殺し屋の倒し方?


「くっそォ、ステータスポリゴン! モデル:空中機靴エアーギア!」


 俺は靴にステータス画面をかぶせ、スケートシューズのように形成した。

 その靴を操作し、スケートのように滑って逃げる。

 相手との距離をキープした。


「はぁ、はぁ。」


「ほう、特殊な技能は持っていないと思ったが……解析出来ない魔法もあるという訳か。」


 相手が懐に手を入れ、カードを何枚か取り出す。

 おそらく全てに魔法陣が描かれているだろう。

 カードの射程距離はそこまで遠くないはず。

 俺は相手の動きに集中した。


「ちょっと待て、何で俺を殺そうとする?」


 ステータスの靴で横滑りしながら質問をする。

 勝手に動く靴に足が持っていかれないよう姿勢を保つ。

 足の筋肉が悲鳴を上げている。

 でもこうでもしないと逃げられない。

 相手は本物の殺し屋だ。

 殺し屋が顔を少し上げ、俺の目を見ながら質問を投げ返す。


「君も知っているんだろう。この世界のこと。」


「この世界……何を?」


「異世界から召喚された人間が、世界の均衡を崩しているという事実だ。」


 そうか、こいつも情報系能力者。

 この世界の成り立ちを知ってるってわけか。

 殺し屋が続ける。


「我々はこの世界の腫瘍とも言える存在だ。ここに住む者たちもそれに気づいている。

私はその事実を知ったとき、失望してしまったが……

私は過去にそのような"世界に不要とされる人物"を排除していた経験がある。

これは神の御導きである。そう思わないか?」


「お、俺だって同じ事を考えてるよ! 今まで異世界転生勇者を倒してきた!

目的が同じなら魔王軍に入らないか?」


「魔王軍? 何を言ってるんだ。我々が仕えるべき存在は違うだろう。」


「つ、仕えるべき存在……?」


 殺し屋が自分のシャツの首元から手を入れ、ネックレスを引っ張り出す。

 ……金色の十字架だ。


「神だ。主はきっと、この世界も救ってくださるだろう。」


 あーなるほど。そうかそういう人種か。

 これだけ異世界人が転生してくるんだったら、宗教家も紛れるよね。

 行動原理はわかった。そういう人もいるよね。


「では、君は私が救ってあげよう。」


「す、救う?」


「そう。異世界に迷い込んだ魂は、ここで浄化されるべきである。」


 いや結局殺すんかい!

 まあ、実際俺らは亡霊のようなものだから、エクソシストみたいな感じか?

 だとしても周りが見えていないというか、盲信者というか……あ。

 俺も同じことしてたわ。奇遇だね。


「さて、話は終わりだ。そろそろ起爆する頃かな。」


「え?」


 起爆という言葉の意味を理解する直前に、足元の魔法陣が爆発する。



ドゴドゴォォォン!



 いつのまに設置していたのか。

 完全にガードが遅れた。

 それでもステータスを複数枚広げ、爆風を少しでも和らげようとした。

 なんとか直撃はしなかったが、俺はふっとばされる。


「ステータス! がはっ!」


 ステータス画面を背中に出し、衝撃を受け流す。

 足には火傷を負ってしまった。


「あぁぁっ熱っつ! 熱いぃ、くそぉ!!」


 地面でもがく俺。

 しまった、回復魔法なんて使えないし回復アイテムもすぐ取り出せない。

 殺し屋がナイフを逆手に持ち、近づいてくる。

 よく見るとあちこちの地面に模様が描かれている。魔法陣か?

 地面だけじゃない。彼の長いコートにも魔法陣が見える。

 彼は魔法陣使いでもあるのか。

 そうか、だからこの部屋の鍵も解けて侵入出来たんだな。

 


 そこで問題だ。この火傷した足でどうやってあの攻撃をかわすか?

 三択からひとつだけ選びなさい

 答え①ハンサムのタカトは突如反撃のアイデアがひらめく

 答え②仲間がきて助けてくれる

 答え③かわせない。現実は非情である。


 ①はチート能力も無ければ、攻撃魔道具も使いこなせない俺には無理だ。

 ②リリベルが扉を開けて助けてくれるかもしれない。しかし間に合うか。

 つまり。

 答え……③か……


 ――って、こんなことを考えてる場合じゃない。

 走馬灯のように俺の頭を駆け巡るのが漫画のネタかよ。

 本当俺って大事な時に……

 漫画……

 奇妙な冒険……



 !!



 ……そうか。

 漫画好きでよかった。

 傍に立つ、スタンドバイミー。

 やるしかないじゃあないか。


 ①をよォッッ!!


「オラァ!!」


 近づいてきた殺し屋の前に、謎の人物が突如出現する。

 思わぬ光景に驚いた殺し屋を、その人型が殴る。



ドゴォ!



