底辺から狙う魔王の座~引きこもってるだけで勝てる最強ダンジョンを作る~
司尾文也
第1話 草原のクソダンジョン
故郷を山賊に焼かれ、逃げた先で拉致されて奴隷になり、輸送されている途中にモンスターの襲撃に遭い、命からがら走り続け、何もない草原に辿り着いた。
「うわああああぁぁぁっ! 世の中クソだ‼ クソクソクソ‼ どいつもこいつも好き放題やりやがって‼ もう俺だって無茶苦茶やってやるからな‼」
こんな目に遭う俺は運が悪い。けれど、そう珍しい話でもない。十年ほど前に魔王が復活して以来、各地でモンスターの活動が活発化し、俺たち人間の生活は脅かされ続けている。
金持ちは兵士を雇って家を守るが、平民にそんな財力があるはずもない。村は破壊され、蹂躙され、全て奪われる。
「こうなったら……アレだ。俺が魔王になってやる。そしたらテメェら全員、ボッコボコにしてやるからなぁ‼ 覚悟しとけ‼」
テメェらって誰だよ。ここには俺一人だぞ?
……はぁ、そんな、できもしないこと言ってても仕方ないよなぁ。
魔王と言えば、この世で最も力のある奴が得る称号だ。圧倒的な力で全てを意のままに操り、世界そのものを自由に作り変える。
百年くらい封印されてたそいつが起きたってだけで、世界がこの有様なんだ。クソほど腹が立つが、同時に羨ましくもある。
俺だって世界を支配したい。何もかもを思い通りにしたい。その日の安全もままならないような生活じゃなく、好きな時に好きな物が好きなだけ食えて、あとは寝てるだけでいいような暮らしがしたい。
「ま、俺みたいな剣の才能も、魔法の才能もない平民には無理な話だ。さて、これからどうしよう。この草原に都合よく整備された畑でもないもんかね」
遠目に森も見えるし、食料はなんとか調達できるかもしれないが、寝るところがないな……せめて洞窟でもあれば雨風がしのげるんだけど……。
────なんて考えていると、草原の真ん中にポツンと佇む石造りの遺跡を発見した。
あちこち穴だらけで、ボロボロではあるが、造りはしっかりしていて倒壊の心配はなさそうだ。これなら当分の間、住処にできる。
「これ、ただの遺跡じゃないな。ダンジョンか? それも、この荒れ具合を見る限りじゃ放置されて結構時間が経ってる。管理者が倒された、踏破済みのダンジョンなのか」
ダンジョンとは、宝物や管理者本人を守るために構築される迷宮のことだ。モンスターの拠点であったり、山賊のアジトであったり、魔王の根城であったりする。
魔王が管理するダンジョンは、それはもう難関であり、毎日のように大勢の冒険者が挑んでは、命を落としているとか……。
「待てよ。このダンジョン……誰も使ってないなら、再利用できないか? 俺がここの主になって、魔王城よりも強固なダンジョンを作り上げれば、俺が魔王を名乗れるんじゃないのか⁉」
おいおいおい、運が向いてきたんじゃないのか。こうも都合よく管理者不在のダンジョンを発見できるなんて、都合が良すぎるぞ。
これはもう、俺に魔王になれってことだよな? 俺は本気だぞ? マジで魔王を目指すからな?
「はは、面白れェ……やってやるぜ。とりあえず、奥まで見てみるか。ここを制覇した冒険者に根こそぎ持って行かれてるだろうが、まだ使えそうな物が残ってるかもしれないし」
俺は石造りの遺跡に入り、三歩進む。辺りには三方を取り囲む壁。そして目の前には空っぽの宝箱。
「…………ん? これで終わり?」
たった一部屋? しかも俺が前に住んでいた家より狭いぞ? いやいや、そんな雑魚ダンジョンがあるか? きっと、どこかに隠し通路への入口が……。
「……ない。どこにもない。そもそも、宝箱は普通一番奥にあるものだよな? それがここに転がってるってことは……」
三歩で踏破できるダンジョン? 馬鹿な。こんなとこ挑むより、畑耕す方がよっぽど大変じゃねぇか⁉
運が向いてきたって、誰が言った? 随分的外れなことを言いやがるな! このクソダンジョンの主になることのどこが幸運なんだ⁉
「あああああああああ! やっぱり世の中クソだ‼ ちょっと都合が良いと思ったらすぐこれだ! ああ! 余計にムカついてきた! こうなったら、何が何でもこのクソダンジョンを魔王城に作り替えてやる‼ 寝てるだけで全てが手に入る、最強の魔王になってやる‼」
こうして俺────クロンの、前途多難なダンジョン生活が幕を開けた。
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