フォースウォール


 後日。魔王軍南方拠点。

 この世界の南には広大な砂漠大陸が存在する。

 そこのオアシスを魔王軍が占拠。

 もともと過酷な環境で人間達は近づかないため、砂漠はモンスターの楽園だった。


「ほ……本当に現れました! 異世界勇者です!」


 砂漠を普通に歩いてくる勇者。

 暑くないのか。

 俺とリリベルは拠点の監視室で状況を見守る。


 次元の勇者が宣戦布告したあの後、俺らは南方拠点に連絡を入れた。

 南方拠点では緊急会議が行われ、勇者に対する武装を固めた。

 制圧しても砂漠しか無いため人間に攻め落とされる心配が少ない、砂漠の拠点。

 そこが落とされようとしている。

 なんのために? どう対策すれば? 正直分からないことだらけだ。


「だめです、あの巨大な[砂漠大蟲]ですら攻撃が通りません!

こちらにまっすぐ向かってきます!」


 トカゲ男の兵隊が状況を説明してくれる。

 [砂漠大蟲]は高層マンション並みの太さがある巨大ミミズだ。

 攻撃をかわすでもなく通らないとは、どういう能力なんだ。


「あいつめ……本当に現れるとは。どんな能力だ?」


 リリベルが質問してくる。

 俺は監視映像を見ながら、もう一度ステータスを確認する。


【[次元の勇者 ケンジ]詳細】

 三次元の一つ上、四次元を認識できる。

 そのため三次元で起こる全ての現象を四次元から観察・関与出来る。


「んー、なるほどわからん。

とにかく攻撃は全く当たらない、常識の通じないやつだと思うしか無いな。」


 勇者が拠点の内部に侵入。

 並み居るモンスターをちぎっては投げ、ちぎっては投げ……

 本当に千切っている。

 武器も使わず、まるで紙を破るようにモンスターを切断していく。

 そのままボスの部屋までたどり着いてしまった。


「よし、こうなったら俺が直接聞いてくる!」


「ええ、行ってきなさい。」


「……お前はデスクワークだろって止めないの? リリベル。」


「四天王より団長が先に行くものではないのか?」


 目線を合わせないリリベル。

 こいつめ。

 とりあえず俺はボスの部屋まで向かった。



◆◆◆



「貴様、なかなかやるようではないか。

だが拙者に会ったが最後、貴様を地獄へ落としてやるわ!」


「あー、[オーガの鬼将軍]さんストップストップ。」


 ボスの部屋で戦おうとしているオーガの武将にストップをかけた。

 将軍は振り上げた刀の行き場に困る。

 将軍と対峙している次元の勇者は、俺に目が合うと不敵に笑った。


「そうか君はやはり……魔王軍だったんだね。」


 勇者に君って言われてるけど、俺より年下だろこいつ。


「そう。魔王軍で団長をやらせてもらってるんだ。まあその何だ、座れよ。」


 ステータスポリゴン、モデル:普通の椅子。

 相手の背後に組み立てた。

 俺も自分用を組み立てる。

 武将さんには上司命令で退却してもらった。


「この椅子の素材……この世界から少しずれているね。」


 椅子に座りながら、背もたれを確認する勇者。


「やっぱりわかるのか。不思議な能力だねー。

なあ、もしよかったら、この世界がつまらないって言った理由を聞かせてくれない?」


「ふーむ……そうだね、話そうか。」


 少し考えたみたいだが、勇者は足を組み説明してくれた。


「僕が女神から授かった能力は、"ひとつ上の次元に干渉出来る"能力なんだ。

って言っても伝わらないと思うけどね。この概念を伝えるのは難しいな。」


 何かバカにされてる気がする。


「例えば、僕は漫画の世界へ自由に出入りできる能力者だとする。

中に入っている状態で、漫画のキャラが炎の矢を飛ばしてきた。君ならどうする?」


「え? そうだな、漫画から出る……とか。」


「そう。横に逃げるでも下に避けるでもない。"漫画を読んでる側"に逃げるんだ。」


「はぁ、なるほど?」


「漫画の上でどれだけ攻撃されても、それは漫画上での出来事だということさ。

紙の上だと思えば熱くも無いし、縛られてもスカスカだ。

紙を折りたためば遠い地でも一歩で歩ける。」


「あ! わかったぞ。アメコミで言う"第四の壁"みたいなものか。

漫画を見てる人に語りかけるやつだ。」


「この世界が漫画の世界と言っている訳ではないけどね。

その二次元と三次元の違いが、僕の四次元を認識する感覚に近いということさ。」


