第10話 VS 反撃の勇者
機械娘と猫の目
ヴヴヴヴヴヴヴ……
灰色だらけの殺風景な部屋に、バイブレーションの音が響き渡る。
鉄くずや歯車で出来たオブジェが並ぶこの部屋。
ここは魔王軍・機械騎団宿舎にあるロボットが住む部屋だ。
「気持ちいいデスか? 団長サン。」
そう言って、俺をマッサージしてくれているのはロボット娘。
白い流線形のボディ、ヘルメットのような頭部にはツインテールのような装飾。
胸部分は若干の膨らみがあり、少女の形を模して作られているようだ。
「ああああああーー、ごれはぎもぢいいがもーー」
部屋の中心に置かれたベッドの上で、全裸でうつ伏せで寝てる俺。
尻あたりにタオルが被せられている。
背中をロボット娘にマッサージしてもらってるが、その手は常に微振動している。
「おおおおお」
「フフ、声が出てしまうんデスね。喜んでいただけて私も嬉しいデス。」
肩、首、頭部までマッサージ&振動。
ハンドパーツは人間の手の形が採用され、五本指がなめらかに動く。
全身すべての肉が柔らかくなっている感覚がある。
「ハイ、では仰向けになってください。」
「え、上向くのか。」
俺はタオルを落とさないように隠しながら仰向けになった。
改めてロボット娘を見ると、よく出来ている。
つなぎ目は関節部しか無く、それ以外は光沢のあるドールのような美しさ。
そっち系の趣味の人にはたまらないかもしれない。
「あ、あんまり見られると恥ずかしいデス……」
音声は合成だが違和感を覚えることは無い。抑揚などよく調整されている。
顔部分は近未来的な形をしたフルフェイスヘルメットのようだ。
表情はわからないが、なぜか照れているように感じ取れる。
「ああああああ、あっ、ちょっと待って。くすぐったいを通り越してちょっと。
あっあっ、っていうかそこに刺激は……デリケート部分は優しく……」
「ウーン、でもかなり凝ってるみたいですネェ。もう少し強めの処置が必要カモ。」
「強めの処置?」
「ハイ、リンパが溜まっているところに強い刺激が必要みたいデス。」
「リンパ?」
「ハイ、団長サマのこのあたり、リンパの流れが悪くて固くなってマス。」
「リンパの流れ」
「そうデス。私のアームユニットではこれ以上はほぐせマセん。
そこで別のユニットを使って強い刺激を与えマス。」
「別のユニット」
「ハイ、ココに搭載されている《Automatic Narrow Hole Unit》デス。」
そう言ってロボット娘が俺に対し馬乗りになる。
「大丈夫デス、ハァ、ハァ、痛くしまセン……」
「息荒い気がするけどロボットって呼吸したっけ?
っていうか《Automatic Narrow Hole Unit》って、略したらオナ」
「言わせねーよ!?」
バダン!!
芸人のツッコミみたいな事を言いながら部屋に勢いよくリリベルが入る。
部屋に飾ってあったオブジェが少し崩れた。
「ア、四天王さまコンニチハ。」
「こんにちはじゃないわよ! はい、タカト回収。」
そう言いながらベッドに横たわる俺を引きずり下ろしリリベルが小脇に抱える。
「ぐぇ、今日は何の用事があるの?」
「今晩宮殿に忍び込むって言ってたじゃない。お宝の話。」
「あーそうだっけ。」
俺は記憶をたどり約束を思い出す。
部屋を出て、魔女の森までふよふよ運ばれながら。
◆◆◆
西の砂漠地帯に近い、乾燥した気候の国「ウー」。
アラビアンな建物が並ぶこの国に、俺とリリベルは来ていた。
「さて、そろそろ草木も眠るいい時間ね。」
時刻は深夜。
すでに国の中心部の首都まで潜入することが出来ていた。
首都とは言え技術レベルのせいかあまり高い建物は多くないが、ひと際目立つ高い壁がある。
この国の重要施設であり今回の目的地である、宮殿の防御壁だ。
その上に俺たちは立っている。
「ところでこの格好は何なんだよ。」
俺は自分とリリベルの格好を指摘する。
体のラインがわかるピチピチのボディスーツ。
首にはスカーフ。
俺は道具が入ったリュックを装備しているが、リリベルは軽装だ。
リリベルは長い髪を二つの三角形のお団子にまとめ、ぱっと見ネコ娘みたいだ。
みーつめる猫目、みたいな。
「お宝を盗むといえばこの格好じゃない。何か変?」
「どこの世界の常識だよ。」
俺のイメージがこの世界に流れ込み常識として定着して……
あるいはこの世界が地球と何か関係があり……
と、深読みして考察しようと思ったが心底どうでもいいのでやめた。
宮殿の一角に、古代兵器が集められている場所があるという。
この世界の古代文明、つまりモンスター達の先祖が残した遺産。
それを人間たちに奪われ、使われるくらいなら破壊せよという意見があった。
しかし貴重なお宝。戦争で失われては勿体無い。
そこで俺とリリベルが名乗りを上げた。
今回の作戦は宮殿へ忍び込み、お宝をゲットしてこようという内容だ。
「あのラインから魔力探知が働くわよ。このスーツで魔力を抑えて……
あ、タカトは魔力無いんだっけ?」
ププスーっと笑われる俺。
確かに、未だに俺のMP基準値はゼロだ。
「はいはい、じゃあそこまでは認識阻害魔法お願いしますよっと。」
「何よつまんない。」
リリベルの認識阻害魔法を受け、見周りがうろつく宮殿敷地内に侵入する。
魔力探知が機能するエリアまでたどり着くと、俺らは物陰に隠れた。
魔法で起動するような術や道具は使わず、自分の足で宮殿外壁まで向かう。
見回りがいないことと、監視カメラの死角は事前の調査で確認済みだ。
「あそこが通気口だろ? どうする。」
物陰に隠れながら、宮殿外壁の高いところにある穴を指差す。
壁は真っ白なコンクリートのような素材だ。
魔法無しでどう登るか。
「フフ、毎度おなじみ便利屋のシロ団長が作ってくれたじゃない。」
リリベルが俺のリュックの中を探す。
今回は魔法が使えないため、俺が便利道具を運ぶ役目だ。
中には何度お世話になっただろうか、彩魔術団長のひみつ道具が。
「じゃん! 《伸縮自在鉤爪》~! このツメを引っ掛けて登るわ!」
一見、ただのロープに鉤爪がついたものに見える。
しかしこれは魔力を使わずにロープ部分が伸縮するすごい道具だ。
リリベルはカウボーイのようにぐるぐる回し、通気口まで飛ばす。
「まって、全然引っかからないんだけど!」
うまく通気口まで届いてはるものの、鉤爪の向きが悪くて引っかからない。
よくよく考えるとこの動作、かなりスキルが必要だ。
「ちょっと貸してみて、よっと!」
俺もチャレンジしてみる。
ガキッ!
