第14話 とある冒険者たちの末路3
三人は北の小さな村へと向かう乗り合い馬車に乗り、そこからは徒歩でダンジョンへと向かう。
「おい、こっちでいいんだよな?」
「ああ、前回と同じルートだからな。間違いないはずだ」
「はぁ……もう……ホント遠いんだから……!」
朝一番でクロックソードを出発した三人の足取りは重い。距離が遠いということもあるが、やはり精神的な余裕の無さが如実に表れている。
「しかし、どうするつもりだジャック。こっちにはヒーラーがいないんだぞ? ダンジョンに乗り込むなんて無謀すぎる」
「事情を知らない奴を連れて来るわけにはいかないって何度も言ってんだろ! 今さら文句言うんじゃねぇ。それに、事態は一刻を争うんだよ。シファンのためにも、すぐにダンジョンの主を倒して解放してやるんだ」
「一応、薬は沢山用意したから、回復できないことはないよ。そりゃ、魔法に比べたらだいぶ手間がかかるけどさ」
「そもそも、お前がきっちり攻撃受けてくれれば、回復の必要なんてねぇんだ。役目を果たせよダンテ」
「…………わかった」
それからしばらく歩き続け、ダンジョン近くまで到達した頃、不意に先頭を歩くダンテが足を止めた。
「気をつけろ。何かいるぞ」
三人の周囲を、草むらに紛れつつカサコソと動き回る奇妙な物音。その数は一つや二つじゃない。軽く十は超えている。
「いつの間にか囲まれてやがる……⁉」
「ど、どうするの⁉」
「とにかく魔法だ! 魔法をぶっ放せ‼」
ジャックの指示に従い、メリルはひたすら炎魔法を撃ちこんでいく。しかし何かに当たった手応えはまるでない。
「何やってやがる! 全然気配が消えないぞ!」
「姿が見えないんじゃ当てようがないって! かなりすばしっこいし!」
闇雲に撃ちまくった炎によって、気づけば辺り一面火の海になっていた。前回、彼らが敗走した時と同様、炎の檻に囲われた形だ。
「おい! やりすぎだ! 自分まで燃やすつもりか⁉」
「ち、違う! 私はそんな……」
「いや、敵が炎を利用しているんだ! ゴブリンみたいな影が、草むらに火をつけているのが見えた!」
「はぁ⁉ ゴブリンだと⁉」
てっきり山賊の襲撃だと思っていたジャックは唖然とする。自分がここまで翻弄されている相手が貧弱なゴブリンであるという事実に、怒りが湧いてくる。
「クソ……! クソ! メリル! サッサと火を消せ‼」
「さっきからやってるけど、全然消えない! 火の勢いが強すぎる‼」
前回とは違い、水を飛ばしても火の勢いが衰える様子はない。それどころか時間が経つごとに徐々に燃え広がっていき、呼吸すら苦しくなってきた。
「二人とも! こっちだ! こっちに抜けられそうな隙間があるぞ‼」
ダンテの視線の先に、一か所だけ炎が弱い箇所がある。そこを通り抜ければ、外へ出られそうだという発想に至り、行動に移すまでは一瞬だった。
三人は我先にと走り始める。一人がギリギリ通り抜けられそうな幅に揃って駆け込み、押し合いながら飛び込む。
「よし、これで────」
ジャックが無事に炎の外側に足を着地させた瞬間、地面が頼りなく沈み込んでいく感覚に襲われた。
「なっ────⁉」
落とし穴だと気づいても、もう遅すぎる。
突如として全身を包む浮遊感。目が焼けるほど明るかった世界から一転、今度は何も見えない真っ暗闇に放り込まれる。
その直後、強烈な衝撃が背中を襲った。受け身すら取れずに、地面に叩きつけられたその衝撃によって、彼はあっという間に意識を刈り取られ、ストンと瞼が落ちた。
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