「じゃあ四次元を認識できる君にしたら、俺らなんて平面上を移動する絵みたいな物?」


「そう。だからこの世界がつまらないんだ。すべての物事が低次元に感じてしまう。

人間と魔族の戦争もね。」


 これはまた厄介な能力を与えたな女神よぉ。

 マジでこの次元をぶっ飛ばす能力なんじゃないだろうか。


「じゃ、話も終わったので先に進むよ。

この拠点のワープポータルを破壊したらクリアだったね。」


「そんな条件いつ設定したんだよ、ちょっと待ってくれ」



バ キ ッ



 勇者が地面に両手を置き、両開きドアを開くような感じで手を動かす。

 それだけで……ちょっとした城くらいある南方拠点の建物が真っ二つになってしまった。

 ペンギン村のロボットかこいつは。


「あった、あれだね。」


 ワープポータルを制御する巨大なクリスタルが顕になってしまった。

 勇者が近づいていく。


「て、撤退だ! みんな魔界へ撤退しろ―!」



バリィィン!!



 勇者がクリスタルを触っただけで割れてしまった。

 これでこの地域のモンスターは魔界へ帰れなくなってしまった。


「さて、次は東方拠点かな。早くこの物語を終わらせよう。」


 勇者の方を振り向き、警戒する。

 しかし声は聞こえても姿が見えない。

 手も足も出せず逃してしまった。



◆◆◆



「つ、強さの次元が違いすぎますね。」


 ひきつった表情で映像を見る[バードマン隊長]。

 あれから三日後、ここは東方拠点。前にも来たことがある。


「だろ? だからいざとなったら逃げるよう指示してくれ。

それまでは全力で撃つようにお願い。」


 撃つ、つまり攻撃をするという事。

 東方拠点のモンスターたちには、勇者が現れた瞬間に遠距離射撃するようお願いした。

 それで足止めしてもらう。


「でもこれで足止めになるんでしょうか?」


「さあ……でも足止めしないといけない理由があるからさ。

不毛な戦いになるかもしれないけど、よろしく頼めるかい?」


「……はっ! かしこまりました!」


 一つ上の次元を認識できる相手。

 そんな神のような相手に足止めが出来るとは思えない。

 でも何もせずに殺られるわけにはいかない。


 実は、次元の勇者と出会う前から考えていた作戦がある。

 その作戦を応用すれば奴を封じ込める事が出来るかもしれない。

 ここに来る前にリリベルへは説明済みだ。


「隊長! 勇者が現れました!!」


 部下のバードマンが報告に来る。

 よし、作戦開始。




「ん? なんだこれは。」


 東方拠点までのんびり歩く次元の勇者。

 そこに矢や投石、ビームや毒爆弾まで様々なものが飛んでくる。

 しかし勇者には何一つ当たらない。


「僕に攻撃は効かないって言ったのに、理解してなかったのかな。」


 いや、当たっているのにまるで効いていない。

 大砲の弾も紙くずが当たるようにクシャッと潰れて終わりだ。

 まあダメだろうな。

 しょうがない、もう俺が行こう。


「全軍打ち方やめー!!」


 攻撃がピタッと止まる。

 俺はステータス画面をサーフボードのようにして乗り、勇者の元へ向かった。

 勇者はすでに東方拠点の門から50メートルほどの距離まで来ていた。


「また君か。」


「また俺だ。」


 勇者と向かい合う俺。


「今日はお前を……倒しに来た。」


「へぇ、面白い。」


「ステータスポリゴン、モデル:黒剣!」


 手元にステータス画面をつなぎ合わせた簡易的な剣を形成。

 相手を切りに行く。


「オラァ!」


「おっと!」


 相手が避ける。

 この世界の材質ではない俺のステータス画面、攻撃として有効なのか?


「君の能力はこの次元からはみ出している。

そうだな……漫画からカミソリが生えたような。ちょっと危ないね。」


「それはちょっとってレベルかよ!」


 勇者のサイドに回り込み、攻撃を仕掛ける。

 この前見た殺し屋の動きを真似る。

 ただ少しでも触られたら終わりだ。



バ ガ ッ



 勇者が俺をつかもうと、手を伸ばす。

 それをかわすと地面が大きく割れた。


「ふふ、やっぱり宣戦布告して良かったよ。君みたいな人に会えるとはね。」


 勇者が低姿勢になり、構える。

 本気で来たら対応しきれないかもしれない。

 早く。

 早くしてくれ、リリベル。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る