きせきポリゴン


「あら? 広いところに出たわね。」


 ダンジョンの奥に行くと広い空間に出た。

 体育館くらいの広さで、壁が水晶の原石で出来ている。

 向こうにある出口と思われる場所の前に、ランプがぽつんと置いてある。


「あれは……罠だよな。ってリリベル!」


 いつのまにかランプに近づくリリベル。

 ランプを触ると中から青い体をした魔神が出てきた。

 アラビアンな物語に出てきそうな、下半身がランプに吸い込まれているガチムチ体型。

 魔神が低い声で喋りかけてくる。


「貴様ら、何をしにこの地へ立ち入った……」


「やっとまともに会話できそうなモンスターに会えたわね。

あなた、願い事でも叶えてくれるの?」


 まったく質問に答えないリリベル。

 もちろんランプの魔神は怒る。


「邪魔者は排除する。死ね。」



ピュン! ピュン!



 目からビームを出し、俺とリリベルを攻撃する魔神。

 会話はしてくれそうに無いか。


「どうするタカト。」


「殺さずに黙らせるしかないだろうな。」


「でもこの人けっこう強そうよ。相当な魔力量を感じるわ。」


 人って。魔神……魔人?

 ビームに動じず、会話をする俺とリリベル。

 相手は様々な方向から撃ってくるが、俺とリリベルのシールドはびくともしない。


「なかなかやるようだな。では私も本当の姿を見せよう! はぁぁぁあ!」


 ランプから抜け出し、人の形になったと思ったら四つん這いになる。

 そして段々と大きくなり、魔神の姿が変わっていく。

 巨大なイノシシのような姿に変化した。

 しかし。


「《ハイネスト・グラビティ》」


「グヌゥ!」


 リリベルの最上級重力魔法で、イノシシは膝をついてしまった。


「ちょっと話を聞いてくれないかな、魔人さん。」


「貴様らと話す理由はない! 侵入者共よ!」


 頑張って立ち上がろうとするイノシシ。

 生まれたての子鹿のように、短い足がプルプル震えている。


「じゃあ……しょうがない。ステータス・オープン、オープーーン!」


 俺は右手を上げ、ステータス画面を30枚以上空中に展開した。

 それらを長方形、正方形、など大小様々なサイズに変更。

 右手で操作するイメージで一箇所に纏める。

 角度を変えて組み合わせていき、ある一つの物体を作り上げる。


「ステータスポリゴン、モデル:鉄槌!」


 ステータス画面を組み合わせてできた、巨大なハンマーが空中に現れた。

 槌の部分がデカイ打ち出の小槌みたいな形だ。

 イノシシの魔人よりも大きい。

 ステータスウィンドウなので黒一色だが、形的に分かってくれるだろうか。

 それでも魔人は俺に向かって吠える。


「私はこのダンジョンの番人だ! そんなもので殺されるものか!!」


「話をしたいから殺さないよ。たくさん殴るだけ。」


「え?」



ドゴォ! ドゴォ! ドゴォ!



 巨大ハンマーを操作し、たくさん殴った。



◆◆◆



「はい、すみませんでした……」


 魔人は巨大なまま人型に戻り、正座をしている。

 俺とリリベルはステータスの椅子に座っている。

 ステータスポリゴン、モデル:普通の椅子。


「――で、遥か昔に魔術師達がある宝を封印するため、このダンジョンを作ったのね。」


「はい。そうです。」


 おとなしく答える魔人。

 魔人には現在の状況を伝えた。

 人類が世界を掌握したこと、魔王軍は他のダンジョンの魔族共々味方だということ。

 このダンジョンも人間に荒らされる前に保護したかったと伝えた。


「では宝を強奪したりダンジョンを潰そうとしているわけでは無いと言うことですね。」


「そういうこと。」


 魔人が理解してくれた。


「そうですか……実はこの先に行った人間が一人います。そいつの仲間かと思って……」


「え!?」


 俺は立ち上がった。

 ダンジョンを一人で攻略するなんて、もしかしてチート持ちか。


「ほう……お前は人間に倒されたということか。」


「いえ、倒されたというより、いつの間にかいなくなっていました。」


 いつの間にか?

 認識阻害か、精神操作か。

 いずれにしても厄介だ。

 魔人が不安そうな顔で説明する。


「奥に行ってからしばらく帰ってこないので死んだと思いますが。

でも何か嫌な予感がしまして……」


「よしわかった、先に進もうリリベル。」


「ええ。宝の横取りなんてさせないわ。」


「おい、話がややこしくなるからやめろ。」


 俺とリリベルはダンジョン最深部へ向かった。



◆◆◆



「んー? 開かないわねこれ。」


 このダンジョン、最後の扉の前。

 扉のロックに手こずるリリベルに対して、俺が質問する。


「魔術的な鍵がかかってるの?」


「ええ。いくつもの魔術が知恵の輪みたいに繋がってるわ。

これ考えた人頭おかしいわよ。」


 ステータス画面で状況を見てみる。

 扉の状況は出るが、解除方法までは出てこない。


「タカト、さっきの魔法で鍵作れないの?」


「魔法?」


「そう。ハンマーとかイスとか出してたじゃない。」


「あー、違う違う。あれはステータスウィンドウの応用だよ。

例えば画面を六枚出してつなぎ合わせるとサイコロの形になるでしょ?

