第6話 3
《――当該躯体の危機状態離脱を確認。
当該ローカルスフィアをグローバルコアより切断。
グローバルスフィアへ回帰させます――》
まるで星々が形成する銀河のように。
色とりどりにまたたくローカルスフィアの輝きが遠くに見えた。
ローカルスフィアが見せる、グローバルスフィアの輝きだ。
俺のローカルスフィアに刻まれた<近衛>が、俺にそう教えてくれる。
星々をとりまくように、人々のローカルスフィアがきらめていユニバーサルスフィアを形成する。そしてそれがさらに集まって、
こうして可視化されたものを見るのは初めてだが……宇宙は、こんなにも賑やかで彩りに満ちていたんだな。
周囲に目を向けると、ドリームランドのユニバーサルスフィアと、わずかに離れて<女神>に乗艦している連中のローカルスフィア群が見えた。
さすがフォートレス級戦艦。
乗員達が構築するローカルスフィアネットワークがユニバーサルスフィアのそれに近い規模にまで膨れ上がっている。
――さて。
あいつにカッコつけて出てきたものの、今どういう状態だ?
どうしたら目覚められる?
と、そこに。
『――わ~か~っ!!』
ドリームランドのユニバーサルスフィアから、緑に輝くローカルスフィアが飛んできた。
発せられた声は、いつも平坦で無機質なあいつらしくない、焦ったようすの声色で。
『――おう、エイト』
応える俺に、ヤツはすぐそばまでやってきて、ぴょんぴょんと跳ねた。
『おう、じゃないですよ! なんで
エイトもドクトルもすごいすごい頑張ってたのに若は呑気にゴーストごっこですかもームカつくこの主エイトマジおこですよ転職だって考えちゃいますよ!」
『うお!? めっちゃ早口で怒るじゃん!?』
『そりゃ怒りますよ! みんなどれだけ心配したことか!
本当に……本当に……もうダメかと思ったんですよぅ……』
一瞬前とは打って変わって、涙声で訴えるエイト。
いつもの抑揚のない声がウソのようだ。
『ああもう、悪かったよ。というか、気づいたらここに居たんだ。
どうしたら目覚められるんだ?』
『まあ、抜けたトコのある若の事ですから、そういう事もあるかなと思って、エイトがお迎えにあがりました』
『……さんざん罵っておいて……』
抜けてるとか、おまえにだけは言われたくねえぞ。
俺が恨みがましく呟くと、ヤツは緑の輝きを何度か瞬かせて。
『――うっかり~』
こいつは本当に!
少し優しくすると、すぐつけあがりやがる!
『それでは躯体までエスコートさせて頂きますね。
行きますよ~』
エイトのローカルスフィアと俺のローカルスフィアにリンクが確立する。
そして、ドリームランドのユニバーサルスフィアが一気に迫ってきて――
「――ブハッ!!」
俺は目を開く。
「――ライル坊!」
「――若っ!」
俺を上から覗き込む、直臣達の顔。
「……悪い、心配をかけた」
身体を見れば――きっとおギン婆が処置してくれたんだろう。
あれほど臓物が噴き出していた腹は、綺麗に塞がっていて痛みすらない。
「――若ぁ!」
スーさんが泣きながら抱きついてきて、俺は息をつまらせる。
良い匂いがするスーさんのハグは、寝起きには刺激が強すぎるんだ。
「――拙者は信じておりましたぞ。若はきっとすぐに目を覚ますと」
ベッドの横で腕組みしながら、何度もうなずくカグさんだったけれど、目尻にうっすら涙が浮いていて、俺を心配してくれてたのがよくわかる。
「は~、やれやれ。久々に肝を冷やしたよ。まったく年寄りを働かせるんじゃないよ」
そう告げてベッド脇の椅子に腰掛けるおギン婆は、手術着のまま、汗だくで髪もボサボサだ。
きっと俺を助けるために、必死に処置をしてくれたんだろう。
髪はいつもボサボサだけど、今は汗だくなのもあって、いつも以上にくたびれて見える。
「――エイトが言いたい事は、もう伝えましたから」
と、ひとりだけ取り澄ましてベッド脇に立つエイト。
だが、こいつも手術着なのを見ると、きっとおギン婆の助手として、俺の命を繋ぐために頑張ってくれたはずだ。
……俺は。
こんなにも頼りになる家臣がいるってのに、用心棒が出てきたくらいで取り乱して……ひとりでなんとかしようと思い上がっていたんだ。
――きっと、待ってますから。
クレアの言葉が蘇る。
……今度は間違えない。
――やられたら、やり返す! あらゆる手段を使って、絶対に!
そうだよな。シホ……
幼馴染のあいつの名前を心の中で呼んで、俺は上体を起こした。
「さあ、反撃だ。みんな、力を貸してくれ」
俺の言葉に、スーさんとカグさんは力強くうなずく。
「――はいっ!」
「その前に……」
と、エイトがひどく澄ました様子で右手を挙げた。
「若はカッコつけてないで、服を着た方が良いですよ。絶賛、モロ出し中です」
「おわわわわっ!?」
シーツを引っ張って、慌てて下半身を隠した。
家臣達の笑い声が医務室に響き渡る。
締まらねえなぁ、もう!
だが、俺達らしいといえばらしいか。
「――とにかく準備だ! 今度は<
全力でやり返して――」
俺は家臣達を見回し、ニヤリと笑ってみせた。
「俺を敵に回した事を、徹底的に後悔させてやる!」
そして、俺達は反撃に向けて動き出す。
――見てろ、シホ。
クレアというお姫様を取り戻して、俺が作れる最高のハッピーエンドを見せてやる!
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