第13話 とある冒険者たちの末路2
三人はすぐに酒場を飛び出し、宿へと帰った。全員でジャックの部屋に集まり、青ざめた顔を突き合わせる。
「お、おい、どういうことだ? なんでシファンが……」
「落ち着けジャック。有り得ないことだ。シファンが生きているはずがない」
「はずがないって、現に見たって言ってる奴がいるだろうが! お前こそ現実見やがれダンテ! シファンが生きて、街まで戻って来てんだよ‼」
「いやいや、おかしいって。そんなはずない。シファンがあの包囲を一人で脱出して生き延びられるわけないって。もしそれができたとしても、私らのとこに来ないのはおかしくない?」
メリルの指摘に、ジャックは黙り込む。
生きて帰還していたのなら、パーティーメンバーである自分たちのところに顔を出さないのはあまりにも不自然だ。
そうしなかった理由がある。仲間であるはずのパーティーメンバーに帰還を報告しない理由が何かある。
その理由に、全員が薄っすらと心当たりがあるからこそ、揃ってこうも焦っているのだ。
「やっぱ……生きてるわけないでしょ。あの子は絶対死んでるよ」
「だったらあいつが見たシファンはなんだ? 亡霊だとでも言うつもりか?」
「いや、ダンジョンのモンスターに利用されている可能性もあるのではないか? 人間の精神を支配できる魔法や、人間の死体を自在に操る魔法は存在する。生きているにしても、死んでいるにしても、シファンは既にダンジョンの主によって傀儡にされていると考えるのが自然だ」
少なくとも、シファンに本人の意思は残っていない。そう考えるダンテの意見は正論ではあるが無意識な現実逃避も含んでいる。
しかし、それを指摘できるような立場の人間はこの場にいない。二人がダンテの意見を否定する理由はなく、自然とその方向で話は進んでいく。
「じゃあ……モンスターの手先が街に入り込んでるっていうのかよ」
「そういうことになるな。しかもそれは、俺たちの仲間の姿をしている」
「ね、ねぇ、これってマズいんじゃないの? もしシファンが何かやらかせば、ちゃんと死亡報告しなかった私たちの責任になるよね?」
「な、何かやらかすってなんだよ」
「そんなの知らないわよ! モンスターの操り人形になってんでしょ⁉ だったら盗みだろうが、人殺しだろうが、何やってもおかしくないじゃない‼」
「大声出すな! 外まで聞こえるだろうが‼」
ビギナーランクから上がったばかりのEランク冒険者であり、依頼の報酬を貯金していたシファンとは違い毎晩のように飲み明かしていた三人に、高級な宿に泊まれるような金はない。
壁は薄く、話し声は外に丸聞こえだ。密告されれば、冒険者資格をはく奪され、ギルドで依頼を受けられなくなる可能性が高い。
そうなれば、三人は路頭に迷うことになる。ギルドを介さない依頼は、基本的に報酬が割に合わない。また、個人間の取引なのできちんと払ってもらえる保証もない。
他の職を探すのも簡単ではないのだから、冒険者資格はまさに三人がこの世界で生きていくための生命線だ。絶対に失うわけにはいかない。
「こうなったら……俺たちで何とかするしかないだろ」
「ジャック、どうするつもりだ?」
「あのダンジョンにまた乗り込むんだよ。そんで、そこの主をブッ殺す。そうすりゃ全て解決だろ?」
「それは……そうかもしれないけど……」
「なんだよメリル。ビビってんのか? 情けねぇ。俺たちは冒険者だぞ? そんなんだから未だに冒険者資格取得費用の元すら取れねぇんだ。その上、シファンのせいで変な噂でも流れて仕事が取れなくなりゃ、俺たちに残るのは借金だけだぞ?」
そう言われてしまえば、メリルも黙るしかない。彼女が大事そうに胸に抱えている杖は、冒険者として活躍し、大金を手に入れる見込みで買った物。
そろそろ実績を上げなければ苦しいというのは、ジャックに言われずとも痛いほどよくわかっている。
「明日にでもあのダンジョンにまた潜って、ちゃちゃっと始末するぞ。それでいいな?」
ジャックの決定に、二人は渋々首を縦に振った。
なぜ自分たちが仲間を一人欠くことになったのか。その原因を考えることすらせずに、三人はまたしても不充分な準備のままダンジョンに挑むことを決めた。
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