ヤマハシスコ
扉の中は……迷宮だった。
宮殿の内部とは思えない広い空間。見渡す限りのドアと階段。
天地もめちゃくちゃ。壁や天井に階段がある。
「これは……空間拡張魔法ね。」
リリベルが見渡しながらそう言った。
冒険者がよく使うアイテムバッグと同じく、空間を歪ませて本来より広くなっているようだ。
後ろを見ると、今入ってきた扉が消えている。
完全に飲み込まれてしまったようだ。
ガチャッ
リリベルがためらいなく近くのドアを開ける。
「おいいきなり開けるなよ! あれ?」
遠くの天井に生えてるドアから、リリベルが出てきた。
「タカトー、ここ!」
重力を無視して天井に立つリリベルが俺に手を振る。
このドアはあそこと繋がってるのか。
「おーい帰ってこい。これはどうしたもんか……」
「とりあえず奥まで飛んでいってみようよ。何か見えるかも。」
帰ってきたリリベルがそう提案する。
「空間も重力も歪んでるし、どこに飛ばされるか分からなくて危険じゃない?
そもそも魔法は……あれ? ステータス・オープン!」
【ダンジョン名:《千年迷宮》】
効果:決められたルートを通らないと、二度と出られない空間。
複雑に魔法がかけられているため、解除は困難。
ちなみに術の妨げになるため、侵入者用魔力感知は適用されていない。
「この空間は魔法を使ってもアラートが鳴らないみたいだよ。」
侵入者がこの迷宮に入ってしまえば出ることは困難だろう。
つまり侵入者を捕まえに来る必要が無いという事になる。
だからノーガードでも問題ないってことか。
「そうなの? じゃあぶち壊してみる?」
「考えが単調!」
俺はその場に座り、考え込む。
リリベルはドアを行ったり来たりして、仕組みを調べている。
「あまり遠くに行くなよー。
そうだなぁ……ソースコード・オープン。」
展開したステータス画面に、ずらーーっと文字列が並ぶ。
この世界の言葉と、英語と日本語がごちゃまぜだ。
この空間の魔力構成をただ文字として羅列しただけの画面。
俺はこの画面をソースコードと呼んでいる。
「これって出口ってこと?」
ソースコードをリリベルが覗き込み、そう言う。
「ああ、これは出口って読むんだね。
じゃあここにつながる構文を追ってって……」
goto文が……行き先のようなものが付与されている場所を追っていく。
すると、ある順番が浮かび上がってきた。
「つまりそこのドアが一番だろ? で、あっちの八番に入る。
20番、29番通ってあの色が違うドアが出口だよきっと。」
「よし! 行ってみましょう!」
リリベルと俺は立ち上がり、解析した通りにドアを通る。
すると、あっけなく脱出に成功できた。
まさか魔術がプログラム的になっているとは。
転生前のブラック企業勤務のおかげで多少知識があって良かった。
もしかしたらこれも古代兵器なのかもしれない。
ただ、特に手を加えず発動させただけ、そんな気がした。
俺たちは次の部屋にたどり着いた。
◆◆◆
「ここは……」
まるで美術館。
窓から差し込む月明かりに照らされ、彫刻やオブジェが並んでいるのがわかる。
広い空間だが魔法ではなく、おそらく外から確認した宮殿の中心部だ。
「これが古代兵器? 兵器には見えないけど。」
リリベルがオブジェに近づく。
確かに、道具としての使い方が想像できない。
「じゃあ早速、設置しましょう!」
ポーチから、小さいピラミッド型の石を取り出す。
これは空間切除装置のマーカー。
このマーカーで囲った範囲は、バリアーのような光の壁が出来る。
その壁をこの部屋の内側に展開して、内部空間ごとお宝を盗もうという作戦だ。
「じゃあ俺は上の方やるわ。」
俺はステータス画面に乗って、部屋の上部に設置しに行く。
――その時だった。
パチパチパチ……
「すげーじゃん、魔法を使わないでよくここまで来れたな。」
拍手と男の声。
俺とリリベルは入り口に戻り、警戒する。
部屋の奥から男が現れた。
服装はこの国のものだが、若い学生のように見える。
リリベルが彼に問いただす。
「いつ我々の行動に気がついた。宮殿の保安設備は稼働していないようだが?」
確かに。セキュリティに引っかかれば兵士が大量に来るはず。
どうやってこの男は俺たちを察知出来たのか。
「セキュリティはうまく回避したみたいだけどよー。
残念ながら俺のスキルは小石一つの動きでも検知出来るんだよ。」
スキル……まさかこいつ!
「ステータス・オープン!」
【[反撃の勇者 レン]】
レベル:29
スキル:《
詳細:あらゆるエネルギーの経路を操ることが出来る。
普段は自身に降りかかる攻撃が相手に返って行くよう設定されている。
「異世界勇者だ。リリベル、気をつけろ。」
「わかってるわ。それで、どんな能力?」
俺たちは構えながらひそひそ声で話す。
反撃……エネルギーの操作……
また攻撃が効かない系の相手かよ。
「来ないのかー? こっちから行くぞー?」
ポケットに手を入れ、勇者がこちらへ来ようとする。
リリベルが答える。
「来なさい! 私を誰だと思っているのだ!
魔王軍 四天王[
彼女から魔力と風が溢れる。
一瞬で着替え、いつもの姿に戻る。
「いいなぁそれ。俺は全身タイツのまま。」
「いいから対策考えなさいよ!」
リリベルは七色の光の球体を展開し、横移動しながら矢のような魔法を放つ。
バシュ! ッキュイン!
バシュ! ッキュイン!
放っては不思議な効果音とともに攻撃が戻ってくる。
「無駄ムダ。魔法はぜんぶおめーに返ってっから。
俺の能力
勇者が俺たちに近づきつつ、なぜか説明してくれる。
「フッ! 返ってきても当たらなければ意味がない!
いつまで耐えられるかしら!」
リリベルは高速移動しながら光弾や魔法の矢を放つ。
魔法が返ってきてもその場にリリベルはいないので当たることは無い。
「これならどう? 《
ボゥッ! ッキュインボワワッ!
「グッ!!」
勇者の足元で発生した黒い炎は、リリベルに直接返ってくる。
足元が燃えてしまった彼女は動きを止めた。
座標指定の攻撃は直接術者に返っていくのか。
単なる反射じゃない、これが彼の能力。
「お前ら俺のコレクションの前で暴れんなよ。ぶっ飛べ。」
勇者が手を大きく動かす。
そこで発生した風は暴風となり、俺とリリベルをふっ飛ばした。
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