第2話 担当アーティスト
マネジメント部のテナントに足を踏み入れると同時に、周りからどっと歓声が上がった。
「お、来ました、新人くん」
「まってましたぁ」
「よっ、救世主」
全員立ち上がって拍手をしながら、まるでお宝を見つけたかのような顔をして俺を見つめている。
俺は案内されるがまま、自分のデスクに誘導される。
「名取さん、待ってました、では、皆さんに自己紹介を」
部長格の女性が言った。
「は、はい、経理部から参りました、名取恵那と申します。精一杯がんばりますので、何卒よろしくお願いします」
部屋の中に拍手が響き渡る。
「はい、という事で皆さんよろしく、私が一応マネジメント部統括させていただいてます、天野です、こちらが副統括の山口さん」
天野が手をパッと出すと、若そうな女性がこちらに向けて会釈した。
「副統括山口です、お願いします」
「お願いします」
俺も山口に向けて会釈した。
「じゃあ今日も忙しいから、みんな頑張るよ〜、ミーティングは以上です」
天野の掛け声と共に、各々デスクについて作業…ではなく、ほとんどの人が荷物を持って部屋から出て行ってしまった。
「名取くん」
「は、はい」
ガラガラになった部屋にポツンと取り残された俺の目の前に、女性が現れた。
「一応新人担当の児玉です、今から仕事の流れとか説明するね」
「あ、はい、よろしくお願いします」
俺が頭を下げてそう言うと、児玉は嬉しそうにして、
「やっぱ爽やかでいいね〜、いま何歳?」
「あ…25です」
「いいね〜私もその頃に戻りたいわぁ…」
児玉は見た感じ若そうではあるが、反応を見る限り俺より年上ということか。
「じゃあ、大まかな内容は連絡行ってると思うから、大事なことだけつまんで話すね」
児玉が言った『連絡』というワードに俺は思わずハッとなる。
そういえば数日前に会社から封筒が届いていた。存在こそ気づいていたが、山積みの仕事を前に確認する暇もなかった。
…なんて言い訳が通じるわけが無い、社会人なのに何してんだ、俺。
「あれ、、もしかして…封筒の中身見てない?」
児玉は急に小声で言った。
俺は思わずギクッとしてしまう。
「い、いや…。あの、えっと…すいません」
「やっぱり〜、まあ許しましょう。じゃあとりあえず今日伝えておかなきゃならなそうなことは話しておくから、詳しいことは家帰ってちゃんと確認すること、いい?」
「すいません…」
初日から印象を悪くしてしまった…最悪だ…。切り替えなければ。
「はい、とりあえず1日の流れとしては、とりあえず9時に全体ミーティングがあります、そこから各自担当しているアーティストさん、芸能人さんによって、動きが変わって来ます」
児玉はそう言いながら、俺をホワイトボードの前に案内した。俺に説明するための文言が殴り書きで書かれている。
「そのまま担当している人の仕事がある場合は、そのまま同行に向かいます、仕事がない場合は、ここに残って連絡調整など諸々の事務作業を行います、つまり今残っている人は後者の人方々」
児玉がそう言うと、ポツポツとオフィスに残って仕事している人たちがこちらを向いて会釈した。
俺もすかさず会釈し返す。
「体制なんだけど、基本的に1人に1人。例えば6人のグループだったとしてもそれぞれメンバーごとに1人ずつ、マネージャーつく感じ。これは会社の創業以来変わらないことなの。まあ、1対1で信頼関係を構築する的なやつだね」
児玉はそう言うと自分の後についてこいと言ったので、その後を引っ付いて歩く。
「ここがあなたのデスク、机の上に置いてあるものは自由に使っていいからね、早速だけど、これが名取君が担当するアーティストさんの情報。前の担当さんが滅茶苦茶細かく書いてくれてるから、隅々まで読むこと、これを読まないことには始まらないのよ」
そう言って、A4の紙10枚ほどを渡された。裏表びっしり文字が書いてある。
俺は1枚目に載っている顔写真と名前を見て、驚いた。
『サリ』
さ…サリ…ってあのサリ!?
顔写真の下の文章に目を通してみる。
『サリ(
「名取くん、いきなり大物なのよ、でも大丈夫、最初のうちは私も同行するわ」
目線が資料に張り付いている俺を見越して、児玉は言った。
「だ…だ、大丈夫でしょうか?」
驚きなのか緊張なのかわからないが声が震えてしまう。
「まあ新人でいきなりこんな大物担当は、少なくとも私が入社してからはないわね…」
そんな言葉を聞いて俺の口は開いたままになってしまう。
「名取くん」
「…はい?」
「とりあえず行こうか」
「ど、どこに、でしょうか?」
俺の顔を見てニヤニヤしながら児玉は言う。
「…サリさんを迎えに」
超有名アーティストのマネージャーに内定したら、まるで漫画のような激モテ展開が。 にゃんちら @nyanchira
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