「グッ、何だそいつは!」


 咄嗟にガードされたが、ダメージは入ったようだ。


「ステータスポリゴン、モデル:仮想格闘家バーチャルファイター

お前がどんな理想を掲げてるか知らないが、俺は自分の道を突き進む!」


 ポリゴン数1000オーバー。

 昔のゲーム機に出てくる3D格闘ゲームキャラのような、ポリゴンキャラを作り出した。

 この数のステータス画面を動かすため激しい頭痛に襲われる。

 まるで米粒に書かれた小説を虫眼鏡で読むような、神経の集中と情報量。

 感覚で全体の動きをまとめ上げ、各所の操作も的確なタイミングで行わなければならない。


「情報が表示されない魔法攻撃か……しかし。」


 殺し屋が走り、大きく旋回して本体の俺に対し攻撃しようとする。

 そこを仮想格闘家が人間には出来ない動きで回り込み、裏拳を決める。

 予測できなかった殺し屋は吹き飛ばされる。


「何だ……攻撃の精度が上がっている。」


 よろけながら立ち上がる。

 彼がまた距離を取ろうとしたところを、格闘家が素早く接近。

 距離を詰め、連続攻撃を入れる。


「小パンチ、小パンチ、膝蹴り、空中飛んだら対空技!」


 先ほどとは違い、殺し屋は防戦一方。

 俺は思った以上に格闘家を操作できた。


 元の世界で会社員をしていた俺は、格闘技経験なんて無い。

 だから命をかけた戦いにおいても、咄嗟の判断なんて出来っこない。

 しかし。

 俺がステータス画面を操作する方法は、イメージ。

 そのイメージが一番つきやすい方法……格闘ゲームキャラクター。

 格ゲーであれば(キャラの)命をかけた戦いは何度もしてきた。

 思い出せ。あの頃ゲーセンで鍛えた感覚を!


「グッ……まさかこれほどとは……」



ドォォン!



 仮想格闘家の足元が爆発する。

 しかし元々ステータス画面である彼には攻撃が効かないし怯みもしない。

 そのまま足を振り回しながら空中を水平回転した。


「ぶっ飛べッ!!」



ドゴォ!



「ガハァッ!」


 ついに殺し屋の腹部に思い切りヒット。

 彼を壁に叩きつけた。


「今だッ! ステータス!」


 小型ステータス画面を飛ばし、相手の服を壁に貼り付ける。

 そして格闘家と共に素早く近づく。

 限界以上のステータスを展開したため、鼻血が止まらない。

 これで倒れてくれないと俺が死ぬ。


「くらえッ! オラオラオラオラァ!」



ドゴドゴドゴドゴドゴ!!



 格闘家が連続でパンチを食らわせる。

 コートに仕込んだ魔法陣で魔法障壁を貼っていたが、それすらも叩き壊す。

 次第に顔の形や体の形が歪んでくる。

 頑丈なダンジョンの壁もボコボコに凹んでいる。


「オラァ!」



グシャッ!



 殺し屋の顔面が潰れ、彼は糸の切れた人形のように下にズルズルと倒れていった。

 それを見るか見ないかのところで、俺も限界。

 仮想格闘家は消え、その場で倒れてしまった。



◆◆◆



「ちゅー、ちゅー。あれ、出なくなったわね。」


 気がついた時には。

 女の子の顔が超至近距離にあった。


「あれ……リリベルじゃない、どなた? ……ふがっ!」


 女の子が俺の鼻にかぶりつく。

 鼻の穴に舌を突っ込んでくる。

 何だこれ。しかも俺、膝枕されてるし。


「ふむ、もうは鼻血止まったのかしら?」


「鼻血……ずるっ、ああ、止まったみたいだね。」


 鼻をすすり確認してみる。

 さっきの戦いで出た鼻血は止まったみたいだ。

 この紫髪ショートカットの女の子、俺の血を吸っていた?

 まさか……


「えーっと、確か人間はえっちなことをすると鼻血が出るそうだな。

少し待っていなさい。今準備をしよう。」


 そう言って俺の服を脱がし始める女の子。

 昭和の漫画じゃないんだから出るわけ無いじゃんと言いたいが体が動かない。


「ちょっと待ったーー!!」



バゴォ!!



 扉の方から激しい音がした。

 リリベルが近づいてくる。


「助けを頼んだはずだけど? [夜王 アイリーン]。」


「もう片はついていたわよ、[絶望の七色ディスペアレインボウ リリベル]。」


 ゴゴゴゴと背景に描かれそうな空気が流れる。

 この二人、仲が悪いのか?


「まあ良いわ。また会いましょうね、タカト。」


「あいてっ」


 膝枕してる俺を乱暴に地面に下ろし、夜王と呼ばれた女の子は消えていった。


「ほんと、態度がでかいのは変わらないわね。」


 リリベルが腕を組み怒ってる。

 想像通り夜王は吸血鬼ヴァンパイアだった。

 リリベルが召喚魔法で呼んだらしい。

 扉の向こうに行けないため、コウモリになって隙間から入るよう命じたとの事だ。

 夜の王に命じるってのもすごいやつのか失礼なやつなのか。


「ウソだろ……」


 リリベルに回復魔法をかけてもらい、動けるようになった俺は驚愕する。

 [異世界の殺し屋 リュウジ]の装備品が無い。

 異世界勇者が死ぬと、肉体だけ消え服や装備は残るはずだ。

 持ち主が消えると消失するアイテムなのか。それとも生きていたのか。

 ステータスを見れない今では、確認しようがない。


「今日から怖くて寝れないぞ、これ。」


「大丈夫、私が守ってあげるから~」


「いてて!」


 完全回復してない状態で抱きつかれた。

 あちこち痛い。

 こうして[異世界の殺し屋 リュウジ]の討伐は不明なまま終了してしまった。


 ちなみにこのダンジョンに封印されていたお宝は、古代魔法陣の術式。

 古代だからと言ってすごい魔法ではなく、今となってはありきたりなもの。

 ただ理論組みが特殊だったため、彩魔術団長に見せると泣いて喜んでいた。

 その他の宝は触らずに、このダンジョンは魔王軍管轄で整備されることになった。




VS 異世界の殺し屋 おわり



なんか強い殺し屋の倒し方:

覚醒してなんとかする

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