第17話 手元が狂ってしまったよ

「首を斬って死なないとは。不死身か?」

「そんなことないよ。ちゃんと死ぬから安心して」


 ケタケタと笑いながら魔族は両手を前に出す。指先から先端の尖った木の枝が伸びてきた。槍みたいな攻撃だな。横に飛んで回避すると床を突き抜けて一階にまで届く。


「ぎゃぁ! いてぇ!!」


 悲鳴が聞こえたところから、誰かに突き刺さったんだろう。

 運のないヤツだ。


「プルップ様! 他の人には手を出さないと約束されたじゃないですか!」

「悪い、悪い、手元が狂ってしまったよ」


 イスカリの野郎。なんで魔族の名前を知ってるんだよ!!


 プルップは俺の方を見ると口を大きく開く。魔力の集まり方からして、あれはヤバイッ! 受け止めるなんて発想はなく、転がるようにして逃げる。熱気を感じたので振り返ると、真っ赤な炎のブレスが出ていた。


 植物を操るタイプだと思っていたのだが、炎まで扱うようだ。


 魔法タイプの魔族は扱う属性数によって脅威度が変わり、二つあるなら中級以上になる。イスカリの野郎、面倒なヤツを呼び寄せやがって。


「プルップ様! 建物の破壊もダメです!」

「悪い、悪い。楽しくて取引を忘れてたよ」


 攻撃が止んだのでクライディアの様子を確認する。ゴーレムに剣を突き立てていて勝ったようだ。体に細かい傷は負っているようだが致命傷ではない。戦力としては使えそうだ。


 俺の方を見てきたので首を横に振り、お前は戦いに参加するなと合図を送った。イスカリが逃げないよう、戦っていて欲しいのだ。


「君の名前は?」


 ん? また俺に話しかけてきたのか。


 イスカリとの取引内容も気になるので、会話に応じよう。


「マーシャルだ」

「え、君がマーシャル? いいねぇ。目的達成だ」


 名前を教えたらプルップの魔力が膨れ上がった。口が裂けるほどの笑みを浮かべていて、本気を出したと分かる。


 今まで魔族を何人も殺してきたが、これほどの力を感じたことはない。恐らくは最上位に近い個体だ。そんな物騒な魔族が街に潜伏していたことに恐怖を覚える。


「まってくれ! 取引はどうなるッ!」

「うるさいなぁ。中止だよ。ちゅ、う、し。当たり前じゃないか」


 プルップはイスカリの方に手を伸ばすと、木の枝が伸びて体を貫いた。


「ゴフッ、ガハッ!」


 血を吐き出している。致命傷だ。助けを求めるように俺を見たが、首をかききるジェスチャーをして返事する。前回の死によって、俺との友情は終わったんだよ。


 口をパクパクと動かしながら息絶えた。


「あの男と何の取引をしたんだ?」

「うーん。教えたら何をしてくれるのかな」

「お前を殺してやる」

「いいねぇ~。噂以上だ。気に入ったから教えてあげる。あの男との取引は、君の居場所を教える代わりに魔の森に入った冒険者に手を出さない、そんな内容だね」

「どうして俺の居場所を知りたがってたんだよ」

「そろそろ、この街を落として人を狩ろうと思ってね」


 俺が毒殺された時、魔族に動きはなかった。過去とは違う行動をしたせいで、プルップが人を狩ろうと考えるに至ったのだろう。理由については、なんとなく想像つくが、答え合わせをしたい。


「今まで魔の森から出なかったクセに、今更どうして人を狩ろうとする?」

「え、君たちが先に手を出した来たからだよ。もしかしてマーシャルは、あの人数を私の家へ送りつけたくせに、被害者面するつもり?」


 魔族のテリトリーに手を出さなければ攻めてこない。だから魔の森を伐採することはしなかったし、騎士が魔族の根城を襲うこともなかった。


 本来であればあり得ない出来事である。


 だが事実として、プルップは襲われたと言っているのだ。父の率いている騎士が暴走するとは思えないので、金の鉱山を探しに来た冒険者どもが荒らしたんだろう。


 よし状況は整理できたぞ。


 冒険者がプルップの寝床を襲い、怒りに身を任せて冒険者ギルドに乗り込む。そこでプルップに殺されそうになったイスカリは、命ほしさに裏で操っていたのは俺だと嘘の証言。今に至る、って感じだ。


 大枠は俺が予想していた通りである。クソみたいな答え合わせは完了だ。


「さあ、遊ぼう! 全てを奪ってあげるっ!」


 プルップの両手から直物のツタが伸びてきたので、剣で斬り捨てていく。数が多すぎて防戦一方であるが問題はない。


「死ねっす」


 背後から奇襲したクライディアが剣を振り下ろし、肩から腹にかけて切り込みを入れる。


 傷口から血管のようなツタが伸びて再生は始まったが、俺への攻撃は止まっていた。どうやら植物系の能力は、同時に使えないようだ。


 プルップに近づくが、口から炎が吐き出されたので横に回避。クライディアが、なぞるようにして再生中の傷を再び斬る。ツタがブチブチと切られ、体は両断された。


 意識を失ったのか分からんが、口から吐き出していた炎は消えている。


「よくやったッ!!」


 前に飛び出しプルップの首と頭を数十回ほど斬り刻む。死ぬまで何度も頭を斬ってやると決めていた。


「マーシャル様! 危ないっす!」


 警告と同時に後ろから気配を感じたので跳躍する。先ほど居た場所に水たまりがあり、その代わりにプルップの下半身が消えていた。


「こいつ、スライムがベースになってるっす!!」


 魔族は基本的には人をベースにしているのだが、例外的に魔物の体がベースになることもある。そういったタイプは恐ろしく強い。


 さらに厄介なこととして、スライムは他の生物を捕食すると、相性が良ければ見た目や能力を模倣できるようになる。


 スライムだったプルップは人を捕食して、今の体を手に入れ、二つ目とも呼べる肉体を手に入れたんだろう。


 植物と炎の魔法は、魔物か人を食い殺したときに手にれたと考えれば、多彩な能力にも納得できる。


 今後、さらに捕食して強くなる前に潰しておきたい。


 攻撃を止めた間に、斬り刻んだ頭や上半身も液体に変わると、一部を矢の形にして俺の方に飛ばす。剣で弾くが数は多く、いつまでさばききれるか分からんぞ。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る