第3話 四人の冒険者
「四人パーティ……装備からして駆け出しの冒険者だな」
近づいてくる人の気配に気づいた俺は、遺跡の陰に隠れ、ダンジョンに迫る四つの影を見守る。
きっと、俺が生活のために起こした火の煙を見て近づいて来たのだろう。踏破されたはずのダンジョンから煙が上がっていれば、何事かと思うのは当然のこと。
これは好都合だ。既に罠は準備万端。いつでも敵を迎え撃てる。それに、経験の浅い冒険者なら、初陣の相手としてちょうどいい。
「────おい、見ろ。こんなところにダンジョンがあるぞ!」
先頭に立つ男が、遺跡を見て大きな声をあげる。
リーダーっぽい男が剣士、その隣には頑丈そうな鎧に身を包み、巨大な盾を持った重装兵がいる。後方には杖を持った魔法使いが二人。黒いローブが攻撃役で、白いローブが回復役……だろうか?
冒険者を見る機会なんてあまりなかったのでよくわからないが、割と標準的な構成のパーティーではなかろうか。
教科書通りというか、お手本通りというか、何にせよこっちの予想を超えるものではないので、このまま迎え撃つ作戦に変更はない。
「ここにダンジョンが? 地図には何も記載されていないが……既に踏破報告のあったダンジョンではないのか?」
「いいや、見ろよ。あちこち修繕された跡がある。きっと、最近になって新しいモンスターが住み着いたんだ」
「おい、先へ行くなジャック。ダンジョン探索の時は俺が先頭だ」
ダンジョンを発見して興奮している剣士を呼び止め、重装兵が前に出てくる。あの盾で敵の攻撃を受け止め、その隙に他の奴が攻撃する布陣のようだな。
「ちょっと、今日はもう帰るんじゃなかったの?」
「よ、予定にない探索は……危険だと思います! 魔力も枯渇してますし、今日のところは街まで引き返して、また後日来た方が……」
後ろの魔法使い二人はどうやら乗り気ではないらしい。
他の仕事の帰り道だってんなら、なおさら好都合だ。疲労で判断力が鈍れば罠にかかる確率も上がる。
逆に、一度帰ってから準備万端整えて来られるとこっちがキツくなる。細かいことをガタガタ言ってないでいいから早く入って来い……!
「何言ってんだ、メリル、シファン。ダンジョン探索は早い者勝ちだぞ? 今まで渋い仕事ばっか掴まされてきたんだ。ここらでダンジョンの一つでも踏破すれば、ランクだって上がるかもしれない。そうなれば今後の仕事がやりやすくなる」
「俺もジャックに賛成だ。規模は小さそうだが、ダンジョンはダンジョン。ひょっとしたら価値のある宝が眠っているやもしれん。それに、確実な安全策ばかりとっていては、冒険者として名を上げることもできまい」
「もう……ダンテまで行く気満々なワケ? はぁ……仕方ないなぁ……ほら、行くわよシファン」
「え、えぇ……わ、わかりました……」
四人はダンジョンに挑む方針を固め、こっちへと近づいてくる。
「よし、マジで来やがった……全員まとめて身包み剥いでやる……!」
見たところ、索敵や罠の探知が得意そうな奴はいない。ダンジョン探索をするつもりがなかったのなら、罠の対策は充分ではないはず。
……いける。これはいける。こちとら誰かが来るのを今か今かと待ってたんだ。思い付きで入り込んでくる半端な野郎共とは準備の差がある。
教えてやるぜ。テメェらみたいな才能ある奴らが華々しく戦ってる間、地味な仕事で必死に食いつないできた、平民の底力ってやつをな……!
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