次元を超えた存在の倒し方


――――――……

「今日は集まってくれてありがとうー!!」


 うおおおおお!!っと盛り上がる魔界のライブ会場。

 会場は超満員。

 今日は会場の予定を変更し、アイドルたちの臨時ライブが開催された。

 血まみれの修道女アイドルユニットBSS|(ブラッディー・シスター・シスターズ)がステージで喋る。


「歌を始める前に今日はねー、何とスペシャルゲストが来ています!

この方です、どうぞ!」


 修道女アイドルがステージ横に手を伸ばす。

 そこから登場したのは――


「私だ。今日は皆に頼みたいことがある。」


 半分の客が絶句。半分の客が狂乱。

 現れたのは真っ白い修道服に身を包んだ、四天王リリベルだった。

 いつもの黒いドレスではないので、ギャップが凄まじい。半分の客は隠れファンか。

 ただ胸囲がありすぎるため、修道服があまり似合わない。


「皆の者、今日だけの願いがある。よく聞いてくれ。

今となっては廃教してしまった『奇跡の女神・アイラ教』への入信を頼みたい。」


 四天王の突然のお願いに、会場がざわつく。


「みんなー、私達からもお願い!」

「私達も今日だけはアイラ教信者になるの!」


 バサッと来ている服を脱ぐアイドルたち。

 するといつもの血まみれ修道服ではなく、真っ白な修道服になった。


「で、でもアイラ教は魔王軍に敵対する宗教じゃ……」


 客のモンスターが意見を出す。

 それに答えるリリベル。


「確かに前まではそうだった。

しかし人間共に裏切られアイラ教が滅びると、女神は人間に恨みを持つようになったのだ。

直接アイラ様に会った勇者討伐団の団長が言っていたから間違いない。」


 いや、恨んではいなかったかもしれないけど。

 ただあの絶望した顔は今でも忘れられない。


「だから今は魔王軍の味方なの!」

「アイラ様がいれば本当に魔界を救ってくれるのよ!」


 そう。

 アイラ教が復活すれば魔界が救われる。

 それは本当だ。


「みなさん、アイラ教に入ってください!」

「一緒に叫んでください!」


「「アイラ様、アイラ様、我々をお救いください!」」


 不信感を持つ客モンスター。

 しかし一部の熱狂的なファンがリピートする。


「アイラ様、アイラ様、我々をお救いください!

お前ら! BSSは俺らにとって女神様みたいなもんだろ!

その女神がさらに女神を崇めてる、だったら俺らの行動は一つだ!」


「……そうだな。アイラ様、アイラ様、我々をお救いください!」


「「「アイラ様、アイラ様、我々をお救いください!」」」


 どんどんリピートする客が増えていく。

 リリベルもそれに続いた。


「アイラ様、アイラ様、我々を、タカトをお救いください!」

――――――……



 テレパシー魔法で一部始終を聞く俺。

 しかしそれどころではなかった。


「君の、攻撃は、僕からしたら、一方向なんだよ。」


 次元の勇者が俺の周囲様々な方向から現れては消え、喋る。

 さっきの状況とは逆で、俺の方が身動き取れなくなっていた。


「うわっと……おっと!」


 触られたら最後、千切られてしまう。

 彼が手を伸ばしてくる方向を察知し、必死に避けた。


「さあ、いつまで、保つかな。」


 まずい、体力も尽きてきた。

 まだなのかリリベル。


「僕には、上も下も関係ない。」


 突然周囲から消えたと思ったら、勇者が頭上から現れた。

 ギリギリで察知し、彼の手を避ける。

 避けた反動で俺は倒れてしまった。


「いてっ、うわあ!」


 地面から現われる勇者。

 触られる……くらいなら!


「ステータス! ごふっ!」


 ステータス画面を自分に思い切りぶつける。

 その反動で少し飛ばされる俺。

 けっこう痛い。


「だいぶ疲れてきたみたいだね。終わりだよ。」


 勇者が正面から歩み寄ってくる。

 どうする、どうかわす。

 まだなのか。アイラ教復活はまだなのか。

 リリベル、みんな、俺を救ってくれ。


『アイラ様、アイラ様、我々をお救いください!』


「アイラ様――また俺に笑顔を見せてくれよ!!」



ピコン



【★お知らせ★】

 奇跡の女神・アイラ教が復活しました


「あー! あー! 待ってストーーップ!!」


「ん?」


 俺が叫んだことで、次元の勇者が止まる。

 体勢を整えながら彼に向かって提案する俺。


「ちょっと待ってくれ、やめよう不毛な戦いは。」


「不毛って、君が攻撃してきたんじゃないか。」


「そうだけど……これを見てほしいんだ。ステータス・オープン!」


 俺は二メートル四方の大きなステータスを展開。

 しかし何も情報が記載されていない。


「ほら、何かに気づかない?」


「何かに、とは……ん? この先は!」


「そう。このステータス画面は『女神の空間』に繋がっている。」


 このバグったステータス画面は、女神のいた「世界と世界の狭間」で開きっぱなしらしい。

 だからバグっている。

 彼なら、女神が復活したことにより俺のステータスを架け橋に女神空間を認知出来る――はず。

 しかし認知してもらうのが目的では無い。


「お前の能力でこれを『女神空間へのゲート』に出来ないか?

