超有名アーティストのマネージャーに内定したら、まるで漫画のような激モテ展開が。

にゃんちら

第1話 世紀の大異動

「いや〜、今回の変わりようは凄いですね」

「そうだな、これでいい流れが来れば本望だが」



会社が新体制になった初日の昼、社員食堂でぼやく経理部の部長と副部長である。



「まあ、それくらいのことをしてしまいましたからね…。問題の企画部は総入れ替えですよ」

「黙って見てるのも同罪、これが大人の社会の仕組みだからな」

「それはそうなんですが、関係ない我が経理部まで入れ替わりましたからね…。あぁ、ウチの主力が…」


副部長が肩を落としながら言った。


「名取か…、あいつなら上手くやるだろう…。で、彼はどこ行ったんだ?」

「マネジメント部です」

「ま、マネジメント部ぅ?」


部長はもぐもぐしていたおにぎりを吐き出しそうになる。


「大丈夫か…? 彼、見るからに似合わなそうな感じではあるが」

「部長、それ悪口じゃないですか? 要するに、名取君はキラキラしていなくて地味だから厳しいと…」

「そ、そこまで言ってないだろう。…まあ、きっと大丈夫だ」

「…そうですね。僕らには祈ることしかできない」



★★★★★★



『青坂〜、青坂〜、ご乗車、ありがとうございます』



地下鉄の駅の構内に響き渡るアナウンスと共に、電車からドワッと人が吐き出される。



大都会、東京のど真ん中、中区青坂には、世界に誇る名所、青坂タワーや、大手企業、中央省庁などのビルが立ち並ぶ、の首都である。



青坂タワーを目当てに来る外国人観光客もちらほら見えるが、ほとんどはスーツを着た人間だ。



その人間の間をすり抜け、長い長いエスカレーターに乗る…のでは間に合わないので、横にある階段を駆け上がっていく。



乗り入れ路線数11本、日本最大級のターミナル駅であるここ青坂駅は、首都ど真ん中ということもあり、平面にたくさんのホームを連ねるほどの土地はもはや存在しない。よって地下にホームを作り、というのを繰り返していたらいつのまにか地下12階までできてしまっていた。



俺が乗ってきた、地下鉄新都市線は、3年前にできた新路線である。ここ青坂駅に参入した1番新しい路線である。



つまり何が言いたいかというと、新都市線が乗り入れる階層は最下層の12階である。



よって地上までの道のりは長い。流石に深すぎるだろうと、地上階への直通エレベーターがホーム内に合計8基用意されているが、そんなもの常に満杯でおしくらまんじゅう状態である。



よって人々は長い長いエスカレーターの旅を始めようとする。流石に12階分を歩きたいなど朝から思う奴はいないだろう。



時間に余裕を持ってくれば、このエスカレーターの旅に参戦しても間に合うのだが、ギリギリの時間まで寝ていたいという大学生気分が未だに抜けてない俺は、この過酷な階段コースを選択する。



そんなことを考えていると、地上階についた。改札を抜け、バスロータリーまで小走りに向かう。



ここからバスで10分である。



バスロータリーについてカバンの中から財布を取り出そうとゴソゴソやっていると、後ろから肩を叩かれる。



「よっ!」



振り返ってみると、同期の藤沢宏姫ふじさひろきである。と同時に来たバスに乗り込む。



「すげえ、変わっちまったよな…、私、人事部だってよ」



宏姫は、「はぁ…」と大きなため息をついて言った。



宏姫は、入社当時から経理部の同期で、共に過ごした時間は1番長いと言っていい。



その男っぽい喋り方と、『ひろき』という名前から

実際に会ってみるまでは全員男だと思っているが、女性である。『ひろき』の『き』は姫なので、漢字で書くとわかりやすい。



そして俺、名取恵那なとりえなも『えな』という名前から実際に会ってみるまでは全員女だと思っているが、男性である。俺の場合は漢字で書いても女性感は拭えない。



だから2人で他社に挨拶に行く機会があると、必ず名前を逆に呼ばれる。まあ、もう慣れっこではあるが。



「ていうか、恵那良かったやん! みんな羨ましがるところだぞ」

「そうか? 俺は正直馴染める気が一切しないけどな」

「まあ、そんな感じもするけど」

「こいつ…」



俺が手を振りかざすと、宏姫は手で頭を覆った。



こんな感じで戯れ合うことができるくらい仲が良い。そんな宏姫と離れ離れになってしまうのも、なんだが寂しような。



バスが会社のビルの前につき、俺たち2人は降りる。同じビルには何社も入っているせいか、このバス停でほとんどの乗客が降りる。



そのまま流れるようにビルに入り、エレベーターに乗る。



「マネジメント部って何すんの? 名の通り、マネージャー的な?」

「まあ、そんな感じだな、まあ最初からいきなり専属ってわけではないと思ってる、なんかの事務とかだろう」

「え〜、それじゃあ他の部署とあんま変わらないじゃん、キラキラしている芸能人の付き人…。っていうのでみんなそこを志望してるのに」

「そんな急にやれって言われても無理だろ、とりあえず皆さんに迷惑をかけないように…」

「まあ、緊張はするよなぁ…、まあ恵那なら大丈夫。この藤沢が言うのだから間違いない」

「何の自信だ、それ」



エレベーターが45階に着き、2人で降りる。



「じゃあ、私こっちだから、頑張れ!名取!」

「おう、宏姫もな」



俺は若干心臓がバクバクしているのを感じながら、1人歩いて行った。

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