申し訳ないのですが、お断りします」
「……ん? 断る……とは?」
「そのままの意味です。私、この国のために全てを捧げる太陽のような皇子様とは違います。暫時のはしために目を留めず、どうかご自身のゆく道を進んで下さい。国のために生きることは私の人生ではないのです」
「……番の契約は死ぬまで続く」
「契約を結んだのは皇子様です。もし皇子様が本当に私を愛しているなら、いま持っているもの全てを捨てて私の所へ来てください。それ程迄に私を愛してくださるというのなら、私も生きますが、もしそうでないのならこの場で私を殺し、新たな番を今度こそは慎重にお選びください」
「……命を粗末にするな。番の契約は燃えつづける炎のようにきみを焦がし、蝕む。俺たちは互いの運命から逃れることはできない。そのときが来たら俺の元へ来い」
「そんな怖い顔で言わないでください」
「さなさんが愛の炎に苦しむとき、俺も苦しむ。逆もそうだ」
「……はい……?」
そんな炎に苦しみませんとは言い切れず、首肯する……。
口ではどう言えても、心はこの人から離れるのを本当に嫌がっていた。
それは理屈ではなく、本能的な。
抗おうとしても逆らえない。
「そう言えば、家はどこだ?」
「……ないです」
さすがに異世界から来ましたとは言えない。
「放浪してるのか。なら、ちょうどいいだろう。俺の目の届く範囲にいてもらわなければ。やはり侍女として城へ来るのがいい」
「嫌です」
「だめだ、こんな穴に落ちるくらいそそっかしいのに」
「そそっかしくない」
「とにかく帰るから」
ぐうぅぅぅ……と、そのとき私のお腹が鳴ってしまった。
それで皇子様は大笑いしつつ、恥じいる私を半ば強引にお姫様抱っこして穴底を蹴る。一跳びで地上に着地した。……この人、レベル幾つだろ?
番になるサダメ 空沢 来 @kaidukainaho2seram
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