二人で女神に会いに行こう。そしてもっと面白い世界に飛ばしてもらおうぜ!」


 本当に別の世界に行けるかはわからない。

 ただ「女神を復活させてコンタクトを取る」という作戦は前から考えていた。

 今回、この次元を超えた相手への対策として利用する。

 乗ってくれるか?


「……いいね面白い! 君は本当に面白いよ!」


「よし、じゃあお願い!」


 ステータス画面の中心を触る勇者。

 俺のステータス画面が、空間の穴になった。


「行こう! 女神空間へ!」


 俺ら二人は空間の穴に飛び込んだ。



◆◆◆



 何もない、真っ暗な空間。

 俺たちだけにスポットライトが当たってるように明るい。


「お久しぶりです。タカトさん、ケンジさん。」


 後ろを振り返ると、そこには長い金髪の女神様が立っていた。


「久しぶり。アイラ様。」


「女神様!」


 女神を見るなり、近づく次元の勇者。


「はい、何でしょう。」


「女神様、僕を他の世界へ飛ばすことは出来ますか?

貴女から貰ったこの能力には感謝していますが、この世界は狭すぎます。

もっと広い世界に行きたいんです。

そうですね……例えば宇宙、SF!

僕はロボットに乗ってみたいんです。どうせならそんな世界を救いたい。

あ、でもこの能力はこのままでお願いしたいんですが……」


 彼女の手を握り、グイグイ説明する勇者。

 女神が答える。


「はい。私の与えた能力で困らせてしまって申し訳ありません。

しかし……その提案は答えられません。」


「そうですか……やはり別世界へは送れないということですか。」


「それもありマスガ、私の力がもうありマセン、もう、維持しテられナ……」



ゴゴゴゴゴ……



 女神空間に地響きが起こる。

 そして空間に亀裂が入りだした。


「何ッ? これはいったい!」



――――――……

「はい! アイラ教終了!!」


 いきなりリリベルが宣言する。


「アイラ様、アイラ様、我々えええええ!?」


 モンスター達が戸惑う。


「皆の者! 協力感謝する! アイラ教のことは一旦忘れてくれ!

替わりにこの後のライブは魔王軍が支援する。ドリンクも飲み放題だ。」


 うおおおおおおっと盛り上がる。

 そのままアイドルBSSの曲が流れ、ライブが開始された。

 客モンスターの頭から、アイラ教はすでに飛んでいった。


「うまくやったようだな、タカト。」

――――――……



「おい! 君、これはどういうことなん――」


「ヒサシブリ。アイラサマ。」


 俺の義体をゆさぶる次元の勇者。

 しかし接続が切れているため、同じ言葉しか喋らない。


「何だ……何なんだよ!!」


「タカトさん、聞こえているナラ……ありがトウ。

一瞬でも信仰を与えてくれて、私を思い出してくれて、とても嬉しいデス。

そして……さようナ」


 泣きながら、笑顔で消えていく女神。


「女神様! くっ……これは何かの罠にはめられたという事か。

しょうがない、一度前の世界に戻るしか――――無い。架け橋がない!!」


 彼の説明通り、漫画で例えるなら。

 漫画「剣と魔法の世界」から漫画「女神空間」へジャンプしてきた勇者。

 戻ろうとしても俺がいないので「ステータス画面の架け橋」が無い。

 漫画「剣と魔法の世界」は本棚へ片付けられたのか。彼は見つけることが出来ない。


「嫌だ! このままここにいたら*%○+※△@!!」


 次元が違いすぎて、もう彼の言語を理解できない。

 漫画「女神空間」は燃やされようとしている。

 しかし彼に逃げ場はない。


「誰か、誰か助――」


「さようなら、次元の勇者さん。」


 ステータス画面で女神空間を見ていたが、接続が切れた。

 その後、彼がどうなったかは知らない。

 こうして次元の勇者をこの世界から排除することに成功した。


 ちなみに俺は疲労でバードマンに運ばれたけど、BSSのライブ行きたかったな。

 リリベルの修道服、見てみたかった。




VS 次元の勇者 おわり



異次元を認識できる能力者の倒し方:

異世界へ閉じ込める。

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