で、そのサイコロを伸ばしたり繋げたりすると……」


 俺は手のひらにステータスポリゴン、モデル:蝶を作った。

 と言っても直方体の体に四角い羽を何枚か付けただけだけど。


「こんな感じで立体的な物を作ることが出来るんだよ。

簡単なものなら作れるけど、鍵は流石に無理かな。

俺が同時に出せる限界は千枚くらいだから、複雑なもの作ったら脳が爆発しちゃうわ。」


「へー、よく思いつくわね。」


「コンピュータ・グラフィック系の学校に行ってたからね。

絵は描けないけど3DCGを作るのは好きだったな。」


「?? そ、そう。」


 リリベルが首を傾げながら扉に手を触れる。

 鍵の解除を進めるようだ。


 俺も部屋の中で鍵を探す。

 ステータス画面を展開しながら、怪しいスイッチや隠しドアなど無いか調べた。

 すると。


「あ、やべ。」


「ちょっとタカト!」


 うっかり魔法陣を踏んでしまった。

 体が光りに包まれ、周囲の景色が変わっていく。

 ワープ系か? 幻覚系か?

 即死だけはやめてほしいが――



◆◆◆



「ここは……」


 真っ白い空間。いや、壁と天井が白い岩石で出来ている部屋だ。

 気がついた時、俺は部屋の真ん中に座っていた。


「大丈夫かい?」


 !?

 びっくりした。

 後ろから男性に声をかけられる。

 俺は慌てて立ち上がり、距離を取る。


「ああ、はい、大丈夫です! 急にここに飛ばされて……」


 男性は真っ黒いコートを着ていた。

 30代くらいの、オールバックの男性。

 ん? 彼の後ろに見覚えのある扉が。

 あれはリリベルが開けようとしていた扉。

 ってことはここは扉の向こう……この男は先に行ったという男か?


「ステータス……」



ガスッ!



「がっはぁ!」


 痛ったあ!!

 一瞬何が起こったか分からなかった。

 脇腹に激痛が走る。

 男性に脇腹を蹴られたようだ。

 それも人間の速さではなく。



ドタッ、ゴロゴロゴロ……ゴッ!



 数メートル飛ばされ、壁にぶち当たる俺。

 尋常じゃない速さで蹴られたが、骨は無事だ。

 どうやら異変に気づき加減されたらしい。


「ん……これは……」


 相手の足から血が流れる。

 間に合わなかったが、咄嗟に展開したステータス画面ガードが刺さったようだ。


「《ステータス確認》……やはり異世界勇者か。」


 男性の左目が青く燃える。何かの魔法か?

 ただ足に回復魔法を放っているのは確実だ。

 血が止まり、足も普通に動くか確認している。

 今のうちだ。


「ス、ステータスオープン……」


【[異世界の殺し屋 リュウジ]】

 レベル:73

 スキル:蒼い死の情報ブルースクリーン

 詳細:対象の問題点や弱点などを見ることが出来る。


 情報確認系、俺と同じような能力か。

 でも何だ、この威圧感。

 今までの異世界勇者とは違う……え、殺し屋?


【[異世界の殺し屋 リュウジ]説明】

 元いた世界での職業は「殺し屋」だった。

 裏社会で有名になりすぎた彼は、同業者に殺され転生してきた。


「ガチの殺し屋かよ! ってか危険人物を召喚するなよあの女神ィィ!!」


「ほう、君も他人の情報が読み取れるようだね。」


 回復魔法が終わったのか、殺し屋が構える。

 そして俺の方を睨んだ瞬間、猛スピードで俺に迫り来る。

 俺は急いで立ち上がり、ステータス画面を手裏剣のようにして投げつけた。

 しかし相手には当たらず。

 逆に殺し屋は俺の攻撃をかわしつつ、鉄製の串にも見える長い針を投げる。


「うおっ、あぶね!」


 俺はステータス画面でガード。


 さらに一ミリ四方の極小ステータス画面を多重展開。

 相手は気づかず動き回ると肉体に刺さるはず。

 しかしそれに気がついたのか、ある程度距離を取り横に移動する。

 俺は下手に動けず、ステータス画面を投げることしか出来ない。

 相手は素早く逆サイド、また逆サイドへ移動し、俺を錯乱させる。


「面白い能力だな。」


 そう言いながら様々な方向から針を投げてくる。

 ステータスでガードしていると、足元にカードが刺さった。


「何だこれ……魔法陣が!」



パァン!!



 耳が痛い。

 ギリギリで魔法陣にステータス画面をかぶせたが、爆発じゃなくスタン系の魔法だった。

 耳をおさえている俺の隙を伺い、極小ステータス画面を避けて近づいてくる殺し屋。


「うわぁ!」



ガン! カンッ!



 殺し屋がナイフで俺の首・心臓を同時に狙ってくる。

 逆に的確に狙ってくれるのでガードは出来た。


「ステータス!」


 ステータスオープンも言ってられない。

 ステータスの「ス」の発音時に画面を展開するイメージ。

 このステータス魔法はイメージで発動するので、無言で展開しにくいのが辛い所。

 それでも咄嗟に、相手方向に大量の小型画面をぶちまける事ができた。


「ムッ……」


 それらを冷静に判断し、後ろに下がる殺し屋。


 まずい、全く歯が立たない。

 画面のカッターで相手を追従すると、防御が疎かになる。

 俺を全身ステータス画面で覆うと……呼吸が出来なくなる。

 呼吸のために隙間を開けると……カードや細い針が飛んでくる。

 とにかく、少しでも多く考える時間を作るしか無い。

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