第10話 ゴブリンの食料
「────おい、あのゴブウッドども全員ブッ殺さねぇか⁉」
「駄目! いくらクロンの命令でもそれは駄目‼」
リンが俺の背中をポカポカと殴ってくる。しかし俺は冗談で言っているつもりはない。少なくとも半分は本気だ。
なにせこいつら、死ぬほど食いやがる。備蓄しておいた食料はあっという間に食い潰して、それでも足りずダンジョン周辺にある食べられそうな物に片っ端から手を出していく。
ゴブウッドが人を襲う理由がよくわかった。人の溜め込んだ物を奪い取るぐらいじゃないと、こいつらの消費スピードに追い付かないんだ。
「クソ、欠陥生物が! ずっと食いモン取りに行かせてんのに、それ以上に食うから労働力的にはむしろマイナスなんだが? あのちっせぇ体のどこにそこまで入っていくのやら」
「皆お腹一杯食べないと働けないから、ご飯減らされるのは困るよ!」
「それだけじゃない。奴らは臭ェ! 見た目も汚ェ! イビキもうるせェ! 良い所がまったくないんだよ!」
やれやれ、そう都合良く使えるわけではないとわかっていたつもりだったが、ここまで上手くいかないとはな。
なんとかして効率的に食料を集める方法を探さないと、こいつらの労働力を全く活用できない。
「……奴ら、数は何匹だ?」
「24だよ」
「結構いるな……そいつらが毎日10人分以上の食料を食うから、一日当たり240人分の食料を生産しないと追い付かないわけか」
なんて生産性のない生物なんだ。穀潰しめ。これなら普通に人間の労働者でも雇った方がマシだった。
「……ま、裏切る心配をしなくていいだけ良しとするか。情報を横流ししたり、敵を手引きしたりするだけの知恵はどちらにしろないしな。魔王を目指す男たるもの、ゴブウッドの24匹ぐらい養えなくてどうする」
とはいえ、実際問題どうしたものか。ゴブウッドに農業は難しいし、狩りならできるだろうが供給が追い付かない。釣り……も同じだな。
ゴブウッドレベルの知能でも簡単に理解できる作業で、かつ大量に食料を確保できる手段があればいいのだが……。
短絡的に考えるなら、持ってる奴から奪うということになるのかな。しかしそれでは無意味に敵を増やすだけで、こいつらを仲間に引き入れた意味が皆無だ。
「うーむ……なぁシファン、ゴブウッドって雑食でいいんだよな?」
「そうですね。肉も魚も野菜も、人間が食べる物なら何でも食べるかと」
「人間が食べる物なら……」
「あ、でも、皆あんまり味は気にしないみたいだよ? 前にモンスターの死体とか食べてたし! 流石にリンは食べなかったけど!」
「うげぇ、モンスターの死体か……んなもん食ってるから体臭が酷いんだよ」
昔、あまりにも飢えて死にそうになった時、モンスターの肉を口にしてみたことがあるのだが、誇張抜きで死にそうになるぐらいマズかった。
飢えて死にそうなのに、食っても死にそうだった。空腹を極めた胃ですら受け付けず、毒になるようなものはキッチリ処理したはずなのに吐いてしまった。
忘れもしない。とにかく不快な食感だった。細胞のひとつひとつが蠢いて舌を撫でる感覚というのか。噛めば噛むほど口の中で小さい虫が這いずり回るような感じがした。
腐った肉を腐った水に浸して長時間放置したみたいな味も最悪だった。その後、味覚をリセットしようと思って口の中に突っ込んだ土が相対的にメチャクチャ美味く思えたぐらいだからな。
「モンスターを食すと、モンスターになってしまうという言い伝えがあるくらいですから。人体に有害であることが多いので、食べさせないようにするための教えなのでしょうが、それだけ人間にとって忌避すべきものだということですね」
「食わなきゃ殺すと言われても、アレは食いたくないな。だがゴブウッドどもは平気で食うってのか」
「気にしてなさそうだったけど?」
だったらそれを食わせとけばいいんじゃないか? 俺たちは食えないけど、ゴブウッドさえ食えるなら食糧問題はどうにかなるし、モンスターの肉ならすぐにでも手に入りそうだ。
「シファン、この辺りでモンスターが大量発生する場所はないか?」
「大量発生……ですか? ギルドへ確認に行けば、そういう依頼があるかもしれませんが……」
「だったら探して来てくれ。もしあれば、冒険者として引き受けてきてほしい。大量の食料を入手するついでに、金も稼がせてもらうことにしよう」
「え、でも、そんなことしたら、私が生きてるってジャックたちにバレるんじゃないですか?」
「構わないよ。それはそれで都合がいい」
「……? わかりました。クロン様がそう言うなら」
色々とリスクはあるが、この計画が上手くいけば資金も潤って、ゴブウッドも働かせられて、一石二鳥だ。ビビって尻込みしている場合ではないだろう。
────さて、外で食っちゃ寝食っちゃ寝している馬鹿ゴブウッドどもに、そろそろ将来の魔王軍の一員であることを自覚してもらうとしようか。
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