「おお! 一発で出来たよ!」
「タカトすごい! こんな無駄な才能があったなんて!」
リリベルを睨む。
今日はなんか毒舌な気がする。
「……じゃあ行こう。魔力を使わない光学迷彩マントを忘れないようにな。」
「ええ。あの高さじゃ目立つものね。」
リリベルがロープを手にぐるぐる巻き、俺もロープを掴む。
さらに彼女にぎゅっと抱きつく。
「さあ行こう!」
シュルルルル……
――――ロープだけが縮んでいった。
若干想像はしていたが、ちょっとおもしろくて笑ってしまう。
「おいww離すなよwww 握力弱っわwww」
「無理無理無理! 二人分の体重をあのロープで支えるとか無理よ!」
通気口には鉤爪と短いロープだけがぶら下がっている。
魔力が無いとこの魔女、ポンコツだ。
「じゃあこれを使おう。《何でもスッポン》~!」
俺はリュックから同じアイテムを数本取り出す。
トイレが詰まったときに使うような、棒の先にカップのついたアイテム。
これは[アルビノマラゴン]という洞窟に住むドラゴンの鱗を利用している。
ドラゴンは洞窟の天井を這い回るため、鱗には強力な吸着力がある。
魔力を発生させずに使える便利道具だ。
「これを壁に付けていって、ハシゴみたいにして登っていこう。」
「えー、スマートじゃない。」
「誰のせいだよ!」
こうして大量のスッポンを壁に付け、通気口まで登ることが出来た。
◆◆◆
「ああ待って、こっちじゃないかも。バックバック。」
「ギュムっ、ぷはぁ。またか。後ろ向きにハイハイって難しいぞ。」
狭い通気口を進む俺たち。
何故かリリベルが前。
道案内をしたいそうだが、さっきから間違っている。
彼女が急に止まるたびに俺の顔が彼女の尻に埋もれる。
「あった、ここね。ここの通気口見て。」
たどり着いた通気口の出口。
下に向かって穴があり、鉄格子がはめられている。
なんとか姿勢を変えて二人で覗き込む。
そこは長い廊下の先の、大きい扉の前だった。
通気口は扉から数メートル離れた距離の天井にあるようだった。
「あいつ邪魔ね。」
扉の前には一人、見張り兵がいる。
通気口に顔を近づけ、覗き込み角度を変える。顔を確認する。
「兜はかぶっていないわね。だったらこれが使えるかも。」
ヒソヒソ喋りながら、リリベルはリュックを探す。
「《麻痺茸吹き矢》~!」
彼女は長い筒を取り出す。
強力な麻痺効果のあるキノコが練り込まれた吹き矢。
これで見張り兵を麻痺らせ、その隙に扉の奥に侵入しようという作戦だ。
「出来るの?」
「ええ、見てなさい。」
通気口の隙間から筒を出す彼女。
深夜でぼーっとしてるのか、見張り兵は気が付かない。
フッ!! ……ポトッ
「「~~~!!!」」
声を出さないよう二人して笑いをこらえる。
吹き矢の針は一メートルも行かずに地面に落ちてしまった。
「クッソwww 肺活量www」
「だって! だって! ぷっっふふふふふw」
さすがに見張り兵が異変に気づく。
通気口のそばまで寄ってきた。
「やばい、来たよ!」
「よしこれで!」
俺はリュックからスプレーを取り出す。
落ちた針を拾い、天井を見上げた見張り兵の顔にスプレーを吹きかけた。
プシューーー!! ……ドサッ
見張り兵が倒れた。
これは《睡眠茸スプレー》。強力な睡眠ガスを出す。
「ほら、顔を近づけてもらったあたしのおかげね!」
「あ、ああ。ソウダネ。」
他の見張り兵が来ないことを確認しつつ、通気口を出る。
急いで鍵をこじ開け、扉の中に入っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます