二十・遊花街(二)
王都・
外郭は、北端に鎮座する
王城正門は南面し、内堀の橋を越えた先には、王都を南北に貫く
交差する同じ幅の大道が東西にも一本。それよりやや幅の狭い
里とは、租税や
一つの里には百戸程度が収まり、庶民が日々の暮らしを営んでいた。
市場、工房、官吏宿舎、
「これはお
門外で馬車を降り、番人に番賃を渡して東の花街へと足を踏み入れた途端、人波を軽快にかき分けて、旅芸人一座の呼び込みの小男が駆けつけた。
赤や黄、青に緑と、けばけばしい色使いの派手な衣服を着て、顔には
いきなり声をかけられてルドカは面食らったが、前に立つ
「一番良い席に座れるのか」
「それはもう、十分な席料さえ頂けましたら、確実にございます!」
「無礼な。姫が席料ごとき問題にするとでも。して、
頬を染めてあれだけ楽しみにしていた姿が幻かと思えるくらい、杏磁は貴族の娘らしい居丈高な物言いをして、勿体ぶった仕草で巾着を持ち上げている。
「へえ、一番良いお席ですと、お一人様につき、弓張り月を頂いてございます」
小男は遊花街に特有の金額の表し方をした。
遊花街では朔月が百銅、弓張り月が五百銅、望月が千銅を意味した。
百枚以上の銅貨を持ち歩くのは難儀なため、実際の支払いは
杏磁は家紋入りの月牒を出した。主であるルドカがお忍びのため、彼女の実家でひとまず立て替えておくのだ。暗黙の了解でこういうことができる家柄でなければ、宮廷勤めは難しい。
「最も良い席を横並びに三つと、中央真後ろの席を買う」
「へえ、ありがたき幸せ! ささ、どうぞこちらへ」
「ふっかけられましたね」
後ろで
どこの邑でも、花街の青い門を潜ってすぐの場所は広場になっており、訪れた旅芸人が興行のために小屋掛けをしたり、遊歴の
大きな邑になると、予め芝居のための
案内された客席は、屋根と柱だけの
横長の石製台座が数列連なっており、最前列は見るからに幅広い。柔らかく温かそうな羊毛の敷物に覆われ、肘を置くための
後方へ行くに従い安い席になるため、幅は狭くなり、敷物もなくなり、しまいには屋根もなくなって、立ち見になる。それでも舞台さえ見えればいいとばかり、押し寄せる客は引きも切らない様子だ。
目の前には、簡素ながらしっかりとした造りの戯台があった。
正方形の高床に左右二本の柱が建てられ、縁が反り返った形の瓦屋根が乗っている。後方には楽屋の建物があり、両端に役者の出入りする門が見える。
満員御礼を叫ぶ声が聞こえると同時に、客席の周囲に
柿渋色の布面をした一座の者によって
先ほどの小男が舞台に上がり、独特の節回しで口上を述べ始めた。その後ろで、上手の門から楽器を抱えた数人の奏者が静かに現れる。
三弦を抱えた細身の女がいた。
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