第2話 準備フェーズ

 いくらクソダンジョンといえど、ダンジョンはダンジョン。探せばなかなか面白そうなものも出てきた。


「これは……罠か? 踏むと毒針が飛び出るタイプみたいだな。対人間用だけあって俺が狩りに使ってるやつよりずっと性能が良さそうだが……とっくに解除済みか」


 このダンジョンを制覇した冒険者パーティーには罠の専門家でもいたのか、全ての罠が解除された状態で放置されている。

 しかし、仕込んである毒を抜かれたわけではないので、これなら普通に再利用できそうだ。


 俺は戦えないし、配下もいない。魔王を目指すのなら、強大な魔王軍を組織することは必須だが、今はまだ夢のまた夢。当分はこの罠で凌ぐしかないな。


「とはいえ、実際これは解除されてるわけだし、普通に仕掛けるんじゃ同じことを繰り返すだけだよなぁ」


 このクソダンジョンは既に踏破されているということを忘れてはならない。この罠は結局誰も仕留めることなく役目を終えており、ダンジョンの主を守ることはできていないのだ。


 このまま普通に仕掛けるだけじゃ、俺だって同じ末路を辿るだろう。


 ダンジョンの主がモンスターだった場合、討伐されて終わりだが、人間だった場合はどうなるかわからない。

 奴隷にされる、投獄される、あるいはモンスターと同様にその場で殺されるかもしれない。


 そんなの、平穏に暮らしていても同じことではあるけどな。自分の命を自分の力で守れない奴に生きる権利なんかない。魔王復活後のこの世界はそういう世界だ。


「俺は何が何でも生き延びたいんだ。この罠は俺の命を守るために使える、現状唯一の武器。とにかく相手の発想の裏をかいて、一番油断するタイミングで踏むように仕向けないとな」


 罠の扱いには慣れている。人間が踏むことを想定して仕掛けるのは初めてだが、基本は動物やモンスター相手と同じだ。


「だとすると……そうだなぁ。ここをこうして……うけけ、これは絶対引っかかるだろうなぁ。宝目当てで踏み込んできた馬鹿共がひっくり返るマヌケ面が目に浮かぶ」


 拾った罠の数はそう多くない。新しく毒を調合するのも一苦労だし、罠なんてプロ相手にそう何度も通用する手ではないのだから、有効的に使わなければ。


 罠の設置と並行して、遺跡の修繕も行っていく。このままじゃどこからどう見ても踏破済みのダンジョンで、いかにも空っぽって感じだからな。


 実際、宝なんてないし、最奥にいるのはただの人間である俺だし、探索する価値のないダンジョンであることは確かだ。


 だが、せめて見た目だけでもそれっぽくしておかないと。ノコノコやってきた冒険者たちを返り討ちにして、装備品を剥ぎ取って金に換える算段なんだから、誰も来ないとこっちが生活できない。魔王を目指すどころか、冬を越せずに死を待つのみだ。


「崩れた石を積みなおして、伸び放題の草を刈るだけでもそれっぽくはなるか。あとは食料の確保だな。とにかく食わなきゃやってられねぇ」


 草刈りには石器製の鎌を使ってもいいが、欲を言えばモンスターの角や爪なんかを使いたいな。余裕があれば罠を使って狩りに挑戦してみよう。

 強い衝撃を与えると発火するバーンの実、可燃性の高いカリューの葉なんかも集めておくと、火起こしが楽になる。この辺りなら、森の中を探せば見つかるはずだ。


 ダンジョンの修繕、罠の設置、そして食料調達。全てを支配する魔王様になるどころか、村に住んでた頃よりも仕事量が多い。


 これも今だけの辛抱だ。このダンジョンがデカくなれば、全部配下に任せてるだけで片が付くようになる。


 そうなりゃ、俺は寝てるだけでいいんだ。これはそのための準備なんだ。


 ────それから一週間ほど過ぎ、新たな生活にも少しずつ慣れてきた頃、早くも俺の新居に初めての探索者が現れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る