第18話 協力しろっす!
何度も剣で攻撃を防いでいたが、ついにミスをしてしまい、体液で作られた矢が俺の頬をかすった。このままだと致命傷をもらってしまう。立て直さなければと考えていたら、ナターシャの声が聞こえる。
「お兄様っっ!」
集中力が一瞬だけ抜けてしまい、不覚にも飛び散っていたスライムの体液を踏んで拘束されてしまう。小さな水たまりだったので足止めぐらいの力しかないが、目の前に数十本の体液で作られた矢が迫ってきているので、効果的な戦い方だと言える。
力押しを好む魔族らしくない戦い方だ。
俺と同じで脳筋だと思っていたのだが、どうやらプルップは違うらしい。
『シールド』
体をねじって急所に当たらないよう体勢を変えようとしていたら、目の前に青く輝く盾が出現し、全ての矢を防いだ。形が保てなくなって水に戻り、床に落ちる。
青い盾は、魔道士が使う初級レベルの防御魔法。俺やクライディアは使えるはずがない。もちろんエミーもだ。
ナターシャが使ってくれたのだろう。魔法を発動させたことで、ミスリルのスタッフは光を放っていた。
昔から魔道士の家庭教師を付けて勉強しているのは知っていたが、既に初級レベルの魔法が使えるようになっていたのか。
初回の人生では、戦いの場に連れて行くことがなかったので知らなかった。
「おケガはありませんかっ!」
防御魔法を維持しながら駆け寄ってきたナターシャは、俺の頬をさする。血が手に付いてしまったようだ。
「エミー、協力しろっす!」
「はいはい。スライム退治を手伝いますよっと!」
コアと呼ばれるキューブ状の物体を破壊すればスライムは自壊する。それが魔族であっても変わらない。二人の騎士は、その弱点を探し、攻撃するつもりだ。
プルップはコアが狙われていると気づき、攻撃を中断して植物の魔法を使い、対抗している。ツタが部屋を破壊して壁や床はボロボロだ。穴が空いている。
「あの二人で倒せると思いますか?」
「無理だ。絶対に負ける」
ベテランの騎士二人だけで魔族を倒せるのであれば、とっくの昔に魔の森は人類の物になっている。
「やっぱり人はうざい。さっさと諦めて死ねば良いのに」
液体が一つにまとまると魔力が増大した。大きな塊になると、プルプルと震えだす。
「二人とも下がれッ!!」
チャンスだと思ったのか、攻撃をしようとしていたので命令を出した。しかし少しだけ遅かったようである。
液体からトゲが飛び出したのだ。あんな数、剣ではさばききれない。逃げる場所もない。
『シールド』
クライディアとエミーの前にも盾が出現した。トゲが当たると突き刺さる。拮抗していると、床から植物が生えると盾を浸食していく。
複合魔法か。威力が増している上に浸食作用もあるので厄介だ。
「ギルド長! 無事か!」
「なんだこりゃ!」
「戦争でも始まったのか! どうなってるんだよ!?」
冒険者どもがやってきたようだ。ギルド長室に入ると足を止めて驚いている。タイミングが悪い。
「うるさいなぁ」
再び液体で作ったトゲが発射された。俺やクライディア、エミーは『シールド』で守れてているため問題ないが、無防備な冒険者達は違う。
水のとげの中に種子が入っていたようで、冒険者に刺さると体内に浸食していき、全身に根が浮かび上がる。ウネウネと動いていて気持ちが悪い。
「プルップさま……てき、ころす」
最悪なことに意識を乗っ取られたようだ。こいつら、とことん使えないな。気合いで何とかしろよ。俺ならできるぞ。
冒険者達が襲ってきたので無言で斬り捨てる。体を上下に両断したのだが、血管のように動く植物のツタが伸びて体を再生させようとした。
プルップと同じ能力を持っているのか。芸がない。死ぬまで斬り刻んでやる。
「お兄様を攻撃するなんて許せない」
手に付いた俺の血をペロリと舐めたナターシャが、怒りの視線を冒険者に向ける。
『ファイヤー』
操られた冒険者たちの足元から火柱が出現した。着火する時に使う初級の炎魔法だなのだが、少々威力がおかしい。魔法の効果を増大させるためには、高度な技術と人並み外れた魔力量が必要だと聞いていたのだが。既に両方を持っているのか?
であれば、さすが俺の義妹と言える。父に自慢してやろう。
浸食した植物ごと焼き殺したナターシャは、プルップにミスリルのスタッフを向けて睨みつける。
「次はあなたです」
「…………」
トゲの発出を止めたまま動きはない。魔法に警戒しているのか、それとも別の作戦を考えているのか。
「立て直さないと」
プルップが大きな種を落とすと、穴の空いた天井から外に出てしまった。三人が追撃しようとする。
「手を出すな! みんな飛び降りろ!!」
急いでナターシャを抱きかかえると、半壊しているギルド長室の壁をぶち破って飛び降りる。二人も後に続く。
頭をぶつけないようにナターシャを庇いながら、着地と同時に衝撃を軽減させるために転がる。
振り返ると冒険者ギルドの建物は崩壊していた。代わりに、どでかい木が立っている。幹は太く、直径で数メートルはあるぞ。
大量の葉を付けた枝は大きく広がっていて、周囲の建物に日陰を作っていた。あれを伐採するのに、どのぐらいの労力が必要となるのだろうか。考えるだけで嫌になってくる。
「ななななんっすか。あれ」
「魔族の仕業、だとしたらやっかいですね……」
ベテランの騎士である二人が驚いていた。俺も例外じゃない。巨大な植物を即時に生成する能力を持っているだなんて普通じゃないのだ。
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